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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人身事故

作者: 神楽 紫苑

これは昔住んでいた田舎の駅の話。


仕事の都合で行く羽目になったのは山岳地帯に囲まれた自然豊かな場所で、一軒だけある大型ショッピングモールのテナントだ。


電車で二駅の場所に会社指定のアパートがあるため、電車で通っていた。

田舎は車を乗る人が多いから電車を利用する人は少ない。

俺も車通勤にしたかったが、今まではそこそこ都会に住んでて免許を取ってからは使ったことがなかった。

所謂、ペーパードライバーだから運転したくても自信がない。


あとは…こんな田舎に長くいる気がなかったから、大金を叩いてまで車を買おうとは思わなかったと言うのもある。


とは言え、田舎は電車の本数が少ない。

朝晩のラッシュ時ですら1時間に3本、それ以外は1時間に1本しかない。


デパートのテナントは他の会社や学校よりも遅い時間に出勤するから、ラッシュにはならない代わりに1時間に1本の電車に乗る。

しかも時間的に早く着きすぎる…だからと言って1本遅いと間に合わないから都合が悪い。


一番、都合が悪いのが終電が23時より少し前に終わってしまう事だ。

おかげで飲みに行っても早めに解散となる。


いつものように電車を待ってると、学生達と出くわした。

この時間では遅刻じゃないのかと思っていると、彼女達の話が聞こえてきた。


「ねぇ、知ってる?駅であった人身事故の事!」

「えー何それ、いつの話よ?」

他に待ってる人が居ないからか駅のホームに彼女達の声がよく響いていた。


「何年か前にあったらしいんだけど、その時に事故に遭った人が今も駅を彷徨っているって噂になってんの!」


「何それ、噂になってるって初耳なんだけど!?え、じゃあ夜とか出ちゃうの?」


女子高生達は幽霊の話で盛り上がっていた。

夏が近いから、そういう話も多くなるし

学生時代は心霊スポットとかそういうの本当に好きだよな…


大人になれば、それどころじゃない。

毎日が仕事に追われて帰ればヘトヘトだ。

幽霊?そんな暇はないっての。


いつもの電車が来て彼女たちと同じ車両に乗る。

そもそも車両も2つしかないのだ。

駅によっては前の車両しかドアも開かないし

これだから田舎は…


そもそも、こんな見通しの良い駅で人身事故ってのがおかしな話だ。

もうそれは事故じゃなくて自殺だろうと思う。


ただでさえ本数が少ないのに、片付けとかで更に時間だって押しただろうし…

いい迷惑だよな。

 


ガタゴトと揺られ今日も仕事へと向かった。




◇◇◇◇◇


「お疲れ様でーす。」


あれから数日が経ち、今日は暑気払いの飲み会だった。

早めに店を閉めて事前に予約をしておいた飲み屋に行く。

職場は10名ほどしか居ないが、とても気さくで働きやすい職場だった。

都会育ちの俺の事も気にする事もなく接してくれる。


田舎は涼しい…とは言うが、温暖化が進んでるのか涼しいと思えた事はない。

湿度が少し低いだけで、日差しは暑いから…涼しい店内から一歩外に出れば汗が噴き出す。

こんな日にキンキンに冷えたビールは堪らなかった。

気がつけば何杯もお代わりをして、足も覚束なくなっていた。


電車があるので早めにお開きになると、緩い風で酔いを覚ましながら気がつけば駅のホームまで来ていた。

酔っていると歩くのが面倒になるから、それを気にする事もなく駅に着いたのは嬉しかった。


自販機で水を買ってベンチに座る。

ゴクゴクと一気に飲み干してしまったが、まだ電車が来ない。


ぼーっとホームを見ていると、ふと先日の女子高生の話を思い出す。

バカバカしい…

そもそも、あれはこの駅の話じゃなかった。

これから向かう駅の話。


そんなことをボンヤリと考えていて、何処か引っかかりを覚えた。

なんだろうか?

どこの部分で引っかかった?


気味が悪くなって周囲を見渡す

終電を待つ人は他に何人かいるのが見える。

変なのは居ない。


…でも、あの時の女子高生がいるのが目の端に止まった。

反対側のホームだ。

行き先が俺とは違うことに違和感を覚える。


前に会った時は俺が住んでる近くの駅だ。

終電になると言うのなら、同じ方面ではないのだろうか?


不思議と目が離さないでいると、反対側のホームに電車が入るアナウンスが流れた


「白線の内側までお下がり下さい」

電車が駅構内に入ってくるのが見える

すると女子高生達はゆっくりと進み…線路へと飛び込んで行った


正面で見ていた俺は恐怖のあまり目を瞑り蹲る。

目の前で人が轢かれたのだ…

その光景がいつまでと頭を離れない。

心臓はバクバクし、身体中からは嫌な汗が噴き出す。

酒の酔いも一気に冷め体はカタカタと震えが止まらない。


…静寂が訪れる。

おかしい…?

静かすぎる。


人が轢かれたというのに、誰も何も叫ばないどころか衝撃音もしなかった。


暫くすると何事もなかったように電車が発車する音が聞こえる。


見間違いだったのだろうか…?

自分は酔っていたし、偶々この間見かけた女子高生の会話を思い出しただけで…

ありもしないことを頭が勝手に事故だと認識してしまったのかも知れない。


だとしたら叫ばなくて良かった。

頭がおかしいやつに思われる。

緊張して強張っていた体から力が抜け、ベンチの背もたれに体を預けた。


きっと気のせいだったのだ。

思いの外…自分はホラーが苦手で、勝手に怖がっただけ。


空のペットボトルに手をかけ、無いのは分かっているが残った数滴を求めて顔を上に上げた。

水が数滴喉を潤してくれた


そろそろ、俺の乗る電車も来るだろう…

ゆっくりと立ち上がろうと膝に力を入れる。

ホームに入る電車と共に生温い風が入り込んだ


その風に紛れて低く掠れた声が俺の真後ろから聴こえた…


『…見間違いじゃないよ?』




ーーーーー

後日、駅員さんに聞いた話だが…

その駅では過去に人身事故は無かったそうだ。

記録を辿ってもそれらしい記述はないと言われた


だが…駅で長年、清掃の仕事をしているおばさんは否定していた。

確かに事故を見た事はないが、いつの間にか変なものを見るようになったという。


詳しく聞こうかと悩んだが、俺はもう…ここに居ることに疲れたから仕事を辞めて帰ろうと思っている。



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