私の商売、私の仕事。
受付嬢「ランクアップおめでとうございます」
少年「ありがとうございます!」
冒険者A「お、ボウズ!お前またランクアップしたのか!」
冒険者B「俺たちが追い抜かされるのも時間の問題かねぇ」
冒険者C「そう簡単には抜かされてやんねぇよ!」
少年「いえいえ、そんなそんな!」
ギルド長「ボウズ!お前もランクアップしたんだし、そろそろあそこの店行ってもいいんじゃねぇか?」
少年「あそこの店?」
中年冒険者「お?ボウズはあの店しらねぇのか。ギルマス!俺が連れてっとくよ!」
ギルド長「おう、頼むわ!こっから先は必要になって来るからな」
中年冒険者「よし!そうと決まりゃぁいくかボウズ!」
少年「わ、た、っと…あの店って何なんです?」
中年冒険者「ついた、ここだ!」
少年「ここは…!」
中年冒険者「お?知ってたか?ここはこの国一番の魔導具店だ」
文官「おお!注文の通りだ!」
店主「当然ですよ。それが私の商売、私の仕事ですからね。」
文官「助かる!料金はこれだ。」
店主「どうもありがとうございます」
文官「また何かあったら頼むよ!」
店主「いつでもどうぞー!」
少年「今の人は?」
中年冒険者「あいつは、この国の城で働いてる文官だ」
少年「えっ!お城の人なんですか?」
中年冒険者「あぁ。この店には冒険者、兵士、貴族、平民、中には身分を隠した王族も来るって噂があるんだ」
少年「えええ!?」
店主「さてと、いつまでも店先で立ち話はどうなんだい?」
中年冒険者「おおっと、さて行くか」
少年「あ、はい」
中年冒険者「よぉ店主、相っ変わらず儲かってるみてぇじゃねぇか」
店主「えぇえぇおかげさまで。皆さんの信用信頼のもと、商売させてもらってます」
中年冒険者「そりゃいいこった。っとぉそうだ、今日はこいつを連れて来たんだ」
少年「えと、はじめまして!」
店主「ほぉぉ… なかなか将来有望そうな子じゃないですか」
中年冒険者「だろぉ? こいつランクアップしたばっかなんだがな、ランク帯的にそろそろこの店を利用させようと思って連れて来たんだ」
店主「おぉ!それはそれは、ありがとうございます!よろしく、少年」
少年「はい、よろしくおねがいします」
店主「そろそろ彼が来る頃かな…」
少年「こんにちは!店主さん!いつもの御願いします!」
店主「はいはいっと。いつもの…これらだね。いつもご苦労さん」
少年「いえ、危険なところに行って戻ってこられるのも、強い魔物と戦えるのも、みんな店主さんの道具のおかげですよ!」
店主「それが私の商売、私の仕事ですからね。」
少年「はいお金。じゃあ行ってきます!」
店主「あぁどうも…ってもう行ってしまったか。やれやれ。」
店主「あぁどうも雲行きがあやしいな…」
少年「店主さん!!!」
店主「おやどうした少年、今日はクエストって感じじゃないね」
少年「大変なんだ、店主さん!スタンピードだよ!」
店主「おや」
少年「すぐそこまで魔物が迫ってる!早く逃げて!」
店主「まぁまぁあわてなさんな、ちょっと待ってなよ」
少年「そんな悠長な…」
店主「ほら、これ持ってきな」
少年「えっ…これは」
店主「そろそろ周期だと思って作っておいたんだ。結界展開用魔導具と範囲回復場設置魔導具。効果時間は共に3日。発動後の移動も可能だ」
少年「なっ…!!」
店主「あとこれは使い捨てだがね、四半刻ほど防御力を上げる宝珠だ。地面に叩きつければ発動する。効果範囲は1ドゥナム。十分だろう」
少年「えっと…」
店主「あぁあとこれだ。転移符。転移先はこの街の広場に設定しておいた。動けなくなった味方に使うといいよ。これは1回しか使えない上に、50枚しか用意できなかったがね。」
少年「あの…お金は…?」
店主「そんなものいらないよ。この国の一大事じゃないか。さっさと仕事にいくといい。後方で補助しかできない私が出来るのはこのくらいだよ」
少年「でも…そんな、こんな沢山の魔導具…」
店主「いくら商売人といってもね、時と場所は弁えるものさ。私は助かりたい。君は助けたい。私は渡すべきものを渡した。君はやるべきことをやるといい」
少年「っ……! わかりました。本当にありがとうございます!終わったら絶対お金払いに来ますからね!」
店主「いいっていいって。これが私の商売、私の仕事だよ。」
少年「店主さん!」
店主「おお、来たかね少年」
少年「はい!あの時は本当にありがとうございました!」
店主「無事、スタンピードは乗り切ったようだね」
少年「はい!それで、あの時頂いた魔導具のお金なんですけど…」
店主「別にいいって言ったじゃないか」
少年「いえ!その、国王様が…その…貢献に対して褒美を…と…」
店主「あー…なるほどね。じゃあおとなしく登城するとしますか。とっとと貰うものを貰いに行きましょう」
少年「えっ!? お金いらないって言ってませんでした?」
店主「いらないけどね。国の非常時に出来る事をやっただけ。これでお金は取れない。でも、国の立場としては何も出さないわけないはいかないものなんだよ」
少年「すみません…」
店主「少年が謝ることじゃないだろう? 少年が私のところに来たから魔導具を渡せた、そして少年はそれを活かした。それでいいじゃないか」
少年「その、ありがとうございます」
店主「まぁお金には困ってないがね、折角の謁見の機会だ。貰えるだけ貰って、ついでに次の注文でも取ってきましょう」
少年「あ、あはは…仕事しに行くみたいですね…」
店主「これが私の商売、私の仕事だよ。」
店主「やぁ来たね少年、久々じゃないか」
少年「お久しぶりです店主さん。結局爵位は貰わなかったんですか」
店主「あぁ、あんなもの。本来いらなかった金を貰ったんだ。それ以上貰ってたまるかってもんだよ」
少年「店主さんはもっと偉くなっても誰も怒らないと思いますよ?」
店主「偉くなったら店が出来ないじゃないか。それに、私が爵位持ちになったら、だれが店が継ぐんだい?誰が少年たちに道具を売るんだい?」
少年「………」
店主「私は日々を生き、この国の人々を、身分を問わず、力になりたい、私の魔導具で少しでも幸せにしてやりたいと思っているんだよ」
店主「冒険者が、兵士が、生きて帰って来るために。市民が、労働者が、明日を生き抜くために。後ろから裏から下から、私が役に立ちたい」
少年「店主さん…」
店主「そんな私が出来るのが、魔導具を作り、売る事。これが私の商売、私の仕事だよ。国王ごときに私の仕事は変えられんよ」
少年「すごいなぁ…」
店主「少年。君も何か夢か信条を持ってみるといい、何が大事なのかがわかる。仕事にやりがいがでるよ」
少年「はい!」
店主「くふふ。で、要件はそれだけかい?」
少年「え? あ、そうだ! これから遠征なんです。いつものをください」
店主「はいよ、いつものだ。」
少年「ありがとうございます。あれ?この店、伽物も置いてたんですか?」
店主「あぁそれか。それは私が書いているものだ。もちろん販売もしている」
少年「へー…遠征の間に読もうかな… じゃぁこの赤いのと青いの、お願いします」
店主「くふふ。少年もそういうの(赤いの)を読む年頃なんだねぇ…」
少年「へ? ちょっと中を見させてもら… ……!?!? な、なんですかこれ!!!」
店主「くっふっふっふっふ、少年にはまだ早かったかな?」
少年「……! ……、…!!」
店主「………。………、…………!!」
少年「まさか…そんな…」
店主「おや、やっと来たのかい?」
少年「なんで…なんでなんですか…店主さん!」
店主「なんで…とは?」
少年「なんで、この国の人達みんなに慕われ、冒険者の人達にも、お城の人達にも良くされてるあなたが…! なんで間諜なんか!」
店主「くふっ、くふふふふ」
少年「なんでなんですか!!!」
店主「なんで、と言われてもねぇ… 『それが私の商売、私の仕事』だからとしか言いようがないよ、少年」
少年「民の為って、みんなの為っていうあの言葉は!」
店主「それはもちろん、民の為、みんなの為だよ。冒険者やお城の人達、貴族王族の為でもある。あくまで、『私の国の』と付くがね」
少年「……!!!! 国王様に店主さんの仕事を変えられないって言ってたのは…」
店主「当然、この国の所属でない私の職業を、勝手に変えることはできないだろう? 私の仕事は、私が忠誠を尽くす我が王の勅命なのだから」
少年「夢や信条を持てっていってたのは…」
店主「私自身が何をするかだよ。我が王が何を求めているかだよ。事実、何が大事なのかもわかるし、仕事にやりがいはあったよ」
少年「でも、でも!あんなに皆さんによくしてくれてたのに!お祭りにだって行ってたじゃないですか!あんなに楽しそうだったのに…!」
店主「いやいや、私も楽しかったよ。それは嘘じゃない。でも、それで君たちに絆されてるとでも思っていたのかい? いつも言っていたじゃないか…
『これが私の商売、私の仕事だよ』
ってね」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
これは2019年11月に、ツイッターのハッシュタグで「#私が悪役だったらありそうな設定をフォロワーさんが教えてくれる」というのがあって、そこに投げたやつをもとに肉付けした短編です。
最初の方は普通に役に立つNPC。
そのうち段々協力的になるNPC。
だけど、RPGとかで選択や好感度によっては、ラスボス後に出てくる裏ボスみたいな立ち位置になってしまう、実はものすごく強い、NPCだった存在…
みたいなテイストで書きました。こういうの大好きです。