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テーマ「なわとび」

「飛ぶ.......飛ぶ.......飛ぶ!.......飛ぶ!!.......」

(頭の中はその言葉を反諾し続けるだけ。それがイメージを具現化させる魔法の言葉!

あとはそのまま身体を動かすのみ!)


そうして観客が見守る中、足を!手を!身体全体を動かす!

川の流れのようにしなやかに力強く向かう彼女は、夏のインターハイの決勝でも同じようにルーティンをこなす。


そう、幼き日のあの時のように。


-----------------------------------


その日の授業は大縄跳びだった。クラス対抗大縄跳び大会の練習だと担任の先生は意気込んでいたが、少女にとっては最悪の事態だった。


「これなら普通の体育でよかったのに.......」

「いいじゃん!動く時間は飛ぶ時だけなんだから!楽だよ、楽!」

独り言のように口から出た言葉だったが、親友に拾われたため会話の始まりとなってしまった。

これは少女にとってあまり嬉しくない状況だった。


「でも、大縄跳びはみんなでやるんだよ!私は飛べないから毎回止めちゃうし、その度にみんなに見られるし、いい事なんかないよ.......」


確かに少女は飛べないことが多い。というより体育が苦手。もっといえば運動音痴。それが拍車をかけ、外で遊ぶことも大嫌いである。

そのため個人競技も嫌いだが、もっと嫌いなのは足を引っ張ってしまう団体競技だった。

その中でもクラス全員がチームとなる大縄跳びは地獄の競技になるだろう。


それでも親友は話を止めずに、

「大丈夫だよ!ウチが教えてあげるから!!」

等と私の背中を押してくる。


(飛べる子はいいよね。ノーテンキでさ。)

そんな風に心の中で囁きながら嫌々校庭へ向かう。

口に出さない方がいいのは先程学んだみたいだ。


そんな風に時間を無駄にしていたからか、下駄箱で靴を履き替える頃にはクラスメイトは校庭ではしゃいでいた。

それは自分の気分が憂鬱だからか、他の子はいつもより楽しそうに校庭で遊んでいるように見えた。

それを見てさらに落ち込む少女と、一緒にはしゃぎたそうな親友。「早く行こ!みんな待ってる!」

そうやって手を引く親友が、いじめっ子のような笑顔をこちらに向ける。

「わかったわかった。」と、

その場はやり過ごすしか無かった少女だった。


その後の展開は少女の予想通りに残酷だった。

今回の大縄跳びは1人づつ順番に飛び、8の字を描きながらループするものだったが、クラス全員が一周することはなかった。

毎回、少女が止めてしまうからだ。なんども、なんども。

そうするとクラスメイトは(失敗はできない!)と力んでしまって、凡ミスが起きる。そうすると凡ミスの悪循環は止まらず、クラスの雰囲気はどん底まで悪くなっていた。

しまいには、このままではダメだと感じた先生が放課後に練習しよう!と言い出す始末。

これにはクラスメイトも不満をもつのは当たり前で、少女のいこごちが悪くなるのも明白だった。


(何でこんなことになるかな.......)

そう思いながらもこうなってるのは自分のせいなのはわかっている。それがただただつらい。

その罪悪感からか放課後の練習は出ようと決めていた。



--------------------------------


かくして放課後が訪れたわけであったが、少女の目の前には縄を回す先生と親友の姿しかない現状が1時間は続いていた。

少女は(まぁ、そりゃそうだよね。)と悲観的に現状を捉えながらも、(来てくれた親友のためにも飛ばなくちゃ)と罪悪感に立ち向かう。

その姿は立派なものだが飛べなかったら意味が無い。そこまで言わなくても.......と思う人は多いと思うが、少女が立ち向かっているものは少女自身しか解決できない。ここは踏ん張りどころなのだ。

そして、それは一緒に練習している親友と先生にも伝わっていた。


「○○ちゃん!頑張って!!」

「よく見てー!飛べる飛べる!」

激を飛ばし縄を回し続ける2人とは対照的に少女は疲れていた。何度練習しても飛べる自信が出てこないのだ。

それでも縄に目を見張らせ、足を動かし、タイミングを合わせて、


「やっぱ飛べない!!!」


縄は少女の足に阻まれ速度を落とす。飛ぶ前に縄に引っかかってしまうのだ。


「なんでこんなにも飛べないんだろう.......」

天を仰ぎながら溢れた声は小さくともはっきりと紡がれる。

ここまで来ると私は一生運動音痴で何も出来ないままなのだろう。一種の諦めが少女の今までの努力を否定してしまった。


そんな最中、親友の一言が世界を変える。


「飛べるよ!!だってあんなにも絵が上手いんだもん!!絶対飛べる!!」


「.......???」

思わず首を傾げる少女。

しかし、親友の言葉は止まらない。


「あれだけ上手に絵が描けるのは頭の中にイメージがあるからだよ!!!ウチだったらあんなに細かく想像できないもん!!!!だから、飛べる自分をイメージして身体を動かしてみて!!いっぱい想像してそのまま動くんだよ!!!」


「.............!」

わかった!!!!振りをした.......。

親友の言いたいことは分かるが、イメージしても身体が上手に動かないから運動音痴なわけで、そんなことで飛べるわけが無い.......

でも、親友が声を張って言ってくれたことは嬉しかった...!勇気が湧いた!できる気がしてきた!!


「やってみる!!!」

少女は笑顔で答える!最初はわかった振りだったけど、諦めていた気持ちに火が灯る。それと同時に冷静だった。

(出来るまで想像する.......!出来なかったら出来ない理由を探して、細かくイメージする!!!)


こうして、少女は数十分の時間を経て飛ぶことが出来たのだ。

その喜びを他の誰かと共有するという経験と同時に。



--------------------------------



結果は自己タイ記録。順位は7位。高校初めてのインターハイなら十分の結果だろう。それどころか、幼き日の自分からしたら考えられない結果だ。

多分、大縄跳びも飛べなかったと言っても部活の仲間は信じてくれない。


でも.............


「良かったよーーー!!!!!!ナイス!!!!!」


この騒々しい親友はいつまでも覚えていてくれるだろう。そして、証明してくれる。

私は運動音痴で大縄跳びも飛べなかったけど、絵が上手く描けるから飛べたのだと。


「でも、あんなに遠くの観客席から声が聞こえるのは可笑しいな」


やりきった気持ちと共に溢れ出た言葉からは、あの頃の諦めを感じることはなかった。

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