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25実力の差

「さあ、杖を構えたまえ。ハンデとして君に先手を譲ってあげよう」

 自信満々に両手を広げてくる、煽ってるのだろうか。

「いや、杖は使わないので」

「は?」

 まあ、そうなるよな。出鼻を挫かれ、間の抜けた顔をこっちに向けている。

「ま、まあいいさ。どこからでも攻撃してきたまえ」


 と言われても、どうするかな。城を傷つける訳にもいかないし、周囲を巻き込まずに穏便に済ます、洗脳とかでは駄目だろうしな。

「早くしたまえ、来ないならこちらから行くぞ」

「あっ、じゃあお願いします」

 ディーンがまたも意味が分からないという顔をした。自らの優位を放棄したように映ったのだろうが、こっちとしては仕掛けるよりありがたい。


「もういい。後悔するなよ」

 そう言いながら魔法陣を書いていくが、これならシャルロットの方が速いだろう。

 サイズも小さいし、これは威力は弱そうだ。

「見よ、俺が自ら生み出した水魔法『スプリンクラー』だ」

 生み出したと言われて身構えたが、ただウォーターボールが弾けて拡散しただけだった。


 ノロノロと水の弾が飛んでくるので、のんびり魔法陣を描き出す。

 氷魔法『フリーズ』、魔法陣から冷気が吹き抜け、相手の水弾を凍らせて返した。部屋全体が冷気に包まれ、霜が降りていく。

 手加減したつもりだったが、ディーンと後ろの取り巻きの足まで凍らせてしまった。

「馬鹿な。俺の魔法がこんなガキに。もう一回だ小僧、こんな勝負は認めんぞ」


 すごい剣幕でまくし立て、杖を掲げてくる。だが、手がかじかんでいるせいか、上手く魔法陣を描けないようだ。

「あの、先に治さないと足が壊死しますよ」

 そう言った途端、血の気が失せていくのが分かった。

「お、おい!お前ら何してる。さっさと温めろ」

「すいません、ディーン様。しかし、足が凍って…」

「何とかしろ!その為の護衛だろう!」


 これは、さすがに勝負あったな。女王もそう感じているらしく、ため息を漏らした。

「はあ、底が知れましたね」

 自身への批判を、ディーンは聞き逃さなかったようだ。

「底が知れた、だと?俺は選ばれし者だぞ。そんな口の利き方をしてタダで済むと思ってるのか?」

「どうなっても結構です。そうやって部下にまくし立てることしかできない方と、添い遂げる気はありませんので。それに、何かが出来るとも思えませんから」


 怒髪天だ、ディーンは完全にキレている。

「貴様!」

 興奮し、無理やりに魔法陣を描き終えた。怒りで威力が上がるか、これが火事場の馬鹿力か。

 水弾が女王に襲いかかるより先に、地面に魔法陣を仕掛けた。

「『アイスウォール』」


 女王とディーン一行の間に、分厚い壁を出現させる。水弾は弾かれ、氷壁の一部と化した。

「えっと、あの人達どうしますか?女王様」

 氷壁の向こうが歪んで見える。完全に部下に当り散らしている。

「お引き取り願いなさい。手荒でも構いません。それと、修理させるので城のことは心配無用です」


 この様子だと、わざわざ氷魔法にした理由も見透かされているな。

 浮かべていた魔法陣を変える。

 黒魔術『ディナイドゲート』

 ディーン達の足元に黒穴が出現したのを確認する。悲鳴に近い叫びを上げながら、ディーンは落ちていった。


「本来は邪魔者を取り除く為に使う魔法です。まあ、死にはしないでしょう」

 恐らくは城の外か、運が良ければそのまま馬車に戻るだろう。

 その予測は、どうやら当たったらしい。衛兵に通達したところ、悪態をつきながら馬車で帰っていったらしい。

 とりあえず俺の任務はひとまず終わりだ。


 肩の荷が下り、女王が深いため息をついた。

「ありがとう、ブラッド先生。ささやかですが、後ほど報奨金を与えましょう。奥の部屋でお待ちになってください」

「そうさせていただきます。では、失礼します」

 相手が大したことなかったとはいえ、やっぱり緊張したな。

 通された部屋の椅子に深く座り込んだ。


 狩りの時はもっと魔力も体も使ったから、それに比べればどうということはないが、国ともなると嫌でも気負ってしまう。

 それにしても、選ばれし者とはよく言ったものだ。これがどんな病かも知らないで、いや、知らない方が幸せか。


 少しだけ嫌な気分になったところで、背後から大きな物音がする。

 勢いよく扉が開いたかと思うと、女王が飛びついてきた。

 とっさに体を受け止めるが、宝飾品が予想より重く、よろける。


「ああ、疲れたー。ごめんねロヴロ君、あんな鼻持ちならない奴と勝負させて。そんなつもりじゃなかったのに」

 女王は話している間、一心不乱に頭を撫で続ける。

「大丈夫です、気にしてませんから」

 公爵なんていう割に、物足りなかったくらいだ。


「それよりも、危惧していることが一つあるんですが」

 俺の言葉にある種の違和感を感じ取ったのか、女王が手を離し、まじまじと顔を見る。


「どうしたの?改まって。今日のこと、何か不備があったようには見えなかったけど。先に手を出してたら、こっちが不意打ちした、とか言いかねない奴だけど、今回はそれもなかったし」

「そんなことするんですか、あの人」

「するわよ。さもこっちが仕掛けたみたいに吹聴して回るんだから。おかげで隣国から印象悪くなって大変だったんだから」


 正当な理由があっても、先に手を出した方が加害者になってしまうのと同じ感覚なんだろうか。

 まあ、そのことはこの際どうでもいい。

「不備が無さ過ぎたことが問題だと思います。ただでさえプライドの高い男を、真っ向から捩じ伏せてしまいました。あのディーンという男がどんな気持ちかは分かりかねますが、もしまだ陛下にご執心なら、もっと質の悪い手段に出るかもしれません」


 ああいう人間の歪んだ感情は、黒魔術の召喚、特に妙な契約をするに至る充分なエネルギーとなり得る。今回の件で諦めてくれれば良いが…。

 不吉なことを思案していると、顔を手で挟まれ、上を向かされた。

「下を向かない!今日、君に助けられたのは事実なんだから。それに、あんな男振っただけで不利益を被るほど、国もやわじゃないわ。心配しすぎないで」


 包容力のある笑みをこちらに向けてくる。ディーンの性格は差し引いても、国については一理ある。俺一人でどうこうなる訳でもないだろう。


「それより、その陛下ってやめてくれない?堅苦しくて嫌なのよね」

「いや、それはさすがにまずいというか」

「なんで?エミリーのことはちゃんと名前で…読んでないわね」

「呼んでないです」

 娘の教師として見てるのか、それとも同い年の子供として見てるのか、親しげに接してくれる国王もいたものだ。


「まあ、いいわ。気が向いたら、マリアさんとか呼んでくれてもいいからね」

「…考えておきます」

 冗談めかしているが、この人なら本気で言ってそうだな。

「そうそう。はい、今回の報奨金」

 そう言ってずっしりと金貨の入った小袋を渡される。

 重かったのはこれか。何枚入ってるんだ?


「あの、これ一体いくらぐらいなんですか?」

「うーん。適当に見繕ったからなあ。金貨二、三十枚はあると思うわよ」

 明らかにそんな量じゃない。


「受け取れません、こんなに。もっと国の発展とかに回してもらって結構ですから」

「あら、謙虚なのね。でも国王の命令だから、ね」

 その後は、何度受け取れないと言っても、はぐらかされるだけで頑なに断られた。

 明らかに苦労に釣り合っていない報酬、ありがたいというより、申し訳ない気分で一杯だ。


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