イスタニアの船に乗り込んでみる
「そろそろ射程圏内、ってところかな」
「そうだな」
船首でイスタニアの船を見据える僕に、マッシモ王子が同調する。
個人的には鬱陶しいことこの上ないけど、一応はガベロットでも一、二を争うほどの腕利きの船乗りらしいし、仕方ないので少しくらいは相手をしてあげよう。
「ルイ様、どうされますか?」
「ん? ああ……とりあえず、近づくふりをして、連中からの一斉射撃を待とうかな」
「っ!? ちょ、ちょっと待てテメエ! そんなことになったら、この船があっという間に沈没しちまうじゃねえか!」
ああもう、うるさいなあ。
僕の大事なイルゼが乗っているっているのに、そんな目に遭わせるわけがないじゃないか。
「大丈夫ですよ。絶対に、攻撃は受けませんから」
面倒に思いつつも、僕は努めて冷静に、それこそ微笑みすら湛えて答えてやった。
大体、『カルバリン砲』が物理攻撃と魔法攻撃、両方の特性がある時点で攻撃されても無駄なんだから。
「ホラホラ、そんなことより早く射程圏内に入ってよ。相手に無駄撃ちさせるのが目的なんだから」
「お、おお……」
マッシモ王子は首を傾げつつも、クルーに指示をして射程圏内へと船を進める。
「お、四隻ともこちらに照準を合わせてきたね」
「はい、ルイ様の狙いどおりです」
嬉しそうな表情で少し興奮気味に頷くイルゼ。
でも僕、君に作戦を伝えた覚えはないんだけどなあ……。
まあいいか。
それだけ僕のことを信頼してくれている証拠だもんね。
全ての『カルバリン砲』の砲門がこのガレー船に向けられ、無数の弾丸が放たれるその時を待つ。
そして。
――ドンッッッ! ドンッッッ! ドンッッッ!
「おおー! まるで花火みたいだ!」
四隻の船から一斉に砲撃され、鉄の弾丸が迫る。
でも。
――ガアンッッッ!
「あはは、さすがは“繁長の鉄盾”。たとえ大砲だろうと、全部弾いてくれるね」
「はい! まさにルイ様に鉄盾です!」
これだけうるさい音の中でも聞こえるように、僕の耳元で手放しに褒めてくれるイルゼ。
というか僕の彼女、メッチャ可愛いんだけど。
「【リフレクション】!」
聖女も【リフレクション】を展開し、同じく弾丸を弾き飛ばす。
というか、物理攻撃と魔法攻撃の両方の特性持っている時点で、防御し放題だよね。
実技試験でセルヒオが放った【フレアランス】もそうだけど、イスタニアって両方の特性を持った攻撃に思い入れでもあるのかな?
「す、すげえ……コイツ等、全部防ぎ切っちまった……」
砲撃が止み、マッシモ王子が唖然とする。
いやいや、これからが本番なんだから、しっかりしてもらわないと困るんだけど。
「じゃあマッシモ殿下、今のうちにイスタニアの船に乗り移れるように、船首をぶつけてください」
「へ? お、おお……」
ようやく我に返ったマッシモ王子は、ガレー船を最も近いイスタニアの船へと突撃させる。
――ドカッッッ!
イスタニアの船底に穴を開け、僕達は乗り移ろうと……っ!?
「イ、イルゼ!?」
「お任せください。私が露払いをしてまいります」
僕の制止も聞かず、イルゼは船の側面を駆け上がって甲板へと躍り出る。
「ぼ、僕達も急ごう!」
「はい!」
「……ん」
マッシモ王子にイスタニアの船に縄をかけてもらい、二人が登る。その横を、僕は自力でよじ登った。
イルゼとのトレーニングが、ここでも役に立つとは思わなかったよ。
「イルゼ!」
大急ぎで登り、縁に手をかけて乗り込むと。
「ふふ……」
ニタア、と口の端を吊り上げたイルゼによって、甲板にいたイスタニアの兵士達が全て血を流して倒されていた。
その彼女は、慄きながらサーベルを構える兵士達にゆっくりと歩み寄る。
「イルゼ! 勝手に先走っちゃ駄目だよ!」
「あ……も、申し訳ございません」
僕が叱ると、イルゼは一変して恐縮する。
本当に、もう……。
「はう!?」
「いいかい? 何度も言うけど、君に何かあったら僕だって生きていけないんだよ? だから、無茶はしないで」
イルゼの頬を両手で挟み、僕は苦笑しながらたしなめた。
ちょっとは懲りてほしいけど、多分無理だろうなあ……。
だって。
「はう……ルイ様に叱られてしまいました……」
どういうわけか、うっとりした表情を見せているんだもん。
まあ、そんな彼女も可愛いんだけど……って。
「「…………………………」」
うわあ……聖女とカレンから、メッチャ睨まれてるよ……。
「ルートヴィヒさん、イルゼさん。詳しい話は後ほどお伺いするとして、今は戦いに集中してください」
「「はい……」」
僕もイルゼも、ただただ反省するばかりだ。
でも。
「ふふ……」
口元を緩めているイルゼを見ると、僕の口も緩んじゃうよ。
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