彩花の手紙
えりは帰宅するとスーツから和装に着替える。家ではこの方が落ち着くのだ。
「えりちゃん、お茶どうぞ。」
ゆきがお茶を入れる。
「ありがとう。ゆきちゃん。ってなんで君がここにいるんだ?」
「何って取材ですよ。」
「何の取材だ?」
ゆきは今小説の主人公をえりをモデルにして書こうとしている。
「主人公のお姉様は妹と添い遂げるため男装するの。」
「はいはい。分かったからもう帰りなさい。おじさんもおばさんも心配するよ。」
「お父様には言ってあるわ。今日はえりちゃんの家に泊まると。」
えりは仕方ないかと言うようにため息をつく。
「ところでえりちゃん、どうしてみやこ先生が犯人じゃないって分かったの?」
「手紙だよ。」
手紙とは彩花がみやこ宛に書いた物だ。以下のように書かれていたらしい。
「親愛なるみやこお姉様
文面ではこう呼ばせて下さい。突然のお手紙に驚かれたでしょう。
私とお姉様が出会ってちょうど1年が立ちました。音楽室の窓から桜の花が満開に咲き誇り、貴女は窓際のピアノの椅子に腰かけイタリアの歌曲を奏でておられました。貴女の美しいお姿と旋律に目を奪われました。すると貴女は笑って手招きをして下さいました。
貴女と音楽室で過ごす時は私にとって幸せな時でした。
実のところ私に縁談話が舞い込んできました。私は卒業を待たずに7月いっぱいで中退します。ですがその日まで私は貴女の妹です。
もし宜しければ私と桜の簪の誓いをして頂けませんでしょうか?明日の放課後桜の木の下で待ってます。
大正10年 4月10日 小風彩花」
この手紙で彩花とみやこの関係が立証された。
「手紙と桜の簪。それがみやこ先生と彩花ちゃんが慕い合っていたのを証明した。だからみやこ先生は犯人じゃない。」
それがえりの考察だ。
「だけど彩花さんは慕っていてもみやこ先生は。だってみやこ先生から彩花さん宛の手紙があったならともかく。」
「だからそれを探しに行くんだ。」
翌日ゆきはえりと共に小風家を訪れた。
小風家では彩花の通夜が行われていた。みやこの姿もあった。
ゆきとえりは焼香をすませると彩花の両親に挨拶する。両親は快くゆきとえりを迎えてくれた。
「あの、つかぬことをお聞きしますが。」
えりは自分が探偵で彩花の事件を捜査してること、彩花の部屋を見せてもらえることになった。
ゆきとえりは彩花の机の引き出しを漁る。
「えりちゃん、これ」
ゆきが見つけたのは大量の手紙だった。
これらは全てみやこからもらった物だった。