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22対面

「あの、どうぞ適当に座ってください」

「そ、そうだな」

 促され、小さいソファに座った。

 シャルロットは俺と向かい合う形で、ベッドに座った。まだ顔が赤い。

 いたたまれないので、話題を変えるべく話を切り出した。

「何か俺に聞きたいことでもあったのか?魔法のこととか」


 魔法、という言葉に反応したのか、ゆっくりとこちらに顔を上げる。

 心なしか、表情が強張っていた。

「ブラッドさんは、後継者のことをご存知ですか?」

「ある程度は聞いた。弟子みたいなもんだろう?」

「はい。差し支えなければ、誰を選ぼうとしているのかお聞かせ願えませんか?」


 と、言われてもな。

 返答に困り、頭を掻く。

「今のところは保留、というか、まあぶっちゃけ選ぶ気もないんだけどな」

 どうせその内死ぬ身だ。後継者なんて見てやれないし、育てられない。


「それは、私達では役不足、ということでしょうか?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「じゃあ、どうしてですか?」

 要領を得ない答えに、口調が強くなっている。しかし、すぐに座り直し、非礼を詫びた。


「すいません。取り乱して」

「いや、それは良いけど。そんなに大事なことなのか?後継者っていうのは」

 びっくりした。そんなにムキになるようなこと聞いたのか、俺。


「もちろんですよ。特に、ブラッドさんの場合は」

「どういうことだ?」

 どこか噛み合っていないと感じたのか、疑問を投げかけてきた。

「ひょっとしてご存知ないですか?ご自身の評価のこと」

「いや、全く」


「やっぱり、そうでしたか。王城では、あなたの話をよく耳にするのですよ。黒魔術と白魔術を巧みに操る天才が教師になった。どんな生徒が目をかけられるのかって」


「そんな話聞いたことないし、過大評価としか言えないな。誰が言ったんだか」

 こっちに来て黒魔術は数えるほどしか使ってないというのに。

「院長先生がお母様に話していたので、それが発端かと。あれ、どうしたんですか?」


 つい頭を抱えてしまった。

「いや、なんでもない」

 教師の風上にも置けないな。口が軽すぎるだろう、あの牛。

「そういう先生の後継者は、必ずと言っていいほど重役についています。今の騎士団長や参謀の方も、誰かの後継者だと聞いています」


 なんとなく話が見えてきたかもな。

「シャルロットは、俺の後継者にしてほしいのか?」

「はい、できることなら」

 まっすぐに目を見てくる。純粋な、綺麗な目だった。

「お父様を亡くしてから、お母様はその身を国に捧げ続けています。私は、そんなお母様の力になりたいのです」


 そこまで言うと、急に自信を無くしたように声のトーンが下がった。

「でも、私はどうにも戦闘が苦手で、魔力のコントロールがすぐに乱れるのです。さっき、ひったくりを捕まえられなかったのが、良い例ですね」

「怖がることは誰にだってある。そんなに悲観するほどのことじゃない。実戦を積めば、その内動けるようになる」


 まだ納得行かないのだろうか、顔が曇ったままだ。

 家族の為か、それは手伝ってやりたいと、無責任ながらに思った。貴族との付き合い方など何も知らない俺に出来ることなど知れているだろうが。


「後継者のことは一旦置いておくとしても、卒業までに実力をつけるってことなら出来る。戦闘も魔法も、それなりに教えられると思う」

 助力の意図を感じ取ったか、少し顔を上げてこっちを見た。

 あともう一押しかな。

「心配するな。迷う暇もないくらい、即戦力になれるようにする。まあ、約束できるほど偉くはないけどな」


「はい、よろしくお願いします」

 口約束でどこまで信じてくれたか分からないが、少しは緊張が解れたかな。

 俺も無意識に緊張していたのか、愚痴をこぼしてしまう。

「シュナイダーも君ぐらい素直だったらな」

「ジンは、ちょっと訳ありですから」

 頬をぽりぽりとかいている。

「ん?どういう意味だ?」


 話を聞きたかったが、ドアがノックされて中断せざるを得なかった。

 そして、煌びやかなドレスを身に纏った女性が入ってくる。見事な細工を施された冠を頭にのせている。この人が女王か。


「エミリー、ちょっと聞きたいことが…あらまあ、お楽しみ中だった?」

「ち、違います!変なこと言うのやめてください、お母様!」


「何よ?良いじゃない。若い男女のすることと言ったら一つしか…って、あなた」

 思い出したように俺に向き直った。

 ヒールをカツカツと鳴らして近づき、顔をまじまじと見つめてくる。


「君がブラッド先生?」

 「そうです」と答えるのは簡単だが、相手は王。こういう時はどうするんだったか。

 とりあえず床に降り、女王の前に跪いた。

「お初にお目にかかります、女王陛下。ロヴロ・ブラッドと申します。お嬢さんには主に戦闘魔法を教えることになっており…」


 まだ自己紹介の途中だったが、顎に手を添えて上を向かされた。唐突だったので、舌を噛みそうになった。

 事態を飲み込めていない俺もよそに、女王は頬を両手で揉んだり、引っ張ったりしてくる。


「思ってたより可愛いわね。娘と同い年なんだって?凄いわねー。ほっぺたモチモチして気持ち良いわ。そうだ、いつから魔法を使ってたの?黒魔術って危ないって聞いたけど、どんな感じ?」

 今、俺は何を聞かれているんだ?

 助けを求めて、シャルロットを見るが、両手で顔を覆っている。

 余程恥ずかしいんだろうか、耳まで真っ赤にしている。


「あの、やめてください」

 少し強引に手を払った。頬がジンジンしてる。

「あ、ごめんね。痛かった?娘が男の子連れてくるなんて滅多にないから。あっ、自己紹介もまだだったね。私はマリア・シャルロット。一応、国王やってます。年齢は秘密です」

 茶目っ気たっぷりに語尾が上がる。うちよりも強烈な母親だな。


「お母様!もうそのへんにしてください!」

 あまりの気恥ずかしさからか、シャルロットが止めに入る。その気持ちは分かるが、女王は聞く気は無さそうだ。


「別に良いでしょう?あんたと違って話す機会が少ないんだから。ねえねえ、君はどんな子がタイプ?うちの子はどう?ちょっと頭が堅いけど、きっと尽くしてくれるわよ?」

 矢継ぎ早に話が飛んでくる。

 完全におもちゃにされているのは、俺でも分かった。


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