私を助けてよ
新作始めました!
詳しくは、あとがきをご覧くださいませ!
■ソフィア=マリー=ド=ベルガ視点
「そう……ご苦労様」
「はっ」
バルドベルク帝国に忍ばせている諜報員からの報告を受け、私はそっと目を閉じる。
西方諸国の中央に位置するこのベルガ王国は、吹けば飛ぶような小国。バルドベルク帝国のような大国に目を付けられれば、すぐに地図から消えてしまうような存在。
なのに私は、そんなこともお構いなしに帝国の皇太子であるルートヴィヒ=フォン=バルドベルクとの婚約を一方的に解消した。
……あの時のルートヴィヒ殿下の悲しみに満ちた瞳を思い出すと、今も胸が苦しくなる。
確かに見た目はオークのように醜く肥え太ってはいたけど、その瞳に宿した温かさのようなものを感じたのも事実。
あのまま婚約を受け入れ、彼と一緒になっていれば、私が幸せになれたのは間違いないと思う
でも……私は、彼を選ばなかった。いえ、選ぶことができなかった。
理由? そんなもの、決まっている。
私には、それ以外の選択肢がなかったのだから。
「ソフィア殿下……」
気づけば、トーマスの次にあてがわれた従者、“アイリス”が心配そうに私を見つめていた。
「ふふ……大丈夫、大丈夫よ……」
私は微笑みながら、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
そう……私は大丈夫。
あの御方に言われたとおりにすれば、私も……この国も、救われるんだもの。
だから、私の感情なんで……私の想いなんて何もいらない。
ただ、私が心に蓋をすれば、それだけでみんな幸せになれるのだから。
すると。
「ソフィア殿下、お館様からの手紙です」
「……そう」
やって来たもう一人の従者、“ロメル”が差し出した手紙を、私は表情を変えずに受け取る。
封を切り、手紙に目を通すと。
「……ふざけないで」
私は手紙を握りしめ、思わず呟いた。
手紙の内容は、ミネルヴァ聖教会の号令によりバルドベルク、ブリント、フォルクングをはじめとした列強国による『反イスタニア連合軍』が結成されたこと。
いや、これに関しては分かっていたことだし、ベルガ王国として参加を拒否したのだから既定路線であることは分かっている。
だけど。
「私達に『反バルドベルグ同盟』を結成して、バルドベルクに宣戦布告をしろってどういう意味なのよ!」
くしゃくしゃにした手紙を床に叩きつつけ、私はヒステリックに叫んだ。
こんなの……こんなの、ベルガ王国に亡べって言っているようなものじゃない!
「ねえどうして! 私達はずっと、あの御方の指示どおりにしてきたじゃない! 恨まれても、蔑まれても、この手を汚してまで従ってきたのに!」
「これが、お館様のご指示ですので」
「っ!」
抑揚のない声で冷たく言い放つロメルを、私は殺気を込めて睨みつける。
これじゃ……これじゃ、私達は何のために言いなりになってきたのよ……っ。
「既にイスタニア魔導王国、ピアスト王国、そしてルーシ帝国には通達済みです。あとは、ベルガ王国が行動するだけです」
「簡単に言わないでよ! あの三国は西方諸国でも列強国だからいいわよ! 私達は……私達は、ちっぽけなの! そんなことをしたら、この国があ……っ」
あまりにも理不尽な要求に、私は悔しさと口惜しさで涙を零す。
これまであの御方の無理難題にも耐え続け、心無いことだって恥も外聞も忍んでやってきた。
その仕打ちがこれなの?
私達は所詮捨て駒で、無惨に亡びてしまえっていうの?
「……ご心配なく。お館様は、全てが終わった後にベルガ王国の再興も約束されておいでです」
「それを信じろと? 一方的に亡びるように命じておきながら、そんな口約束を守る保証がどこにあるというのよ!」
「なら、ベルガ王国はお館様と袂を分かつ……そういうことでよろしですね?」
「っ!?」
ロメルの雰囲気が変わり、殺気のこもった視線を向けてくる。
ああ……結局、バルドベルクに亡ぼされるか、あの御方に亡ぼされるか、そのどちらかしか選択肢は残されていないのね……。
「……分かったわよ。ベルガ王国は、バルドベルク帝国に宣戦布告するわ」
「っ!? ソフィア殿下!」
「殿下のご決断、お館様もさぞお喜びになられることでしょう」
声を荒げるアイリスとは対照的に、ロメルは恭しく一礼する。
だけど……このままで終わってたまるものですか。
「ただし」
「…………………………」
「どうせベルガ王国は亡びるのだから、もうあなたの監視は不要よ。今すぐ私の前から消えて。そして、二度と私の前に現れないで」
「……かしこまりました」
ロメルは一瞥もくれず、この部屋から出ていく。
ただ、その横顔から僅かばかりの怒りのようなものが窺えたから、ほんの少しくらいはやり返せたみたい。
「ソフィア殿下……本当に、よろしいのですか……?」
「……もう、後戻りはできないのなら、さっさと帝国と戦って、早々に敗れたほうがベルガ王国の被害は最小限で済むわ」
「で、ですが、あの帝国がベルガ王国をただ亡ぼして終わりにするとも思えません。むしろ、帝国に亡ぼされた後に悲惨な結果が待っているのでは……?」
アイリスの懸念も、もっともだわ。
ただでさえ私は、帝国に……いえ、ルートヴィヒ皇太子に酷いことをしてきたもの。
……せめて、酷い目に遭わされるのは、私だけにしてほしい。
私は、彼にそのような仕打ちを受けるだけのことをしてきたのだから。
「ふふ……大丈夫、私に任せて。だからあなたは、その時までゆっくりと休んでいてちょうだい」
「ソフィア殿下……」
私が微笑むと、アイリスは心配そうな表情を浮かべながらも、部屋を出て行った。
そして。
「誰か……ベルガを……私を助けてよ……っ」
震える身体を無理やり抱きしめ、私はその場でうずくまって慟哭した。
お読みいただき、ありがとうございました!
また、本日新作を開始しました!
かつて追放した仲間にざまぁされた職業[英雄(偽)]の俺ですが、死に戻ったら実は伝説の英雄も俺と同じ職業だと知りました〜二度目の人生は、最強の人々が住む街で大切な幼馴染と一緒に幸せに暮らします〜
追放ざまぁもの(ただし、ざまぁされる側が主人公)です!
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