僕は、絶対に許さない
「……そうだったんだ」
イルゼとカレンがようやく泣き止んだ後、僕は毒に侵されている間に何があったのか、三人から教えてもらった。
だけど……どうして僕が、ここガベロット海洋王国で命を狙われたんだ?
バルドベルク帝国とガベロット海洋王国は数少ない友好国だし、ちょっとヒャッハーなお兄さんに思いきり嫌われてはいるものの、フランチェスコ国王を含め、さすがにそこまでされる覚えはない。
「はい……まずはルイ様をお救いすることを最優先にしたため、実行犯はカレンが捕らえたものの誰の仕業なのかなど、詳しいことは何一つ分かっておりません」
「ふうん……」
僕は、部屋に転がっているその実行犯という女使用人をチラリ、と見やり、すぐに目を逸らした。
うわあ……コイツに命を狙われたので同情なんて一切しないけど、それでも悲惨だなあ……。
い、一応、生きてはいるのかな……?
「なら、ジル先輩に聞いてみよう。イルゼやカレン、ナタリアさんが動いてくれている間、先輩も色々と動いてくれているはずだから……って」
「「「…………………………」」」
三人が、眉根を寄せてあからさまに不機嫌そうに目を伏せる。
ああ、そういうことか。
今回の毒の一件についてジル先輩を疑っている、又はちゃんと危機管理をしなかったことに腹を立てているんだな。
「いずれにせよ、ジル先輩と話をしないと始まらないよ。ということで、ジル先輩を探そう」
僕は努めて明るく話し、扉を開けて部屋を出ると。
「あ……」
「ルー、君……っ」
部屋の前で、ジル先輩が立ちすくんでいた。
でも、僕の姿を見た瞬間、そのエメラルドの瞳から大粒の涙が溢れ出す。
「ジ、ジル先輩」
「う、ううん、大丈夫……」
ジル先輩はくるり、と後ろを向いてしまい、その顔を両手で覆い隠す。
普段なら、僕に勢いよく飛び込んでくるところなのに。
ハア……ジル先輩もジル先輩で、不器用だなあ……。
「グス……え……?」
「ジル先輩……別に、先輩が僕を毒殺しようとしたわけじゃないんですよね?」
僕は、後ろからジル先輩の艶やかな黒髪を優しく撫で、優しく語りかけた。
多分、こう見えて責任感が強い彼女のことだから、僕が寝ている間、ずっと苦しんでいたと思うから。
「っ! も、もちろんだよ……だけど……だけど……っ」
「だったら、ジル先輩も泣かないでください。ナタリアさんのおかげで僕もこうして無事なんですし、それに、イルゼがナタリアさんを呼びに行けたのだって、ジル先輩が手配してくれたからでしょ? なら、ジル先輩だって僕の命の恩人の一人ですよ」
ジル先輩の前へ回り込み、精一杯の笑顔で笑いかけてみせた。
「うあああああああん! ルー君……ルーくうん……っ!」
「あ、あはは……」
とうとう堪え切れなくなったジル先輩が、僕の胸に飛び込んで号泣した。
そんなジル先輩の背中をさすりながら、僕は……毒を持った奴に、激しい怒りを覚えた。
イルゼを、カレンを、ナタリアさんを、そしてジル先輩を、こんなにも悲しませ、苦しませたんだ。
――僕は、絶対に許さない。
◇
「ヒック……本当に、ごめんなさい……」
「や、やだなあ。ジル先輩だってある意味被害者なんですから、もうやめてくださいよ」
ようやく泣き止んだ今も、ずっと頭を下げっぱなしのジル先輩に、半ば懇願する。
ナタリアさんはやれやれ、といった表情で肩を竦め、カレンは表情を変えずにその様子を見ている。
だけど。
「…………………………」
……イルゼだけは、まだわだかまりがあるみたいだ。
聞いた話だと、僕が倒れてからかなりジル先輩につらく当たったみたいだし、バツが悪いのかもしれない。
それと同じくらい、やっぱりジル先輩に思うところもあるんだろうけど。
これに関しては、まずはやることをやってからケアすることにしよう。
「それで……ジル先輩のほうでも、調べていただいたんですよね?」
「グス……う、うん……事態が事態だったから、料理人や給仕をはじめ、この日食堂に一度でも立ち入った者は全員拘束してあるよ」
「そ、そうですか……」
意外と思いきったことをするなあ。
ジル先輩は優しいから、そういうことは躊躇うと思ったんだけど。
「ルー君……どうする? もし君が許せないというなら、全員処刑するけど……」
「いやいや、落ち着いてください。全員が犯人というわけではないんですし、まずはちゃんと犯人を特定してからにしましょう」
「う、うん……君がそれでいいなら……」
渋々といった様子で僕の言葉を受け入れてくれたけど、ジル先輩ってこんなに容赦なかったっけ?
何というか、あのヒャッハーなお兄さんと少し同じように感じたのは、気のせいであってほしい。
「それじゃ、その料理人や給仕達にも、話を聞きに行きましょう」
「うん」
僕達は、料理人達が拘束されているという地下牢へと向かった。
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