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28過去

「おい、何か言いたいことねえのかよ」

「何だ急に」

 近くのベンチに腰を下ろすと、シュナイダーが口を聞いてきた。


「教師なんて、見てくれで判断する奴ばっかりだ。どうせお前もそうなんだろ?」

 何故そんなにいきり立っているかは分からないが、目の前に突っ立っていられるのは嫌だな。


「とりあえず座れよ。サボリ魔」

「ああ?」

「他の教師のことは分からないけど、どうでもいいなら、わざわざ花に聞いてまで無実を証明したりしないだろう」


「…それは」

「まあ、嫌なやつなのは確かだけど」

 一瞬たじろいだかと思うと、またすぐに怒りの目を向ける、忙しいやつだなあ。

 それでも、無造作にどかっと隣に座ったところを見ると、まるっきり嫌ってわけではない様だ。


「言っておくが、俺はまだ試験でシャルロットに斬りかかったこと、忘れてないからな」

「ああ?あいつは斬っても斬れねえからいいんだよ!」

 赤い糸みたいな言い方をされてもな。

「どういうことだ?」

「これだよ」

 そう言ってピアスを触った。


「あいつは常に王族様の護符を身に付けてる。で、こいつは忠誠の証だ。こいつを着けてる間は、そいつに攻撃は当たらねえ、当てられねえってことだ」


「忠誠?シャルロットに仕えてるのか?」

「ふざけんな。ガキの頃からのよしみで、エミリーの母ちゃんが渡してきたんだよ。ライの野郎も首からぶら下げてんだろう」


 ボディガードか?いや、あのそんな人を駒のように扱う人じゃないか。

 思案していると、シュナイダーが急ににんまりと笑う。

「つまり、あの時エミリーを守った魔障壁は全くの無駄だったわけだ」


「何だ、剣止められたのが不満だったのかよ。俺よりねちっこいな、お前」

「先に言ったのはてめえだろうが!」

 教師嫌いのシュナイダーと、意外にも普通にやり取りを出来ていることに、今更気づいた。

 ここはひとつ、距離を詰めてみよう。


「なあ、シュナイダー」

「あ?」

「何で、そんなに教師を嫌う?教師自体を否定しているわけじゃないんだろう?俺にも魔法を見せてくれと言ったら見せてくれたし、何かあるんなら教えてくれよ」


 さすがに警戒させてしまったか。しかし、返答は意外なものだった。

「…別に、話すほどのことじゃねえよ。下らねえ理由だ」

 そう言って、少しずつだが話し出してくれた。


ーー数年前


「シュナイダー、よくやったな」

 中学の頃は、これでも真面目にやってたんだ。そんな風に教師に言われて、素直に喜べた時もあった。


「剣術が飛び抜けている。これは、魔法も期待できそうだな」

「俺は魔法は苦手だぜ、先生」

「最初は出来なくて当たり前だ。大丈夫、先生がついてる」


 その教師はマグワイアってやつでな。変に生徒を分け隔てしたりしなかった。成績だけじゃなく、それ以外の長所、人間的な部分を見てくれている。少なくとも、あの時はそう思っていた。

 授業が終わっても、遅くまで魔法の練習を付き合ってくれた。俺がキレても、粘り強く教えてくれていた。かなり、信用してたと思う。


 俺に魔法の才能がないとはっきり言ってくれれば、変な期待を持たずに済んだかも知れねえけどな。


 ある日、貴族の連中の中でも、取り分け幅を利かせているグループが、校舎裏で女を虐めていた。

 何で、その時校舎裏に行ったのかは覚えてねえが、そいつの言葉は覚えてる。


 俺達は貴族で、こいつは平民。何をしたって許される。お前も、貴族ならわかるだろうって。終始鼻につく野郎だった。

 今時そんな理由で、女を殴るやつがいるなんて思わなかったよ。止めろと、そいつらに割って入ったら、魔法を浴びせてきやがった。


 俺は女を逃す間、魔法を一身にくらい続けた。『身体強化』はその時から得意だったからな。

 今度は俺相手に憂さ晴らしするつもりだったんだろうな。もっと強い魔法を撃ってきたよ。だが避けている間も、ずっとムカつく笑顔を向けてきやがった。その面見てたら、ついカッとなってーー


「殺したのか?」

「はあ?ガキの喧嘩だぞ。拳骨に決まってんだろう」

 重々しい空気に、つい口を挟んでしまった。

「話の腰を折るなよ、めんどくせえな」

「ごめん。で、その後は?」


「そいつらを殴り倒した。その時に、マグワイアが来た。定期的な見回りだから、それは不自然じゃねえ。そしたらその男、マグワイアに俺が女をいじめていたと言いやがった。女の傷も俺のせいにしようと思ったんだろうな」


 思い出してムカッ腹が立っているのが見てとれる。相当ストレスなんだろうな。

「それで、どうなったんだ?」

「ご想像の通りってやつだ。君には失望した、だとよ。訓練に打ち込むしか能がないって罵詈雑言のおまけ付きでな」


「そんな奴の言葉を、あっさり信じたのか。その教師は」

「後で聞いてみりゃあの生徒、優等生で通っててな。それに魔法も一級品となれば、誰も疑わねえよ」


 シュナイダーは遠い目をして空を仰いだ。

「そこから問題児に認定されるのに、時間はかからなかった。俺に対する教師の態度も、日に日に悪くなったしな。結局、教師なんか上澄みしか見ちゃいねえ。後はどちらの家が偉いか、教師なんかそんなもんだ」


 なるほど、俺には理解できない話だ。理解してやれないと言った方が正しい。

 魔界で過ごした俺には、そういうしがらみは分からない。でも、信頼していた師に切り捨てられる辛さは、想像だけだが理解できる。


 そんな連中より、少しでも知っていた自分を庇って欲しかった、そんな悲痛な思いが聞こえてくるようだった。

 シュナイダーが膝に手をついて立ち上がった。

「俺の話はそんだけだし、話したのは気まぐれだ。一度助けられたくらいで、お前を信用する気はねえからな」


「待て待て。もうちょっと付き合え」

「なんだよ、これ以上なんかあんのか?」

「俺も一応教師だ、生徒にやることといえば一つだろう?」

「ああ?お前まさか…」


 さっきの会話で、一つ思いついた。それに何より、同い年の苦しむ生徒を切り捨てた教師と同じにはなりたくはない。

 なら、俺がその可能性をシュナイダーに見せてやる。それが、きっと助けることになるはずだ。

 察しの良いシュナイダーに、にっと笑ってみせる。

「お前の魔法、俺が完成させてやる」


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