「私」は誰。
私は森を抜け、ひたすら西へ進んだ。
なぜ西なのか?
理由は日は東から登り西に沈むから。日出る国出身の私なら、新しいことを求めるのに西に向かうのは普通のことだろう。うーん。理由としては強引かな。でもこれが理由なんだよなあ。正直なところ、詳しい事は私にもわからない。わかるはずがない。
私は私を知らない。
これは前世からの私の課題だ。呪われた課題だ。忌々しい。考えても考えても。答えがでない。
私は、人の目をみるとその人がどういう人なのか勝手に想像してしまう。
この世界では師匠一人にしか会ってないが、師匠を見た時、あの澄んだ瞳を見つめてしまった。
師匠の瞳は、まるで世界遺産の天然水に透明感があった。きっと彼女はなんでも受け入れてくれる。そんな優しさがある目をしていた。私みたいな迷い人でも、受け入れてくれた。こんなこと言ったら怒るかもしれないけど、私を受け入れたのは彼女の損得考えない、善意だったのだろう。あの人、ちょっと面倒なところがあるけど、あの目は、そういう目だ。覗いてるこっちがあの澄んだ目に呑み込まれて浄化されそうだ。泉の女神は伊達じゃない。
あんな人は初めてだった。だから師事した。身分不相応に憧れてしまった。
まあ私自身が師匠とほとんど同じ姿になっちゃうとは思ってもなかったけどね。
結局三年間。頑張ったけど魔法を覚えただけ。私という人間は何か成長したわけではなかった。
まあ、それもそうか。透明はいくら他の色と重ねても透明なんだから。他の誰かを塗り潰すなんてできないんだから。私という人間に透明を混ぜてもなーんらかわりゃあせんだろう。
両脚に魔法を付与する。
「ブースト。」
水の波動が脚から地面に伝わり、私の体は前方へ加速する。
早く移動する意味はないけど理由はある。考える時間を減らすためだ。
水の魔法っていうのも私に向いていると思う。水は形がないし色もない。何もない私にはぴったりだ。悲しいほどに、私は水に向いていると思う。
私が何者なのか。そんなの前世から鏡でみつめても全然わからなかった。ただただ、何者にもなれない自分への嫌悪感しか残りはしない。それは外見が変わって神様っぽくなっても同じだ。それでも私は前に進んでみよう。少なくとも地理的には進んでる。あとは心がついてくるだけ。もしかしたら初めからなかったかもしれない。途中で落としたかもしれない。見失った私を捕まえるため、私は行動する。
「ここが、この世界の街…。」
波乱の異世界生活が幕を開ける。




