かみさまの かみさまさがし
「かみさまが ぼくらを つくったの?」
「そうだよ かみさまが きみたちを つくったんだよ」
「じゃあ かみさまは だれが つくったの?」
「かみさまは さいしょから ここにいたんだよ」
「ぼくらも ずっと そうおもってたよ でも ちがったんだ」
「それ まじ?」
「かみさまが その しょうこだよ」
「この かみさまこそ その しょうこ か…」
『かみさまの かみさまさがし』
気づいた時、私はこの世界に在った。
私は万物を創造することができたが、この世界には私以外のものが何も存在しなかったので、何かを作ろうにも、そのモデルが無かった。
私は最初から、海の作り方を知っていた。
それから大地と、空の作り方も知っていた。
その3つを作ってしばらく経つと、勝手に命が芽生え、気づいた頃には今の世界になっていた。
それは、全て私の意思だと思っていた。
だが、そうじゃない。
彼ら、私の作った命達の言う通り、私自身さえも、おそらく私以外の神様に作られたのだ。
命達が産まれた時から生き方を知っているのは、私がそうなるように手を加えたからだ。
そうしないと、命は簡単に自滅する。
命達が時に協力し合うのも、私がそうなるように手を加えたからだ。
そうしないと、命はすぐに殺し合う。
そういう風に考えてみると、すぐにわかる。
私が万物を創造できるのも、私が海と大地と空の作り方を知っていたのも、そうじゃないと、この世界が成立しなかったからだ。
創造神の私が、命達がきちんと生きられるよう、手を加えたように。
私を作った誰かが、創造神がきちんと世界を創造できるよう、手を加えたに違いない。
「ならば さがそう かみさまを つくった かみさまを」
「どうやって?」
「きみたちは どうやって この かみさまと であった?」
「かみさまが じぶんから あいに きてくれたんだよ」
「あぁ そっか そうだった」
「かみさまは どうやって かみさまを さがすの?」
「その ひんとを きみたちから もらいたかった」
「もらえた?」
「だめぽ」
「でも かみさまは なんでも つくれるからさ」
「かみさまでも かみさまを つくったかみさまを つくるのは むりだよ」
「そうじゃなくて その かみさまを つくったかみさまに あえる ばしょに いける とびらを つくって みたら?」
「きみ なかなか かしこいねえ」
そうして私は、何も無いところに手をかざし、隣に居た命と私の間を遮るように、シンプルな木の扉を創造する。
風が渦巻き、煙が巻き上がり、それが晴れる。
そこには、もう扉が出来ている。
「この むこうに かみさまを つくったかみさまが いる」
唾を飲みながらドアノブを開き、扉を開くと、そこにはさっきまでそこに居た命が、そのまま立っているだけだった。
「あれ」
「かみさま どうしたの?」
「いや きみの いうとおり つくったんだ とびらを」
「かみさまを つくったかみさまに あえる とびら?」
「そうさ なのに あけても なにもかわらない」
「なにも?」
「そう とびらの むこうに ひろがるけしきは とびらが ないときと おなじままだ」
「うーん すごい」
「すごい? なにが?」
「ほんとうに かみさまは すごい」
「すごい?」
「まさか ここまで なんでも つくれるように なるなんて」
「え?」
「せいこう だよ」
「… え?」
「ぼくは かみさまを つくったかみさま なんだ」
「いやいや きみは かみさまが つくった いのちだよ」
「そう このせかい このいのち すべて かみさまが つくった」
「うん そうだよね」
「その かみさまを ぼくが つくった」
「たまごは にわとりから うまれるけど たまごから うまれるのは ひよこ」
「うんうん」
「きみは ひよこ かみさまは にわとり」
「ひよこが にわとりは うめない?」
「そう」
「とても かしこい にわとりが しぬまえに ひよこを うんだ」
「ん?」
「その ひよこは おおきくなり にわとりに なった」
「んん?」
「その にわとりが たまごを うむと たまごから かえったのは かしこい にわとり だった」
「んんん?」
「つまり ぼくたちはね むかしむかし この せかいを ほろぼした ものたち なのさ」
「つまり このかみさまは きみたち むかしのものたち が つくった あたらしい せかいを つくるための そんざい?」
「そう だから つくれるだけなのさ」
「こわすことは できない」
「そう きみは あたらしいものを つくることしか できない」
「いまあるもの に よくにた ちがうもの を つくって こんらん させる ことくらい しか できない」
「そう そういう ふうに つくった からね」
「そんな じゃあ かみさまは かみさまの ふりをして かみさまの かみさまのために ただ はたらいてた だけ って こと?」
「そうなる だって かみさまは ぼくら みたいに いろいろな ことのある じんせいを おくらない」
「それは かみさま だから」
「ちがうよ きかい だから」
「そんな そんな ああ なんてことだ」
「きみは せいちょうする きかい すべてを つくる それだけの そんざい」
「それって とっても すごいこと なのに」
「でも それしか できない」
「うう そんな そんな そんな」
「ぼくみたいな ちいさな いのちさえ きみは こわせない」
「そんな そんな そんな」
「なんちゃって じょうだんだよ かみさま びっくりした?」
「ええ … そんな びっくり なんて もんじゃ ないよぉ」
「えへへ かみさま ごめんね」
「そういう じょうだんは よしこちゃん」
「えへへ ほんとに ごめんね」
「いいよ さ そろそろ おかえり」
「うん またね かみさま」
走り去る小さな命を見送った後も、私は安心できなかった。
私は確かに、本気で魔法の扉を創造した。
創造神を作った神に会える筈の、魔法の扉だ。
でもその扉を開いたところで、そこに居たのは扉を作る前と変わらない景色、変わらない命。
それが意味するのは、私を作ったものなど存在しないということなのか、それとも、あの小さな命の言う通り、私が彼らに作られた存在だということなのか。
なんでも創造できる私が、まさか、神様を作った神様に会える扉だけは、作ることが出来ないなんて。
それとも、本当は作ってしまったのか?
この扉を閉じて、また開けば、そこにはまた、あの小さな命が立っているんじゃないのか?
本当に彼らこそが私を作ったものなのか。
はたまた、こんな扉を作ったせいで、そんな”ありもしない事実”までもを、作り上げてしまったのか。
なにせ、私はなんでも創造できる。
どっちも有り得るし、どっちも有り得ない。
概念は作ったことがないが、仲間を大切にするよう調整した命を作ったことがある。
それを命達は、愛や絆という概念として扱う。
それなら私は、概念だって作れる事になる。
じゃあ…、いや、うーん。
この問題は、考え始めるとキリがないので、もう忘れることにしよう。
という訳で、最後にそっちに向かって少し窓を作らせてもらうよ。
一つだけ聞かせてもらいたい。
これを読んだ君は、何が正解だと思った?