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30事故

「何だ今の音?」

 シュナイダーと顔を見合わせると、珍しく相手から話を聞いてきた。

「おい、俺達のクラスって、次の授業何だった?」

「たしか、薬剤の調合?」

 午後はそんな授業が控えていたはずだ。


「まさか」

「おい、どうした?」

 青ざめるシュナイダーを落ち着かせる。

 ここまでなるということは、思い当たる節があるということか。


「ブラッド、お前も来い。シャルロットが何かやらかしたかも知れねえ」

「シャルロットが?分かった、急ごう」

 理由は聞きたいが、どうも一刻を争うような気配だ。

 俺とシュナイダーは、音のする方へと急いだ。



「ああ、私、ごめんなさい!」

 音の発生源に近づくにつれ、そんな叫び声が聞こえた。

「この声、シャルロットか」

 様々な施設の入った学院。ここは敷地の角に当たり、魔法植物の栽培をする為の菜園があったはず。

 

 だが、目の前に広がる光景に、その影はなかった。

 代わりに、ビニールハウスを突き破るほどの大木が暴れていた。

「あれは、マンドレイクか?普通のサイズじゃないな」

「あの馬鹿、またやりやがった」

「どういう事だ?」

 頭を抱えるシュナイダーに、改めて問う。


「あいつ、調合がど下手なんだよ、中学でやらかした時は、校舎が半壊した事もある」

「それはもはや、下手とは言わないだろう。担当の先生は何を…」


 教師を見つけて、言葉に詰まる。マンドレイクはその一体だけではなかった。

 大きさこそ小さいが、何体もいるせいで、対応仕切れていない。

 生徒は棒立ち。まあ、下手に刺激しない方が良い。マンドレイクは表皮が硬く、なかなかしぶとい。


「おい、どうする?あのまま行くと、校舎にぶつかるぜ」

「分かってる。ちょっと待ってろ」

 担当の教師に走って近づいた。

 生徒のせいで異常増殖したとはいえ、意味もなく生き物を殺すのは気がひける。


「あのマンドレイク、退治するべきですか?先生」

「君は、たしかブラッド君。ああ、やってくれ。生徒が少し魔力の量を間違えてしまってね。マンドレイクは種子さえあればまた栽培できるから気にしなくていい。僕の魔法では捌ききれない」


 そのようだ。こうもバラバラに動かれては魔法をかけるのも一苦労だろう。

「じゃあ、動きを止めます。その代わり、あの一番でかいの、お借りします」

「構わないけど、どうして?」

「ちょっと腕を試したくて」

 まずは小物の動きを止める。


 魔法陣を浮かべる。時間魔法『スロウ』、これで止まってくれるだろう。

「後はお願いします」

 そう言って、シュナイダーのところに戻る。


「おい、あの魔法」

「それより、あのでかいのを試し斬りに使わせてもらえ」

「はあ?出来るわけねえだろ。こっちは覚えたてなんだぞ。ただでさえ硬えってのに、土魔法じゃ相性最悪だろ」


 よく知ってるな。でも、それはあくまで机上の話。マンドレイクにも弱点はある。

「いいから、足元の丸い部分あるだろう?あれが急所だ。まあ、頭と胴にも一つずつあるはずだけど、それは俺がやる」


「ああ、もう分かったよ!やりゃいいんだろう!」

「キレすぎるなよ」

 指示された場所を見定めるシュナイダーに忠告する。


「分かってるよ、うるせえな!」

 土壇場ということもあってか、集中力にムラがある。ちょっと手を貸してやるか。

 描き始めた魔法陣に、自分の魔力を付加する。

 これで剣にも土魔法が付与される。

 本人は、自力でやりたいのか、不満そうだけど。


「余計な事すんな!」

「集中しろ、集中。もう目の前だぞ」

ゆっくりとこちらに向かってきていたマンドレイクが、すでに俺達を射程圏内に捉えている。


 舌打ちしながらも、さっきの感覚を思い出そうとしているのか、意識して魔力を集めている。

 その間のマンドレイクの攻撃は、障壁で防ぎきる。

 魔法陣が光り、土塊の鎧がその身を包んだ。

 更に、そこに身体強化を織り交ぜ、剣を掲げる。岩に覆われた切っ先を向け、マンドレイクに突進する。


 向こうも迎撃する体勢に入ったが、シュナイダーの方が一手速く急所を叩き斬った。

「おい、やったぞ!次どうすんだ?」

「見てろ」

 赤剣に手を添え、沈み込んで構える。


 マンドレイクの急所が再生するまでの時間は三秒程度、それだけあれば十分。

 両手で別の魔法陣を二つ、同時に出す。


 移動魔法『ブースト』で速度を上げ、黒魔術『暴風の轟き』で突風を起こす。ふきすさんだ風に、相手は体勢を崩した。

 加速し一歩踏み込んだ次の瞬間、マンドレイクの正中線に辿り着く。相手が傾いた今なら、二つの急所が一直線に並ぶ。


 レッドキャップ式抜刀術『赤閃』。

 振り抜いた剣が赤い閃光を放ち、マンドレイクを真っ二つに引き裂いた。


 神経節がある生物が、体の末端を動かすように痙攣し、倒れる。

 断末魔らしき奇声が響き渡ると、その目から次第に光が消えていった。

 終わったな。

 カチンと乾いた音を立て、鞘に剣を収める。


「ほら倒したぞ。早く後片付けを…痛てっ」

 鎧姿のまま、拳骨が飛んでくる。

「何すんだ!せめて魔法解いてからにしろよ」

「うるせえ!何だ今の技は?てめえ、俺相手には全く本気じゃなかったな!?」


「当たり前だろう。あんなもの人に当てたら死んでしまう。ついでに言うけど、あれでもかなり抑えたんだからな」

「けっ、やっぱりてめえは嫌な奴だ」

 本当のことしか言っていないのに、不貞腐れてその場を去ってしまった。

 おかしいな。仲良くなったと思ったんだけどな。


「ブラッドさん!」

 背中に衝撃が来て、足がよろめく。

 シャルロットが抱きついてきたのだ。

「怖かったです。私の不手際でこんな、本当にごめんなさい」

「うん、大丈夫。シュナイダーと倒したし。それよりもシャルロット、痛い」


 腕に力を入れすぎだ。それに俺は大したことはしていない。

 たった今気づいた様に、慌てて腕を離すシャルロット。


「す、すいません。つい」

 急に抱きつくのは流石にはしたないと思ったのか、頬を赤らめている。

「まあ、向こうも上手く抑えられたみたいだし、良かった」


 教師の方に目をやると、おおかたのマンドレイクが片付いていた。何とか制圧出来たと見える。

 生徒達にも安堵の色が伺えた。

「あの状況で、よく全員無事だったな」

「あ、ライがいち早く皆を避難させたので、何とか」


 それはすごい。緊急時の判断としては出来過ぎなくらいだ。生徒の鑑だな。

「まあ、怪我がなくて良かった。シュナイダーも心配していたよ。中学半壊の前科があるとか」


「もう、ジンはすぐ余計なことを。ということは、そんな話をする程仲良くなったんですね」

「まあ、一応な。魔法を見せたら、どっか行っちゃったけど」


「ああ見えて負けず嫌いですから、きっと感化されたんでしょう。ジンがあんな魔法を使えるというのも驚きました」

 少し緊張が解け、いつも通りの落ち着いた喋りに戻った。

 安全になったこともあり、生徒が好き勝手に動き回っている。その内の一人が、こっちに走ってくる。


「ロヴロくーん、私も怖かった、抱き止めてー」

 シグマか、どうしよう。避けたら失礼になってしまうか。


 答えが出ず固まっていると、問答無用で飛び込んできた。

「あっ、意外とがっしりしてるんだね。男の子って感じ?」


 うわ、すごい触ってくる。

 なるべく柔らかい感触を感じないよう、ぐっと肩を押し返す。


「もう良いだろう。特に怪我してないんだから」

「えー、つれないなあ。エミリーには抱きつかせたくせに」

 シグマが頬を膨らませる。

「あれは後ろからだったから、気づかなかったんだよ。なあ、シャルロット」


「…そうですね」

 何も変なことはしていないつもりだが、シャルロットまで不機嫌そうだ。

「どうした?」

「何でもありません!」

 どうしてこっちを見てくれないのだろう。


 まあ、何もないと言っている相手に、これ以上聞ける訳もない。

「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」

「もう行っちゃうの?」


「残念がるなよ。まだ授業あるんだろう?」

「だって、午後の授業って退屈なんだもん。ロヴロ君、何かサボリに使えそうな魔法教えてよ」


「ああ、また今度な…いや、駄目だろ。何をナチュラルにずる休みしようとしてるんだ」

「ちぇ、けちんぼ」

 全く、油断も隙もない。非常時の後だ、軽口が叩けるだけマシか。でもこの件は一応ルーカスに話しておこう。


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