反イスタニア連合軍、結成
「主ミネルヴァの名のもとに、西方諸国による連合軍の結成及びイスタニア包囲網を形成します」
「「「「「っ!?」」」」」
教皇から放たれた宣言に、今日一番のどよめきが起こった。
だけど、そうか……『醜いオークの逆襲』では、バルドベルク帝国に対して結成された連合軍が、今回はイスタニアに対して行われるなんてね。
とはいえ。
「ルイ様、いかがなさいますか……?」
「うん……」
さすがにこんな重要なことを、皇太子である僕の一存で決めるわけにはいかない。
まずは持ち帰って、オットー皇帝に相談しないと……って。
「ナ、ナタリアさん……?」
「こちら、バルドベルク帝国オットー皇帝陛下からの書簡です」
「皇帝陛下から!?」
いつの間にか僕の後ろにいたナタリアさんが恭しく一礼した後、封蝋された書簡を手渡してくれた。
僕は戸惑いつつ、封を開けて内容に目を通すと……っ!?
『皇太子ルートヴィヒ=フォン=バルドベルクに全権を委任する』
「こ、これ……」
「これは、私も驚きました……今日の内容や目的については、帝国にはあらかじめお伝えはしていましたが……」
思わず聖女を見るけど、どうやら彼女も内容までは知らなかったみたいだ。
でも、いくら僕が皇太子で溺愛しているとはいえ、皇帝はどうして僕にこんな権限を……?
「ルートヴィヒさん」
聖女が、サファイアの瞳で僕を見つめる。
青の輝きに、期待を込めて。
「責任重大、だね……」
僕の決断一つでバルドベルク帝国が戦争に巻き込まれるかもしれないと思うと、そのプレッシャーで押しつぶされそうになる。
でも。
「あなた様の思うままに」
「……ん、マスターにはウチがいる」
「イルゼ……カレン……」
そうだ。僕にはこんなにも支えてくれる人達がいる。
だから……僕は、躊躇する必要なんてない。
「我等バルドベルク帝国は、教皇猊下の提案に賛同し、連合軍に参加します」
僕は立ち上がり、高らかに宣言した。
でも、僕を知らない面々は、こちらを戸惑いの表情で見ている。
「……失礼。貴殿は……?」
僕の席のちょうど斜め前に座る、一人の男性がおずおずと尋ねてきた。
なら、僕は名乗ろう。
西方諸国中から忌み嫌われ、だけど、僕の大好きな女性が愛してくれた、この名前を。
「バルドベルク帝国皇太子、ルートヴィヒ=フォン=バルドベルク」
「「「「「っ!?」」」」」
あはは……やっぱり驚くよね。
まさか”醜いオーク“がこんな重要な会議の場に参加して、誰よりも先に連合軍への参加を表明したんだから。
でも……ひょっとしたら僕達が参加することで、他の西方諸国が参加に躊躇したらやだなあ……。
などと考えながら苦笑すると。
「我等ブリント連合王国も参加するぞ!」
「ボク達ガベロット海洋王国だって!」
「ハハ……もちろん、ボルゴニア王国もな」
僕に追随するように、オフィーリア、ジル先輩、ディニス国王が立ち上がった。
みんな……。
「……ふふ、あのバルドベルク帝国ですら、平和のために立つというのだ。なら、我がネーデリア王国も立たねばな」
「ふう……これでは、フランドル王国も黙っているわけにはいきませんね」
他の西方諸国も、微笑みながら次々と立ち上がる。
そんな各国の代表が僕へ向けるまなざしは、とても温かく、とても柔らかいものだった。
「まあまあ……まさかここまでご賛同いただけるとは、思いませんでしたわ」
「それだけイスタニアを脅威に思っているというのもありますが……あのような若造に、いい格好はさせられませんからな」
ひと際強面な男性が、こちらを見ながら不敵な笑みを見せた。
ひょっとして僕、絡まれてる? 怖いので勘弁してください。
「うふふ、さすがはルートヴィヒさんですね。あの“ギュスターブ”皇王に認められるなんて」
「ギュスターブ皇王って…………………………まさか」
ギュスターブ皇王が誰なのかに思い至り、僕は戦慄する。
あの『醜いオークの逆襲』の終盤において、ラスボスと戦う前に立ちはだかる西方諸国最強の国。
――北方の雄、“フォルクング皇国”。
いやいやいやいや、なんでそんな国に僕が目を付けられるの!?
お願いだから、そっとしておいてほしいんだけど!? 何なら、このまま関わり合いになることなくお別れしたいんですけど!?
「ではここに、教皇アグリタ=マンツィオーネの名において宣言します。反イスタニア連合の結成を!」
「「「「「おおおおおおおおおーッッッ!」」」」」
全員が右の拳を高々と掲げ、気勢を上げる。
僕もまた、イルゼやカレン、聖女とともに拳を突き上げた。
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