29身の丈に合った使用法
「そうと決まれば場所を移そう」
木と土くれのある場所を探し、敷地内を歩き回る。
練習場アルファには誰もいなかった。ちょうど良いので使わせてもらおう。
「さて、じゃあ杖を構えてくれ」
「待てよ、そんなあっさり出来るわけねえだろう。俺に魔法の才能はねえんだよ」
魔法には苦手意識があるんだな。
「でも、身体強化は出来てるだろう?」
「あれは、たまたま肌に合っただけだ。悲しいこと言わせんなよ」
確かに、元々才能がない奴に上級魔法を教えるのは難しい。
でも、今回はそうじゃない。扱い方の基礎の部分、その発想を変えるだけ。
それに、今回は考えがある。
「さっき、話してたよな。女の子をかばった時に、魔法を受け続けたって」
「それがどうした?」
「それが、試してみたいことだ」
「どういう意味だ?」
「魔法にも特性はある。人によって、扱いにくい魔法だって変わってくる。俺だって、身体強化はあまり得意じゃない。だからお前も、自分に合っている方に魔力を込めることにしよう」
「それが出来りゃ苦労はしねえよ」
「魔法陣を出してみろ。さっきのでいいから」
まだ納得が行かないのか、半ば投げやりに魔法陣を描き出した。
その魔法陣に手を触れると、シュナイダーが杖を持つ手を止める。
「おい、何して」
「良いから。続けろ」
多少患部がひりつくが、魔法陣に干渉することは可能だ。昔、ケミィのを触って火傷したことがあるからな、この程度はどうってことない。
そのまま、魔法陣をシュナイダーの体に押し付ける。だが予想に反し、魔法は上手く発動しなかった。
「なんだよ、やっぱり何も起きねえじゃねえか」
相変わらず、一発で成功しないな、俺のやり方は。
発想自体は間違っていないはず、もう一度、あの時のことをよく考えてみることにしよう。
虐めの現場と担任、その時、シュナイダーはどんな思いだったのか、想像する。もしそこに生まれる感情があったのなら…絶望、悲しみ、怒り、意識が持っていかれるのはそのあたりか。
「シュナイダー、もう一回やろう」
「まだ言ってんのか?俺に魔法なんて出来ねえんだよ」
不貞腐れ、視線を外す。相も変わらぬ状況にイラつき、地面の土を蹴っている。
俺はわざと聞こえるように、溜息をついた。
「そうか、所詮は出来損ないか」
「ああ?」
よし、これでオッケー。声の怒気が増した。
「良いよ良いよ、どうせ出来ないもんな。そりゃあ見放されるよ、お前」
「てめえがやれって言ったんだろうが!」
もう充分、かな?
シュナイダーの杖を操作し、手を上げさせる。
「今だ。そのまま、魔力を込めろ」
「どっちなんだよ!今、無理だって」
まっすぐに目を見る。落ちこぼれの持ち得る可能性を、お前に示す。俺を信じてくれ。
意志がどこまで通じたかは分からないが、反論する気はないらしかった。
半ばやけくそだが、動きに迷いはない。
「どうなっても知らねえからな!」
シュナイダーが魔力を込め、それを本人の身体に押し付ける。先程とは違い、魔法陣が光りだした。
地面の土くれが、シュナイダーの体に纏わりついていく。
五秒も経てば、その体は頑強な鎧に覆われた。
土魔法『ロックアーマー』か。扱う素材によって硬度が変わる、便利な魔法だ。
「おお、上手くいった」
「何だよこれ、どうなってんだ?」
本人も不思議がっている。自信はあったが、ただの仮説がここまで実を結ぶとは思いもしなかった。
「これは推測だけど、お前の肌はきっと魔法に強い。だから杖から魔力を出しても、上手く循環しなかったんだろう」
ならいっそ、その肌に纏わせてしまえばいい。少なくとも俺は試したことなかったけど、やってみるもんだな。
「じゃあ、もし上手くいかなかったらどうなってたんだ?」
「今頃、暴発してるだろうな」
嬉しそうにしていた顔が、その言葉で険しくなり、こっちに詰め寄ってくる。
「ふざけてんのか、てめえ!危うく死ぬところだったじゃねえか!」
胸ぐらを掴んで激しく揺さぶられる。
「ちょっとやめろ。痛い。そうなったら俺が魔力で相殺するつもりだった。魔法陣を消すくらいわけないからな」
「そんなもんが理由になるかよ、馬鹿野郎!」
殴りかかりそうなので、なんとか手を振り払う。
離れた際、満足そうに微笑んだ顔がちらりと見えた気がしたが、改めて見ると表情はいつもの無愛想な顔に戻っていた。
「おい、これは肌にしか纏うことは出来ねえのか?」
改めて魔法について聞いてくる辺り、多少信用してくれたのかな。根は真面目なのかも知れない。
「練習あるのみだな。多分、武具に宿すことも可能だと思うけど」
「そうか。よおし、いつになくやる気が出てきたぜ!」
生徒なら、いつもやる気であってほしいものだが、良い傾向だと思っておこう。他に注意するべきことは…。
「あと、シュナイダー」
「あ?なんだ、まだなんか用か」
「どういう仕組みかは分からないが、お前は魔力が怒りに直結してる可能性がある。何かの拍子で、リミッターが外れてしまうこともあるかもしれない」
「おい。難しい話は嫌いだぜ、俺は」
「うるさい、脳筋」
「んだと、こら!」
多少小難しく言ってしまったことは否めないが、沸点が低すぎるのはいただけない。
「要するに、キレすぎるなってことだ。普段の状態で扱える方が良い。当面はそれを目標にしろよ」
「うるせえな!言われなくてもそうするってんだ。教師か、てめえは」
「教師だよ」
相変わらず態度は悪いが、そんな悪態を吐くということ自体、ひとまずこいつからの教師認定は降りたと捉えても良いのか?
「じゃあ、俺はもうそろそろ戻るよ。一応、用事があるからな。お前は適当に教室に戻れよ」
さすが戦闘マニアというか。もう魔法のことで上の空だ。話を聞いているか分からないな。
出口のフェンスへと向かう。
「おい、ブラッド!」
「ん?」
振り返っても、俺に背を向けているので顔は見えない。
「あの連中、いつか必ず吠え面かかしてやるから、見てろよ。ついでにてめえからも一本取ってやるからな」
要は強くなるまで見届けろってことだな。本人なりの決意の表れなのか、感謝の言葉なのか。素直じゃない物言いをする奴だ。
不器用なりの言葉に、つい苦笑いしてしまう。
「吠え面かくって、久々に聞いたぞ」
「うるせえ、さっさと…」
最後の方は聞き取れなかった。
敷地内のどこかから、瓦礫が崩れるような音が響いたからだ。




