いや、エロゲではテンプレだけれども
「そ、そんな……どうして……」
「ル、ルイ様、その……これが何か、ご存知なのですか……?」
繭の中から現れたピンク色の物体……いや、魔物を見て絶句する僕を、イルゼが不安そうに見つめる。
だけど、僕が声を失ってしまうのも無理はない。
だって……これは『醜いオークの逆襲』において圧倒的存在感を放っていた、終盤になってようやく登場する、ある意味お約束のものなのだから。
「ル、ルー君……何だか、気持ち悪い、ね……」
少し怯えた様子で僕の腕を抱きしめるジル先輩。
いやいや、その大きなお胸様が、僕の腕を挟んでおられますが、最高……とか言っちゃいけない。
「むう……」
ほら、隣で思いきり頬を膨らませたイルゼが、対抗意識を燃やして反対側の僕の腕を挟みにかかっているし。結局最高だった。
まあ、冗談はさておき。
「……みんな。僕とマッシモ殿下を置いて、すぐにコイツから離れるんだ」
「っ! ……いいえ、私はルイ様のお傍に」
「今回ばかりは絶対に駄目だ! イルゼも、早く離れて!」
「で、ですが! ……分かり、ました……」
僕が本気で言っていることが分かったからだろう。
イルゼも最初は拒否したけど、悲しそうな表情を浮かべながら聖女やカレン、ジル先輩と一緒に魔物から距離を取った。
だけど。
「はああ……っ!」
頬を赤らめ、どこか恍惚の表情を浮かべている聖女。
そうだった。彼女がビッチなのをすっかり忘れていたよ。
「な、なあ……こんなこと言っちゃなんだが、俺は別に構わねえのかよ……?」
「そりゃそうですよ。別に減るものじゃあるまいし」
おずおずとこちらを窺うマッシモ王子を、僕は冷たくあしらう。
既にエロゲ……いや、エロコンテンツに造詣が深いマエストロ達ならお分かりだと思うが、このピンク色の物体は、魔物ではあるがゲーム内ではアイテム扱い。
このピンクの魔物の名前は『イヴィル・ローパー』。
名前が表すとおり、触手である。
調教パートにおいて、それはもう穴という穴へと侵入し、その触手にまとわりつく粘膜は衣服を溶かす効果と媚薬成分によって、ヒロインの姿を中途半端に露わにし、快楽へと陥れる素晴らしい……ゲフンゲフン。凶悪極まりないアイテムなのだ。
「おい、ルートヴィヒ……それで、コイツはどうやって倒すんだ?」
「う、うん……」
さて、困ったぞ。
ヒロインやモブユニットであれば、攻略方法なんていくらでもあるんだけど、残念ながらコイツはアイテムだ。当然、倒し方なんてあるはずもない。
まあ、とりあえず。
「カレン。そこから、この魔物に【ファイアボール】を撃ち込んでみてくれないかな?」
「……ん、分かった。【ファイアボール】」
RPGなんかでは、粘膜系や植物系の魔物には火属性魔法が弱点のケースが多いし、【ファイアボール】も効くと思うんだけど……。
「……駄目だった」
「あー……」
残念ながら、カレンのすさまじい【ファイアボール】を受けても、『イヴィル・ローパー』はノーダメージだった。
というか、そもそもアイテムに当たり判定とかってあるのかな……。
「ハア……気は進まないけど、物理攻撃にかけるしかないかあ……」
一応『イヴィル・ローパー』は調教用アイテムなので、さすがに男相手には手を出さないと思うけど……どうしても、お尻を守っちゃうのはしょうがないよね。
などとくだらないことを考えながら、僕は双刃桜花を鞘から抜いた。
“繁長の鉄盾”は……今回は触手相手だから、必要ないか。
「……ルートヴィヒ、テメエには借りがある。それに、気に入らねえがジルの大切なものだからな。この俺が、命に代えても守ってやる」
海賊よろしく手斧を構えながら、なんか格好いいことを言い出すマッシモ王子。
正直、貸しを作った覚えはないので、僕のことは放っておいてください。いや、本当に。
「いくぞ!」
二振りの刀を構え、僕は『イヴィル・ローパー』に突撃する。
攻撃に関しては大したことないけど、所詮はアイテムなんだ! 僕のほうが強いはず!
などと甘いことを考えていた僕が馬鹿でした。
「っ!? く、くそっ!」
巻き付くのが得意な触手相手じゃ、僕の防御なんて意味をなさない。
触手にいいようにまとわりつかれ、両手と両足を拘束されてしまった。
「っ! チッ!」
それに気づいたマッシモ王子が、僕の触手を斬り落としてくれた。
「た、助かりました」
「おう! 気にすんな!」
マッシモ王子はニカッと笑いながら、僕の頭をガシガシと乱暴に撫でる。
何というかな。ヤンキーって、身内には無駄に気さくになるよね。
それよりも……あの触手、僕を拘束した後に、別の触手が下半身に狙いを定めていたよね……。
あれか? ひょっとしてコイツ、BL触手モノもイケる口か?
だとすると、僕も貞操の危機なんだけど……って!?
「イルゼ!? みんな!?」
「「「「っ!?」」」」
いつの間にか、『イヴィル・ローパー』の触手がガレー船の死角を利用してイルゼ達の背後に迫っていた。
身体能力の高いイルゼはともかく、魔法特化の二人とただの商人でしかないジル先輩は、あの触手から逃れられない……っ。
「くっ!」
それでも僕は、四人を救うために甲板を蹴って駆け出した。
「お任せください」
「きゃっ!?」
「わわっ!?」
「……むう」
イルゼが足払いをして、三人を触手の射程範囲外へと強引に弾き飛ばした。
でも……それじゃ、イルゼが逃げ遅れるじゃないか!
僕を見て、ニコリ、と微笑むイルゼ。
本当に……馬鹿だなあ。
間に合わないと判断し、ダガーナイフを構えて迎え撃つイルゼを、『イヴィル・ローパー』は彼女の全身を包むように触手を巻き付け……。
「させるかあああああああッッッ!」
「あうっ!?」
僕はイルゼに体当たりをし、代わりに触手に覆われてしまった。
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