西洋帰りの音楽教師
「ねえ、何があったのかしら?」
「みやこ先生が5年生の彩花様を殺したとか?」
「そんな、彩花様とみやこ先生ってあの桜の簪の約束事するくらい親しかったのでしょ?」
「そうよ。私見たもの。彩花様が放課後音楽室でみやこ先生とピアノを奏でているとこ。」
「わたくしも。素晴らしいゆにぞんでしたわ。」
「でも彩花様って婚約者がいたのでしょ?」
「分かったわ。きっと彩花様が自分の物にならないのならとみやこ先生が。」
「まあ怖い。」
少女達は応接間の前でそんな噂話を繰り広げてています。
その応接間ではゆきとえりがみやこに尋問をしていました。
「高山みやこさん、貴女は事件当日被害者彩花さんと会っていましたね?」
高山みやこ。23才。彼女はこの女学校に勤めて2年になります。桜咲女学校の卒業生で華族令嬢。卒業後はイタリアの音大に留学。昨年教師として戻ってきたのです。
「ええ、中庭の桜の木の下で会っていたわ。」
「差し支えなければどの様な要件であっていたか教えて頂けませんか?」
みやこは桜の木の枝を取り出します。
「これですわ。貴女もここの卒業生なら何なのか察しがつくと思われますわ。」
「ああ、あれか。」
えりにも察しがつきました。在学中えりは下級生によくせがまれてました。下駄箱には多数の恋文。しかしそんな物には興味はなかった。
「やっぱり先生が彩花さんを」
「落ち着いてゆきちゃん。」
隣にいたえりがゆきを制止します。
「何度も言うようですがわたくしはやってません。そもそもわたくしが彩花ちゃんと会っていたのは16:00。その30分後には職員会議があるので職員室にいましたわ。他の先生方もいましたので証明してくれるはずですわ。それに凶器パレットナイフでしたよね?わたくし持ってませんもの。わたくしの私物調べてもでてきませんわ。」
ちょうどそこに1人の和装の男性教師が通りかかる。古典の教師石倉先生だ。美青年で生徒には人気がある。
「高山先生は職員室にその時間来てました。私が証言します。」
「そうですか。」
みやこにはアリバイがある。しかしえりには気になることがあった。
「みやこ先生、貴女は彩花さんに婚約者がいた事はご存知のはずですよね?」
「ええ。」
「ではなぜ桜の簪の誓いなどしようとしたのでしょうか?矛盾してませんか?」
みやこは黙って1枚の紙を差し出す。それは彩花がみやこ宛に書いた手紙であった。
「2日前の朝わたくしの職員室の机の上に置かれていました。」
「拝見しても宜しいですか?」
えりは手紙を黙読する。
「分かりました。手紙はお返しします。疑って申し訳ありませんでした。」
ゆきはその様子を傍らで見ている。
「えりちゃん、いいの?」
「ゆきちゃん恐らく彼女は犯人じゃない。ゆきちゃんも謝って。」
2人はみやこに頭を下げると職員室を後にした。
職員室にはみやこと石倉だけが残る。
「石倉先生、さきほどはありがとうございました。」
「気にすることないよ。」
石倉は背後からみやこの肩に右手を回し、左手で髪を撫でる。