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負ける要素なんて何一つない

 ――ドンッッッ! ドンッッッ! ドンッッッ!


 イスタニアの四隻の船から轟音が鳴り響き、この船に鉄の弾が襲いかかった。


「くっ! 早く離脱を!」

「は、はっ!」


 マストを開き、急ぎ旋回するヴィト=リベンジ号。


 だけど。


「っ!? 三番マスト、被弾!」

「船尾も損傷を受けました!」

「くそっ!」


 被害報告を受け、ジル先輩は眉根を寄せながら口を噛む。

 でも、あれだけの砲撃からこの程度の損傷で済んだんだ。全てはジル先輩の判断力と、この船の性能のおかげだ。


「ば、馬鹿な……っ。この船には、俺が乗っているんだぞ……?」


 目を伏せながら、肩を震わせるアントニオ。

 イスタニアにとってその程度の価値しかないことに、ようやく気づいたか。


「さあて……そろそろ出番、かな」


 イスタニアの船を睨みながら、僕はポツリ、と呟いた。

 こうなるであろうことは、最初から予想していたし、僕達のプランに何の変更もない。


 ただ、イスタニアの連中を痛い目に遭わせるだけだ。

 カレンが味わった、悲しみと苦しみも含めて。


「ジル先輩、あの四隻に接近できるような高速の小舟ってあったりしますか?」

「う、うん……一応、移乗攻撃用のガレー船を二隻積んではいるけど……」

「だったらそのうちの一隻を、クルーを含めて貸してください」

「っ!? な、何をするつもりなの!?」


 ジル先輩が、驚きの声を上げる。


「もちろん、イスタニアの船を全部海に沈めるんですよ」

「む、無理だよ! ガレー船といってもこの船に搭載しているだけあって小型だし、それに、向こうは何か(・・)を飛ばしてきているんだよ!? 一斉に狙い撃ちされたら、それこそ!」


 ジル先輩が、僕の胸倉をつかんで必死に説得する。

 まあ、先程のイスタニアの攻撃の正体を知らないジル先輩からすれば、脅威でしかないもんね。


 でも、前世で『醜いオークの逆襲』をやり込んだ僕なら、全て知っている。

 ゲームでは海戦なんて存在しなかったけど、連中が使ったアレ(・・)は、戦闘パート用のモブユニット限定強化アイテム、『カルバリン砲』に間違いないと思う。


“歩兵”又は“騎兵”のモブユニットに装備させると、半径五マス先への長距離攻撃が可能になるというものだ。


 基本的に、“魔法使い”や“魔導兵”のユニットはコストがかかり、“弓兵”は攻撃力がイマイチのため、低コストで一定の攻撃力が見込める『カルバリン砲』は意外と役に立つ。


 とはいえ、所詮はモブユニット用のアイテムだし、ヒロイン一人の能力にも及ばないから、ストーリー後半で資金が潤沢になってきたら、あとはただの使い捨てだけどね。


 要は、最強の魔法使いと最高の回復魔法と補助魔法の使い手、そして、最速の斥候である三人のヒロインがいる僕達に、負ける要素なんて何一つないってことだ。


 すると。


「ま、待ってくれ! そのガレー船、俺に任せてくれ!」


 ここまで空気だったマッシモ王子が、必死の表情でそんなことを懇願した。


「お、俺はどうせ死ぬ運命だったんだ! せめてジルのために、これくらいはやらせてくれ! 頼む!」

「マッシモ兄様……」


 額を甲板に(こす)りつけるマッシモ王子。

 というか、毒殺の犯人はアントニオであることは明らかになったんだし、今さら処刑されることなんてないっていうのに、何を言っているんだろう。馬鹿なのかな? 馬鹿だったね。


「……うん。マッシモ兄様、どうかボクの大切なルー君を守って……っ」

「っ! ああ! 任せてくれ!」


 ジル先輩はエメラルドの瞳を潤ませながら手を握りしめ、マッシモ王子も顔を紅潮させて力強く頷いた。

 ええー……このヒャッハーなお兄さんに、ガベロット到着早々に海に落とされそうになったこと、僕は忘れてないんだけど。


「ルートヴィヒ……俺が絶対に、テメエをあの船まで運んでやる! だから、安心しやがれ!」


 はい、僕は不安しかありませんが。


「ハア……まあいいや。イルゼ、ナタリアさん、カレン。それじゃ、行くとしようか」


 僕は溜息を吐くと、まるでピクニックにでも行くかのような気安さで三人に声をかけた。


「ぐっ!?」

「う……うう……っ」

「はい、ルイ様」

「……ん、マスター行こ」


 アントニオの意識を刈り取ったイルゼと、全身を火傷してうめき声を上げるアリーナを炎の鞭から解放したカレンが、揃ってカーテシーをする。


「うふふ……腕が鳴りますね」


 聖女もいつの間にか僕の隣に来て、ニコリ、と微笑んでいた。


 イスタニア……僕は、貴様等を絶対に許しはしない。

 一人残らず、海に沈めてやる。

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