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1話 「もう最あ……く」

2話連続投稿です。

「おはよう。」


9月になったというのに今日も朝からセミが必死に鳴いている。

今日は始業式。

夏休みが終わり学生の私達が最も嫌う日がやってきた。

といっても引っ越して転校初日の私にとっては少しだけ楽しみだった日なのだけれども。

今日は少しでもいい日になればいいななんて考えつつ湯気立つケトルから珈琲カップにお湯を注ぐ。真夏に熱い珈琲なんてどうかと思うけど大人っぽく背伸びしてみたいから朝御飯に珈琲をチョイスしてみた。いつも飲んでた牛乳とはおさらばでブラックのだ。


チーン


オーブンの方から軽やかな音が鳴る。


「あっ!食パン焼いてたの忘れてたぁ!」



木の床が千切れそうな鈍い音を放つが私は気にせずオーブンに駆け寄った。

オーブンの赤い取っ手を持ち恐る恐る開けるが中に入っているのは黒く焦げた食パンだった。


「もう最あ……く」


もう最悪。そう呟きながら食パンを取り出し使えに戻ると机には倒れた珈琲カップと畳まで零れる珈琲があった。



「な…な…なんでよ…!」



もう今日はついていない日そう思いながら雑巾で珈琲を拭いていた時

棚にある小型のテレビからは

[今日12位なのは蟹座です。

蟹座の皆さんはトラブルにも慌てず二次被害を起こさないようにしましょう]

とテレビのニュースキャスターの声が響いた。






新しいセーラー服の制服に袖を通し鏡の前でくるりとはねた毛先が桃色っぽく薄くなっている茶髪の前髪の寝癖を直し他にボブの髪が外側に跳ねていないか確認をする。

その後私は自分の頬っぺたを上に持ち上げ笑顔を作る

「私は飯田岡学園から引っ越してきました桃井彩花です。よろしくお願いします!」


と自己紹介のいわゆるテンプレートを鏡の奥の自分に向かって話す。

笑顔の出来と自分の自己紹介に満足した私は教科書や筆記用具が入っているオレンジと赤っぽいピンクのリュックサックを背負いもう一度身だしなみを整える。


「いよしばっちり!…ってもうこんな時間だよ急がなくっちゃ」


準備万端な私は玄関の棚にある籠から自転車の鍵と家の鍵を取り出しドアを開け飛び出し乱雑に鍵をかける。

鍵がかかったか確認するや否や私は階段までダッシュ。

アパートの廊下を駆け階段をおりるのも惜しい私は人目を気にしつつ階段の手すりを滑り勢いよくとびだした。


くるりと体重を感じさせないかのように降り体に着いた少しの砂埃を落とす。

パパッとスカートを軽く叩くようにして。

そして利き手の右腕につけているうさぎを模した腕時計をちらりと確認する。

その時計はもう少しで8時に差し掛かりそうで学校には8時10分までにつかなくては行けない。学校は歩いて20分程だと確認済みなのでこのままだと10分遅れてしまう。



「や、やばいよ…!」



私は時計を見るなり全速力で駆け出した。

大通りは信号が多いいからと細い道をくねくねと曲がっていく。

私は事前に街の全貌というか道を把握していたはずだったのだが


「ま、まずいまずい…!これなら大通り通った方が良かった…」


何やら全くもって見覚えのない道。今にも倒れそうな木造の建物や朝帰りに見えるサラリーマンが見えてどうにも危ない雰囲気がだらだらと…

とこの道の先にあるちょっとした通りに同じ制服の男子生徒らしき人が自転車で通るのが見えた。


「あぁ!」


私はリュックサックの紐を握りしめたあと待ってくださいと皆が驚くような大声を上げながら自転車の男子生徒を追いかけた。


「…何だてめぇ」


私の大声が無事聞こえたのか男子生徒は五月蝿そうな眠そうな顔をしつつ自転車を止めた。かっこいい書体の英語の文字が刻まれた赤い自転車は茶髪に黄と蜜柑色のメッシュが入った彼にはピッタリだった。

目の下に少しだけクマが出来目元が暗く見えるのに加え目付きが悪く服も着崩している所から不良っぽさを感じられる。


「私、遅刻しそうなの。」



引き止めてみたものの急に掛ける言葉がなく何故か自分について語り始めてしまった私。ヤバい頭真っ白。



「んで?俺もう行くけど」



欠伸をし興味を全く示さない彼は後ろを向いていたのをやめて前を向き自転車のペダルをこごうとする。



「い、今8時8分なの。あと2分で遅刻。」



私は後ろを向いている彼に見えるはずもない後ろから自身の腕時計を見せつけて時計の針を指で指して強調する。

そして前のめりで



「とりあえず自転車後ろ乗せて」


「じゃあ遅刻しとけ」



見事な会話のキャッチボール。ボールは豪速球で投げ返された。

ペダルをこぎ始めた彼を追いかけ私は何とか彼の目の前に立ち塞がるようにする。

転校初日遅刻なんて何がなんでも回避してやる。



「乗せないと君も遅刻にする!

どうだ!私を乗せる気になったでしょ」


「あーもうしょうがねぇなぁ。勝手にしとけ。あ、帰りにアイスでも奢れ」



彼は私の鬱陶しさに呆れついには折れたようで好きにしろと乱雑に言い放ち自転車をこぎ始める。ついでに見返りを求める辺りがなんだか癪に障るけれど遅刻しなければいいか。



「ん〜じゃもう8時9分なんで飛ばすぞ〜

適当に捕まっとけ」


あとはこの坂を登り着れば…という時彼は残り1分だからと急にスピードを出して来た。一応注意をしておいてくれたようだが言い終わる時には既にスピードを上げており親切じゃないなぁと思う時には自転車の後ろから落ちそうになってしまっていた。


「わわっ…!ちょ、ちょっと〜!」


バランスを崩して落ちそうになってしまった私は咄嗟に自転車を操作している彼の腰へ手をまわしキュッとシャツを掴んだ。



「ちょっ、おま、何手ぇまわしてんだ。」


赤くなる私の顔、周りの人に見られそうで明らか焦っている彼、私のおかげでバランスが崩れかけている自転車、そして目の前には学校の門が少し見える。答えは否。

私は自転車を飛び降り学校の門へと走り出した。


そして淑女な私は勿論お礼を忘れない訳で、門へ走り出しながら名も知らない彼へお礼を述べ後でアイスを奢ると約束をした。

8時10分学校到着。

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