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僕は、君だけに誠実でありたいんだ

「ボク……ボク、ね……? ルー君が、好きです……っ」


 ジル先輩は、その可愛らしい小さな口で、はっきりと告げた。

 顔を真っ赤にして、肩を震わせて、でも、その瞳は真っ直ぐ僕を見据えて。


 ……正直、こんな予感がしないわけでもなかった。

 僕は喪男だから女子から告白されるなんてあり得ないと、イルゼと結ばれる前なら絶対に信じなかったと思うけど。


 でも……ジル先輩は、その小さな身体で精一杯の勇気を振り絞って、こんな僕に告白をしてくれたんだ。

 なら、僕は誠心誠意その想いに応えないといけない。


 だから。


「……すみません。僕には、大好きな女性(ひと)がいます」

「……イルゼちゃん、だよね……?」


 ジル先輩の問いかけに、僕はゆっくりと頷いた。


「そっかー……まあ、そうだよね。ルー君とイルゼちゃん、主人と従者というよりも、恋人同士にしか見えないし」

「…………………………」


 肩を(すく)めて苦笑するジル先輩を、僕は無言で見つめる。

 分かっている……これが、ジル先輩の精一杯の強がりだって。


「あはは! でも、ボクも一度フラれたからって諦めたりなんてしないんだからね! それに、ルー君は皇太子……未来の皇帝なんだ! だったら、奥さんは何人も必要だもんね!」


 ジル先輩は、『だけど、できれば奥さんは少ないほうがいいけど』と言葉をつけ足し、ちろ、と舌を出した。


「うん! このガベロットの未来も含め、俄然やる気が出たよ! だから……覚悟してよね!」

「あ、あははー……お手柔らかに……」


 張り切るジル先輩に、僕は乾いた笑みを浮かべるしかない。


 だけど。


「ジル先輩……あなたは、僕の大切な仲間(・・・・・)です。それだけは、忘れないでください」

「もちろん!」


 僕とジル先輩は握手をし、微笑み合う。


「ホラホラ! もうイルゼちゃんも帰り支度を終えたと思うから、早く戻ってあげなよ!」

「わっ!?」


 少し強引に僕の背中を押すジル先輩。

 一瞬驚くものの、僕は二百キロあるし、ジル先輩は非力なのでびくともしないんだけどね。


「ジル先輩、失礼します」

「うん! じゃあ後で!」


 笑顔のジル先輩に見送られ、僕はこの庭を後にする。


「…………………………ヒック」


 必死で涙を(こら)える、ジル先輩に振り返りもせずに。


 ◇


「イルゼ……」


 王宮内への出入口のところで、イルゼが立っていた。


「あ、あはは……ひょっとして今の……見てた?」

「……はい」


 苦笑いを浮かべる僕に、イルゼは頷く。

 そっか……イルゼ、見ていたのか……。


「僕、ね……喪男で“醜いオーク”だから、誰かに好かれることなんてないって、ずっとそう思っていたんだ」

「…………………………」

「だからね? 人の好意なんてあり得ない、勘違いするなって言い聞かせてきたから、誰かから悪く言われても聞き流してきたし、何とも思わないようにしていた」


 これは、前世の僕も含め、ずっと思ってきたこと。

 僕みたいな人間を好きになる人なんて、絶対にいないはずだって、心に蓋をしてきたんだから。


「でもね? そんなことどうでもいいくらい……そんな言い訳(・・・)なんかできないくらい君を好きになって、生まれて初めて告白をして、君からも好きって言ってもらえて、結ばれたんだ……」


 あはは……なんで僕、こんな関係のない話をイルゼにしているんだろう。

 本当にもう、口下手だなあ……。


 だけど、そんな僕の言葉を、イルゼはただ静かに聞いてくれている。

 僕にはもったいない、世界一素敵な女性(ひと)が。


「そ、その……それで、ね……僕にとって、告白をするっていうことは今までの人生で一番緊張して、ものすごいことなんだって、自分自身が体験したからこそ、ジル先輩がすごく勇気を振り絞ってくれたんだって、分かるんだ」

「はい……」

「でも、僕はそれを受け入れなかった。ジル先輩の精一杯の勇気を、僕は断ったんだ。本当に、おこがましいというか……“醜いオーク”が、何を調子に乗っているんだって話、だよね……っ!?」


 突然、イルゼが僕を抱きしめてくれた。

 まるで……僕を慈しむように、包み込むように。


「ルイ様……ジルベルタ様の想い、受け入れてくださってよいのですよ?」

「っ!? イ、イルゼ!?」

「私は、あなた様から至上の愛をいただきました……このイルゼめは、それだけで幸せです」


 イルゼの抱きしめる力が、少し強くなる。


「それに、ジルベルタ様はガベロット海洋王国の新たな女王となられる御方。ルイ様に相応しい御方です」


 そう言ってニコリ、と微笑むイルゼ。

 その瞳に、言葉に、嘘偽りは感じない。


 僕、は……。


「あ……ル、ルイ様……?」

「そんなの、駄目だよ……僕は、君だけに誠実でありたいんだ。僕の愛する女性(ひと)は、イルゼ=ヒルデブラントただ一人、だよ」


 僕はイルゼを抱きしめ返し、耳元でささやく。

 ジル先輩の告白を断ったことに僕が心を痛めているからって、そんな理由でイルゼが身を引くなんて絶対に認めない。


「ルイ、様……っ」

「だから、イルゼはそんなことを言っちゃ駄目だから……ね?」

「はい……はい……っ」


 ほら……やっぱり我慢していたんじゃないか。

 本当に、馬鹿だなあ……。


 肩を震わせるイルゼの藍色の髪を、僕は優しく撫でると。


「さあ、戻ろっか」

「はい……」


 イルゼと恋人つなぎをして、カレンの待つ部屋へと戻った。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
モヤっとする展開ではありますね
[一言] 先輩が女だと判ってから3日後の告白だものねえ。彼女にとってはともかく、彼にとってはやはり早すぎたか。 他のヒロインと、イルゼとで明確に一線を引いていて、今はまだそれが揺らぐ気配はないけれど…
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