表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/144

真の後継者

「……あとはテメエも知ってのとおり、この地下牢に乗り込んでいったらジルとテメエ等がいて、勘違いされて俺は親父と一緒に牢屋にいるってワケだ」

「ええー……」


 マッシモ王子の話を聞き終え、僕は呆れて変な声が出てしまった。

 直情馬鹿だとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかったよ……。


 チラリ、とフランチェスコ国王を見やると……うん、自分の息子のあまりの頭の悪さに、完全に魂の抜けた表情をしているし。


「こ、の……馬鹿者()が……っ! ゴホッ! ゴホッ!」

「お、親父!?」


 興奮しすぎたせいだろう。

 フランチェスコ国王は、激しく()き込んだ。


「……マッシモ殿下、さすがにそれはないのでは?」

「な、なんだと!」


 僕の呆れた様子を見て、マッシモ王子が激昂する。

 こう言っちゃなんだけど、処刑されたほうがこの国のためになるんじゃないかって思えてきた。


 唯一の救いは、マッシモ王子が第二王子だということだ。

 でも、この国の古参の貴族は、よくこんな神輿(みこし)を担ごうと思ったよね。センスを疑うよ。


「ゴホ……第一王子のアントニオは、残念ながら人望がない。かといってマッシモは、見てのとおり知恵が足らん……」


 どうやら僕の考えを読み取ったらしく、フランチェスコ国王が答えてくれた。

 それでいくと、アントニオ王子も次期国王としては失格の烙印を押しているみたいだ。


「さ、差し出がましいようですが、フランチェスコ国王はアントニオ殿下とマッシモ殿下が王位継承争いをしている最中、静観されていたと伺っています。それは、何故ですか?」


 今も苦しそうに咳をするフランチェスコ国王に、僕はあえて尋ねてみた。

 二人の王子が後継者として相応しくないと判断したのなら、国王であればこの国の未来のために何かしらの手立てを打ってもおかしくはないんだ。


 それでもあえて介入してこなかったのは、国王には何かの理由と思惑があると思ったから。


「簡単なこと……次の国王(・・・・)に相応しい者が既におるからだ」

「っ!?」


 それって……まさか。


「……そうだ。誰よりも優秀な頭脳を持ち、国民の人望は最も高い。ただ、惜しむらくは()であるということだけ」


 なるほど……あの地下牢で見せた、使用人達の忠誠心。それに、頭脳に関しては先日の期末試験で僕も知っているところ。

 フランチェスコ国王は、最初からジル先輩を後継者と見ていたんだ。


「今のお話ですと、まるで男であることが国王となる絶対条件のように聞こえたのですが……」

「ガベロット海洋王国は、代々男が国王の座についており、女王はおらん。決して女が国王になってはならんというしきたりはないが、この国の誰しもが二人の王子どちらかが国王になるものだと、そう思っておる」


 ここまでくれば、僕もフランチェスコ国王の意図を全て理解した。


 二人の王子を競わせることで、国王としていかに相応しくないかを貴族や国民に示し、ジル先輩の優秀さを知らしめる。

 そうすることで、ジル先輩が女であっても、この国の王に相応しいのだと納得させるために。


 昨夜の晩餐会で僕をダシにしてジル先輩を立てたのも、ジル先輩の評価を上げる意味があったんだろう。


「……んだよ。ハナから俺は、親父に期待なんかされちゃいなかったってことかよ……」

「……お前は先祖の血を色濃く受け継ぎすぎておるのだ。残念ながら、お前は国王よりも船乗りこそがよく似合う」

「…………………………チクショウ」


 肩を震わせ、マッシモ王子がポツリ、と呟いた。

 そんな彼を見つめるフランチェスコ国王のまなざしは、一人の父親としてのものだった。


「……フランチェスコ陛下の真意は分かりました。ですが、ルアーナに指示をして僕の食事に毒を盛った犯人については、まだ分かっていません」

「いや……もう、犯人の目星はついておるよ」

「……アントニオ殿下、ですね?」

「…………………………うむ」


 フランチェスコ国王が、重々しく頷いた。


「待てよ……なんでアイツが、テメエを殺そうだなんて考えやがったんだ? しかも、こんなまどろっこしいことをして」


 マッシモ王子が、僕とフランチェスコ国王の会話に割って入る。

 まあ、彼の疑問ももっともだ。


 だけど。


「……フランチェスコ陛下がジル先輩を後継者に選んでいることを、知っていたとしたら?」

「っ!?」


 そう考えれば、色々と辻褄(つじつま)が合う。


 マッシモ王子をそそのかし、まるでルアーナを使って犯行を行わせた真犯人のように振る舞わせ、勘違いしたジル先輩が処刑する。

 それだけで、ライバルは一人減ることになるんだ。


 それにフランチェスコ国王は病に臥せっていて、今回の件がなかったとしても、もう長くはないのかもしれない。

 そうなれば、アントニオ王子にとって残るライバルはジル先輩のみ。


 しかも、ガベロット海洋王国が男を国王にする風習があるのなら、自然とアントニオ王子が次の国王になるのも自然な流れとなる。


「いずれにせよ、全てを知っていると思われるアイツ(・・・)から、聞き出すとしようか」

「……おい、アイツ(・・・)ってのは誰のことだ?」


 マッシモ王子が、おずおずと尋ねる。


「決まってますよ。僕に毒を盛った、実行犯のルアーナです」

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] おやおや、ジル先輩に話が行くとは思っていましたが、王子同士の争いはそのための出汁だったとは。王様もなかなか人が悪いというか、そうでなければ王様なんてやっていけないのか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ