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初めての彼女

「グス……あはは。イルゼ、落ち着いた……?」

「ヒック……ルイ様こそ……」


 抱きしめ合い、嬉しさで泣き続けていた僕とイルゼは、お互いに様子を(うかが)う。

 だけど……あはは、イルゼの顔、くしゃくしゃだよ。


 でも、その顔は……瞳は、吸い込まれそうなほど綺麗で、僕は目が離せない。


「でも……ほ、本当に、ルイ様は私なんかのことを……」

「『私なんか』なんて言っちゃ駄目だよ。君は、自分がどれほど素敵な女性(ひと)なのか、まるで分かってないよ」

「そ、それを言うならルイ様もです。いつも“醜いオーク”だからと、自分を卑下なさるようなことばかり……」

「あ、あははー……」


 口を尖らせるイルゼに、僕は苦笑するしかない。

 でも、イルゼがこんな僕を好きになってくれたのなら、その……いくらでも自信を持つし、何ならもっと調子に乗っちゃったりしてしまうかも。


「イルゼ……もう、僕から離れたりなんてしないよね?」

「と、当然です! そもそも私は、あなた様のお(そば)を離れるつもりは、毛頭ありませんから」

「へ……?」


 僕は思わず、呆けた声を漏らす。

 い、いや、だって、それじゃあの距離感は一体何だったんだよ。


「あ、あくまでも従者として徹するという意味で、生涯あなた様にお仕えすることには変わりませんから」

「あ、ああー……」


 ま、まあ、確かにそういう(・・・・)意味では(・・・・)、僕から離れないのかもしれないなあ。


 だけど。


「あ……」

「何度でも言うけど、僕はただの主人と従者の関係だなんて嫌だよ。僕にとって君は誰よりも特別で、僕は君にとっての特別になりたいんだ」


 イルゼを抱き寄せ、僕はそっと耳元でささやく。

 生まれて初めての告白に成功したからかな。まるでイケメンになったかのように振る舞う自分に、ちょっとだけおかしくて苦笑する。


「ふふ……ルイ様は、ずっと私の特別(・・)、ですよ……?」

「そっか」

「はい……」


 僕とイルゼは、お互いの温もりを確かめながら、また、強く抱きしめ合った。


 ◇


「さて……いつまでもこうしていたいけど、もうすぐ夜が明けちゃうし、そろそろ向こう(・・・)についてどうするか考えよう」

「はい」


 本当はこんな面倒なこと全部放り出したいところだけど、アントニオ王子の陰謀でフランチェスコ国王とマッシモ王子が処刑されるのを、指を(くわ)えて見ているわけにはいかないからね。


 それに、このままじゃジル先輩が悲しむことになってしまう。

 そんなこと、絶対に認められない。


「ルアーナの証言ですと、あくまでもアリーナの指示によってルイ様を殺害しようとしたことは明らかですが、その場合、アントニオ王子を追及するのは難しいと思います」

「そうだね……」


 仮にアントニオ王子の指示を受けてアリーナがルアーナを使って殺害しようとした、なんて言っても、アントニオ王子のことだから、絶対に知らぬ存ぜぬで通すだろうしね。


「ウーン……せめてアントニオ王子が首謀者だっていう、決定的な証拠があればいいんだけどなあ……」


 僕は腕組みしながら首を(ひね)る。

 ジル先輩のことだから、僕がお願いすれば処刑を中止してくれるかもしれないけど、そうすると今度は『ガベロットの掟』に従わないとして、下手をしたら部下や国民からの信頼を失ってしまう危険がある。


 ただでさえこの国は、『ガベロットの掟』を何よりも重視するから。


「ルイ様。もしよろしければ、私が今からアントニオ王子の部屋に侵入し、証拠となるものを手に入れてまいります」


 胸に手を当て、イルゼが(うやうや)しく一礼する。


「だ、駄目だよ! そんなことをして、イルゼの身に万が一のことがあったらどうするんだ!」


 僕はイルゼの両肩をつかみ、大声で叫んだ。


「ふふ……想いが通じ合った今、あなた様がこれまでどれだけ私を大切にしてくださったのか、本当によく分かります」

「そ、それなら!」

「ですが、私もまた大好きなルイ様のために尽くしたいという想いも、ご理解ください。それに……私はイルゼ=ヒルデブラント。バルドベルク帝国創設時から続く、影の一族の末裔。仕える主君から与えられた任務を全うすることこそ、私の本懐です」

「う、うぐう……」


 ニコリ、と微笑むイルゼ。

 くそう……そんな表情でそんなことを言われちゃったら、もう何も言えないよ……。


「だ、だったら、これだけは約束して! 絶対に、無事に僕のところに帰ってくること! 君は、僕の誰よりも大切な女性(ひと)なんだからね!」


 せめてもの気休めに、僕はイルゼに念を押す。

 僕の初めての(・・・・)彼女(・・)に何かあったら、それこそ海に飛び込んじゃうよ。


「はい! お任せください! 私は、必ずあなた様の元に!」


 イルゼは、パアア、と咲き誇るような笑顔を見せ、(うやうや)しく一礼した。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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