26問題児?
王城での依頼も無事?済み、俺は通常運転の生活に戻る。
今日も今日とて訓練場で魔力を練るレクチャーをする、それもほとんどモネがやっているが。
「あの、ブラッドさん。今少しよろしいですか?」
隣に立っているシャルロットが、俺にそう話しかけてきた。
ここがすっかり定位置になったな。
「どうした?」
「お母様のこと、ありがとうございました。大変だったでしょう」
「いや、楽しかったよ。あの勇者ってのは、本当に嘘っぽいから残念だったけどな」
シャルロットが首を傾げる。
「そうなんですか?ずいぶん確信を持って言いますね」
そりゃあ、本物ならこうなってますから、とは言えんよな。
「いや、勇者なら俺も勝てないだろうなと思ってたから。それより」
強引に話題を変え、質問をする。
「誰か、俺が教えられそうな生徒、いないかな?このままだと給料泥棒になる」
「充分立派ですよ。でも、そうですね」
少し考え込むように、手を顎に当てる。
「これは、私の勝手なお願いですが、ジンを見てはいかがでしょう」
「シュナイダーか?それは向こうが拒否しそうだけどな」
「それはそれです。一度、見てあげてもらえませんか?」
そう言ってシャルロットは頭を下げた。何がそうさせるのかは分からないが、とりあえずその頭を軽くなでる。
「まあ、やるだけのことはやるよ。どっちにしろ話す機会があればと思っていたし」
「はい、ありがとうございます」
微笑んだ顔がなんとも可愛い。本人には言わないけど。だが、シャルロットへの指導を疎かにするのもどうか…。
俺は足元に小さいゴーレムを五体程出した。
「まあ、可愛い」
「シャルロットはまず、標的に当てるところから始めよう。こいつらが勝手に逃げ回ってくれるから」
ゴーレム達が呼応するように、思い思いに力こぶを作る。
「出来てないぞ、お前ら」
ゴーレムがしゅんとする。いつ見ても愉快な奴らだ。
「じゃあ、なんかあれば呼んでくれ」
「はい」
シャルロットのいい返事を聞き、離れる。
問題のシュナイダーに近づくと、一瞥された直後に距離を取られた。そこまで露骨にやられると傷つく。
「そんなに離れることないだろう」
「うるせえ!どうせエミリーに頼まれたんだろう。一人で勝手にやるから失せろ!」
好戦的だな。何がこいつをそうさせるんだろう?
「魔力の練るのは、出来るんだよな?」
「当たり前だ!てめえ、喧嘩売ってんのか?」
「そんな感じだ」
なるべく逆撫でしないようにしたつもりだったが、つい口が滑った。眉がつり上がったのが見える。
あっ、キレたな。そう思った時には、既に魔法陣を書き始めていた。
「そうかよ。なら、そのまま死ねや!」
「…非道い」
辛辣な言葉に傷つきながらも、飛びかかってくるシュナイダーの剣を捌く。
うーん。どこか魔力に違和感がある、気がする。
剣を弾き飛ばし、改めてシュナイダーを見る。
「んだよ!そんな目で見てんじゃねえ」
「え?ごめん。普通に見てただけなんだけど」
抑えている手を離すと、シュナイダーは後方に飛び退いた。
魔力のことは一旦置いておこう。まずは話からだ。
前々からの疑問を口にする。
「前も思ったんだが、どうして『身体強化』しか使わない?遠距離もある方がいいと思うけど」
何か逆鱗に触れたのか、胸ぐらをつかまれた。
「余計なお世話なんだよ。俺に教師なんかいらねえ。魔法も習わねえからな!」
「ああ、出来ないなら仕方ないよな。心配するな、向き不向きは誰にでもある。初球の魔法すら使えなくても、何も恥じることは」
「ああ?出来るわ、そのくらい!」
乗ってきた。なるほど、最初から煽ればよかったのか。
キレながらも、魔法陣を描いている。
地面から歪な槍が突き出す、『アースドリル』かな?
発動した魔法に確信が持てないのも無理はなかった。
この魔法、本来はもっと太い柱みたいになるものだと思ってた。
そっと顔を覗き込もうとすると、ばっちり目が合ってしまう。
「何だよ?悪いかよ!?」
何で怒ってるんだ?
「いや、出来ない訳じゃないんだから、やりようは…」
「うるせえ!どうせてめえもセンスがないって思ってんだろ!」
これ以上は何も聞く気はない、とでも言いたげに、不貞腐れたシュナイダーが俺から離れていった。
とりつく島もないな。これは、どうしたもんか。
「手を焼いているみたいですね」
手を後頭部に回し考えていると、オリクエルに話しかけられた。
「ああ、まあな。オリクエルは、シュナイダーと幼馴染だったか?」
そんな話をしていたはずだ。オリクエルは、紳士的な笑みを浮かべている。
「ラインハルトで構いませんよ、先生。親しい人はライとか、レイって呼びますので、お好きな呼び方でどうぞ」
「お、おお」
丁寧な対応をされ、少し面喰らう。同い年だと思えない風格がある。貴族なら社交辞令も言うだろうが。
「話を切ってすいません。幼馴染ですよ。あいつ、キレ症だから、どうしてもあんな風に投げ出す形になるんですよね。あの性格のせいで、教師にたらい回しにされてましたから」
「それは、中学までのことか?」
「はい」
言いたいことは分かったが、どうにも違和感がある。教師なんていらない、本当にそれだけであんな言い方になるか?納得できない訳ではないが、どこか引っかかる。
「あの、あんな奴ですけど、根は真面目なんです。どうか、見捨てないでやってください」
「大丈夫。俺も世間知らずで、他の教師のことは分からないけど、あいつが嫌とかはないから」
「そう言ってくれると、助かります」
シャルロットといい、ずいぶんシュナイダーを気にかけるな。
「それじゃ、手も空いたことだし、ラインハルトの魔法でも見ようか?あと、俺も名前呼びとタメ口でいいから」
「え?でもさすがに生徒ですし…」
「タメ口の方が楽なんだ。どうしても無理なら良いけど」
「…分かりました。いや、分かった。よろしく」
少したどたどしいが、同い年なのだから、そのうち慣れるだろう。それより、本人は魔法を見ると言われて目を輝かせている様子だ。
「なんか、嬉しそうだな」
「いやあ、実は俺もジンも、かなりの戦闘オタクでね。それで俺達は意気投合したんだ」
「戦闘オタク?」
「騎士団長の話とか、魔物との戦いとかに目がなくて。俺は、魔導師に憧れてるけど、ジンは剣術にのめり込んでね」
ああ、俺もおとぎ話を聞いた時に憧れた覚えがある様な。
「ロヴロは、昔から狩りをしていたんだろう。その話を聞いてみたかったんだけど、なかなか機会がなくて…」
それから授業が終わるまで、ラインハルトと狩った獲物の話に花を咲かせていた。というか、答えることで精一杯という程、質問攻めにされた。
お陰で魔法の話はおろか、シュナイダーのことを聞きそびれた。




