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絶対に、失いたくない①

■イルゼ=ヒルデブラント視点


「ルイ様!? ルイ様!?」


 突然吐血し、テーブルに突っ伏してしまったルイ様。

 あまりの事態に、一瞬我を忘れてしまいそうになりますが、それどころではありませんっ!


「ルイ様! ルイ様!」


 私はルイ様のお(そば)に駆け寄り、何度も声をかけます。

 ですが、一切反応はなく、苦しそうにか細い息をするだけ。


 ええ……分かっています。

 ルイ様は、毒を盛られてしまったのです。


「ジルベルタ様! 医者と神官を!」

「え……え……?」

「早く! ルイ様を見殺しになさる気ですか!」

「っ!? う、うん! 誰か! 早くお医者様と神官長を連れてきて!」


 ようやく意識が戻ったジルベルタ様は、すぐに使用人達に指示を出しました。

 私もこうしてはいられません。


「ルイ様……失礼します」


 ルイ様の口の中に指を入れ、無理やり毒を吐かせようとします。


「ゲホ……ゴ……ボ……」

「っ!?」


 どす黒い血とともに出てきたのは、先程食されたオードブルの魚の切り身。

 私は躊躇(ためら)いもなく、それのにおいを嗅ぎ、口に含みます。


「……ぺっ」


 やはり……これは、毒に間違いありません。

 それも、かなりの猛毒。


 その時。


「う……ぐ……っ」

「……大人しくする」


 カレンが、女使用人の一人を炎の鞭のようなもので拘束していた。

 おそらくこれは、彼女の火属性魔法で、使用人はルイ様に毒を仕込んだ者なのでしょう。


 この、女が……っ!


 今すぐ息の根を止めてやりたい衝動に駆られますが、今はルイ様をお救いすることが先決。

 私はルイ様の気道を確保しつつ、知識と記憶を総動員させて飲んでしまわれた毒の特定を急ぎます。


 その時。


「お医者様と神官長様が来たよ!」

「っ! お願いします!」


 医者と神官にルイ様を預け、私はその手を強く握りしめながら様子を見守ります。

 それと同時に、私は激しい怒りを覚えました。


 このような真似をした者に対してもそうですが、それ以上に……大切なルイ様を守れなかった、自分自身に。


 どうして私は、ジルベルタ様の言葉をそのまま受け入れてしまったのか。

 どうして私は、ガベロット海洋王国におけるルイ様のお立場に思い至らなかったのか。


 全ては、私の責任です……っ。


「……できる限りのことはいたしましたが……」

「覚悟はしておいたほうが、よろしいかと」

「そ、そんな……っ」


 ジルベルタ様が絶望の表情を浮かべ、床にへたり込みます。

 そもそも、彼女がルイ様を誘わなければ、こんなことにはならなかったのです。


 そう考えたら、私はジルベルタ様にまで、憎悪の念を抱いてしまいました。


「う……うう……」

「っ! ルー君!」


 うめき声を上げたルイ様の(そば)に、ジルベルタ様が駆け寄ろうとしますが。


「来るな!」

「っ!?」


 思わず、大声で叫んでしまいました。

 ですが……私は、この女を絶対にルイ様に近づけたくない。いいえ、近づけさせない。


「カレン。その女を連れて、部屋に戻りますよ」

「……ん」

「あ……」


 私とカレンはジルベルタ様を無視し、ルイ様を抱きかかえて部屋へ戻った。


 ◇


「早く! 吐きなさい!」


 目の前の女を打ち据えながら、私は問い(ただ)す。

 既に女の身体はカレンの炎の鞭によって焼けただれ、私が折った手足があらぬ方向に折れ曲がっている。


 もちろん勝手に死なせないため、女が舌を噛まないように口に布を詰めています。

 ええ、この女が口を割るまで……ルイ様をお救いするまで、死んでも死なせませんとも。


「……どうするの?」

「今考えているところです!」


 尋ねるカレンに、私は思わず声を荒げてしまいます。

 ルイ様を失うかもしれない……その恐怖に耐えられなくて。


 記憶を……知識をたどっても、ルイ様の毒は特定できませんでした。

 こうなると、ルイ様の体力にお(すが)りするしかありません。


「……イルゼ」

「何ですか! 私は今、あなたの相手をしている暇は……!」

「……マスターを救える人、忘れてる」

「ルイ様を救える人!?」


 カレンが漏らしたその一言に、私は彼女の肩をつかみかかりました。


「……ん。聖女なら……ナタリアなら、救えると思う」

「っ!」


 そうです……私は、どうして思い至らなかったのでしょうか……。

 私達には、西方諸国で最も光属性魔法に優れた聖女、ナタリア=シルベストリという仲間がおりました。


 彼女なら、あるいは……。


「……カレン、私は今から、ラティア神聖王国に向かいます」

「……ん」

「だから……だから、ルイ様を絶対に守り抜いてください」

「……任せて。ウチが絶対に、マスターを守る」

「よろしく……お願いします……」


 私は決意を秘めた瞳で気丈に振る舞うカレンに深々と頭を下げた後、部屋を飛び出してジルベルタ様を……探すまでもありませんでした。

 彼女は、この部屋の前で震えていらっしゃるのですから。


「ジルベルタ様」

「あ……イ、イルゼ、ちゃん……」

「話は後です。今すぐ、私をゲートへと連れて行ってください」

「ゲートへ……?」

「いいから! 今は一刻を争うんです!」

「っ! わ、分かったよ!」


 私が怒鳴りつけると、ジルベルタ様はゲートまで案内してくださいました。


「そ、それで、どこへ向かうつもりなの?」

「ボルゴニア王国を経由して、ラティア神聖王国へ行きます」


 ガベロット海洋王国は先の教会の不始末により、取引先としてボルゴニア王国と国交を結んだことは聞き及んでいます。

 なら、そこから向かうのが考えられる最短ルート。帝国からでは、ルイ様のことを問われ、足止めされてしまう可能性がありますので、一分一秒を争うこの状況でそれは致命的ですから。


 そして。


「……通信魔法で、ボルゴニア側には事情は伝えてあるから、すぐにラティア神聖王国に向かえると思う」

「…………………………」

「イルゼ、ちゃん……お願いします。どうか……ルー君を助けて……っ」

「言われなくても」


 ぽろぽろと涙を(こぼ)すジルベルタ様に、私は素っ気なく返事をすると、ゲートにより一瞬にしてボルゴニア王国へ転移した。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
口に布を詰めて吐け…だと
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