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ガベロットって、マフィアじゃん

「ボクは本気で怒っているんだ。まさか、『ガベロットの掟』を知らない者なんて、この中にはいないよね?」

「「「「「っ!?」」」」」


 地下牢の前にやってくるなり、ジル先輩は冷ややかな視線を向けながら、中にいる使用人や料理人達に静かに告げる。


 今日のジル先輩は、ただのチワワじゃない。

 牙を()いた、獰猛なチワワ(変異種)だ


 そして僕は、『ガベロットの掟』というものが大変気になっております。


「も、もちろんです! 『ガベロットの掟』に従い、私は血を捧げます!」

「私も!」

「俺もです!」


 牢に入っている者達が次々と左胸をドン、と叩き、真剣な表情で訴える。

 というか、『血を捧げる』とか言い出しているし、何より『ガベロットの掟』ってなんなの? ちょっと怖いんだけど。


「うん。ボクだって家族(・・)であるみんなを疑いたくない。だけど、実際にボクの大切な人、ルー君が毒殺されかけたんだ。絶対にただじゃ済ませないことくらい、理解してるよね?」

「もちろんです! 私達にできることであれば、何なりと!」


 ジル先輩や使用人達の様子を見る限り、その関係はとても強固で、僕にはこの者達が毒殺を図ったようには見えない。

 そうすると、背後に何者かはいるのは間違いないけど、実行犯としてはイルゼ達に尋問されたあの女の単独、ということか……?


「だったら……あの夕食会の時のこと、その前後も含めて全部説明してよ」

「「「「「はい!」」」」」


 使用人達は、あの時の自分達と周囲の様子、その日の食材の調達、給仕の担当、その他ありとあらゆることを包み隠さず、詳細に語ってくれた。

 複数人の証言が一致していることもあり、とてもじゃないけど嘘を吐いているとは思えなかった。


「……それでも、ボクは犯人が特定できるまで、みんなをここから出すつもりはないよ。それは覚悟しておいて」

「もちろんです! 疑いが晴れるのなら、私達は何日でもここにおります!」


 うわあ、とんでもない忠誠心だなあ。

 まさかジル先輩が、ガベロット海洋王国内でここまで人望を持っているなんて、思いもよらなかった。

 あれかな? きょぬーな小っちゃいボクッ娘特有のカリスマってやつかな? 多分そうだろうね。


「ルー君、本当にごめんね? ボク、どんなことだって責任取るから……何だったら、ボクの全て(・・・・・)をあげたって……っ」

「ジルベルタ様、どさくさに紛れて何をおっしゃっているのですか?」

「うふふ……反省が足らないのでは?」


 顔を伏せ、唇を噛むジル先輩に、イルゼと聖女が詰め寄る。

 ジル先輩の言う『全て』というのが何かは分からないけど、もらった瞬間色々と人生詰むような気がするので、とりあえず断ろう。


 その時。


「ここに……いたのか……」

「っ! 父様!」


 従者に肩を借りながら現れたのは、フランチェスコ国王だった。

 だけど……息も荒く、顔色も悪い。ジル先輩が言っていたように、本当に身体の具合が悪いみたいだ。


「話は聞かせてもらった……誠に、申し訳ない……」

「っ!? フ、フランチェスコ陛下!?」


 その場で膝をつき、(こうべ)を垂れて許しを請うフランチェスコ国王。

 ボルゴニアのディニス国王もそうだったけど、意外とこの世界の国王って腰が低いのかな? プライド底辺の僕が言えた立場じゃないけど。


此度(こたび)の件、ガベロットとして必ず犯人を見つけ出し、然るべき報いを受けさせることを、このフランチェスコ=ピエトロ=ガベロットの名にかけて、ルートヴィヒ殿下に約束する」

「は、はあ……」


 何とも気の抜けた返事をしてしまったけど、正直名前をかけてもらっても、僕としてはどうしたらいいものか……。


「と、父様……名前を(・・・)かける(・・・)だなんて……っ」

「……だが、ルートヴィヒ殿下に許しを請うには、私にできることはこれしかあるまい……」


 病の苦しみもあってか、苦悶の表情を見せるフランチェスコ国王。

 どうしよう、これって大変なことなのかなあ。そんなの、僕じゃ受け止められないんだけど。


「ルー君……ボクも、君に名前を(・・・)かける(・・・)。だから……」

「え、ええとー……その、お二人がおっしゃる名前を(・・・)かける(・・・)とは、一体どのようなことなんですか……?」


 空気を読めていないのは重々承知だけど、さすがにこのままじゃ訳が分からないので、ジル先輩におずおずと尋ねてみる。


 すると。


「……このガベロットに住む者にとって、絶対に破ってはならない不文律があるのだ」


 ジル先輩に代わり、フランチェスコ国王が教えてくれた。


 元々が、主人から逃げ出した奴隷や人減らしのために棄てられた人々が集まってできた国、それがこの、ガベロット海洋王国。


 ガベロット海洋王国の人々は、何も持たない自分達がそれでも生き抜くために一致団結し、絶対に守るべき不文律を定めた。


 一つ、家族を裏切ってはならない。

 一つ、家族の大切なものに手を出してはならない。

 一つ、約束は必ず守らなければならない。

 一つ、真実を知るために問われた場合は、必ず真実を答えなければならない。

 一つ、いかなる時でも、家族はガベロット海洋王国のために働かなければならない。

 一つ、愛する者は、最後まで愛し抜かなければならない。

 一つ、家族の敵はガベロットの敵と心得よ。

 一つ、報いる時は己の名をかけよ。


 そして――この八か条を破った者は、その者の血で償わなければならない。


「……これが、二百年の歴史において我々の魂に刻まれた、『ガベロットの掟』だ」


 説明を聞き終えた瞬間、僕は声を失う。

 いやいやいや、これってまるでマフィアの掟みたいじゃん。


 なにこれ、メッチャ重いんだけど。

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