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現れたイスタニア

「そうだ。俺がこのガベロットの王になるのに邪魔だから、バレないようにゆっくりと父上を殺すつもりだったんだが?」


 アントニオ王子は悪びれもせず、両手を広げて(わら)ってみせた。

 その姿は、前世で観た映画の悪役みたいではあるけれど、どこか滑稽に感じるのは気のせいだろうか。


 ……いや、気のせいじゃない。

 このアントニオという男が、あまりにも薄っぺらいからそう感じてしまうんだろうね。


 書類と毒を受け取った際にイルゼから一部始終を聞いたけど、所詮は大物ぶった小物でしかない。


 なので。


「何格好つけているの? むしろ、僕からすればその話し方といい態度といい、すごくダサいんだけど。こんな芝居じゃ、とてもお金は払えないよ」

「…………………………」


 僕は嘲笑(ちょうしょう)を浮かべながら(あお)ってやると、アントニオは顔を歪めた。

 イルゼの言っていたとおり、馬鹿にされるとすぐに顔に出るんだなあ。


 商才はあるのかもしれないけど、コイツもマッシモ王子と一緒で残念王子だ。

 フランチェスコ国王が見限るのも無理ないよ。


「まあいいや。それで? イスタニアと共謀した一連の事件の犯人が自分だって(さら)して、これからどうするつもり? ここにいる貴族や衛兵達でも買収した? ……って、それは無理か。陛下に聞いたけど、人望ないんでしょ?」

「……黙れ」


 アントニオは、射殺すような視線を僕に向ける。

 その間にも、衛兵達はジル先輩、そしてフランチェスコ国王達を庇うように前に立つ。


 その様子を見て、僕は心の中で安堵する。

 どうやら、衛兵達の忠誠は今もジル先輩に向いたままだ。


 となると。


「で? この辺にいるんでしょ? この船を襲撃するための、イスタニアの海軍が」

「「「「「っ!?」」」」」


 僕の言葉に、アントニオとイルゼ達を除く全員が、一斉に息を呑んだ。

 アントニオがイスタニアと繋がっていたことが、ついさっき明かされたばかりということもあるから、当然だよね。


 残念ながらこの船にイスタニアを迎え撃つ手段もないだろうし、今イスタニア海軍に攻め込まれたら、沈没させられてしまう危険が高いから。


 僕? 僕は心配していないよ。

 だって……僕達がイスタニア海軍ごときに負けるはずなんて、これっぽっちもないから。


「っ!?」

「動くな」


 いつの間にかアントニオの背後にイルゼが立ち、その背中にダガーナイフを当てている。

 さあ……このままイスタニア海軍に攻撃されたら、オマエも一緒に海の藻屑(もくず)になるけど、どうする?


「クッ!」

「カレン」

「……ん、【ヒートウィップ】」


 アントニオを救出しようとアリーナが動きを見せるが、それよりも早くカレンの炎の鞭が彼女を捕える。


「あああああッッッ!?」


 炎を身体に巻き付けられ、アリーナは苦悶の表情を浮かべながら叫んだ。

 まあ、全身を炎で焼かれているのと同じなんだから、熱くて、痛くて、苦しいよね。


 でも……同じ苦しみを、あのルアーナも味わっているんだ。

 貴様も彼女を捨て駒に使ったのなら、甘んじて受け入れるんだな。


「どうした、早く呼べよ」

「……卑怯な奴め」


 あはは、どの口が言っているんだろうね。

 毒なんて卑怯な手口を使って、自分じゃどうにもならないから他国の力でガベロットを牛耳ろうとしたくせに。


 とはいえ……僕がイスタニアなら、このまま黙っていたりはしないけど。


 ――ドンッッッ!


「「「「「っ!?」」」」」


 けたたましい轟音と共に、この船のすぐ(そば)で水しぶきが上がった。


「ジ、ジルベルタ殿下! 後方にイスタニア魔導王国の旗を掲げた大型の帆船(はんせん)が向かっています! その数、四隻!」

「っ!? すぐに回頭して風上を取るんだ!」

「はっ!」


 ジル先輩はすぐに指示を出し、船が相手より有利に立つために風上を目指す。

 イスタニアの船の動きを見る限り、どうやらこの船よりも遅いみたいだ。


 というか、この大きな船のほうが機動力で(まさ)っているなんて、何気にすごくない?


「こちらの兵の数は!」

「操船している者を除けば、五十人です!」

「五十人……」


 ジル先輩は、眉間にしわを寄せながら親指の爪を噛む。

 向こうの船の数や大きさから考えて、兵力としては単純に見積もっても十倍以上の差があるだろう。


 あくまでも処刑目的であまり兵を乗船させていなかったことが、裏目に出た格好だ。


「ジル先輩、どうしますか? 僕としては、アントニオ王子を人質にしてイスタニアを引き返させるか、一旦王宮に戻り、海軍を再編成して決戦に挑むか、そのどちらかだと思いますが……」

「ルー君、それは無理だよ。風上を押さえて少しでも有利な状況は作ったけど、王宮に戻るにはあの四隻を突っ切らないといけない。それに……アントニオ兄様が、果たして交渉材料になるかどうか……」

「……ですね」


 ジル先輩の答えに、僕も納得して頷く。

 第一王女で最強の『魔導兵器』であるカレンですら簡単に捨てたイスタニアだ。こんな男の命なんかのために、わざわざ乗ってくるはずがない。


 だとすると。


「っ! イスタニアの船が回頭し、こちらに船の側面を見せています!」

「ど、どういうこと!? なんでそんな意味のないことを……」


 っ!? まさか!?


「ジル先輩! 今すぐイスタニアから距離を取ってください!」

「ル、ルー君!?」

「いいから!」

「っ! わ、分かった! みんな、今すぐこの場から離脱……っ!?」


 ――ドンッッッ! ドンッッッ! ドンッッッ!


 イスタニアの四隻の船から轟音が鳴り響き、この船に鉄の弾が襲いかかった。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] 体調戻られたようで良かったです。お帰りなさい。 砲撃戦は未経験でしたか。それまでは衝角で突っ込んてからの白兵戦だったのかな。
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