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「後継者というのは、平たく言えば教え子という意味だ」

 職員室に戻ると、俺の疑問にモネが答えてくれた。

「教師になるということは、自分の知っている技術を、知識を教え込むということだ。そして、特に優秀な生徒を後継者と呼び、育てる任を負うことが、ここでは通例になっている」


 そこで俺の顔を一瞥する。

「まあ、必ず後継者を選ばなければならないという訳じゃない。その辺りは、この学校は自由だ」

「それなら良かった。黒魔術を一から教えるのは大変そうですしね」


 モネもそれには賛成のようで、後継者についての愚痴をこぼした。

「そもそも、後継者なんて誰が言い出したのか。生徒はもとより、教師はそんなことの為にいる訳ではないというのに」

 まだまだ知らないことが多いな。就任して一日目なのに、次々と疑問が湧いてくる。


「ちなみにモネ…いや、アルフォンスさんは後継者っていないんですか?」

 そう聞くと睨まれた。ただ、なんとなく雰囲気が変わったような気がした。

「私にそんなものいると思うか?今の話を聞いていなかったのか?」

「いや、アルフォンスさんはしっかりしてるし、いてもおかしくないかなと思って」

 言い訳がましいか?


「そんなこと気にする暇があったら、さっさと報告に行け。院長が気にしていたぞ」

「はい、分かりました」

 そう返すと、返事をすることもなく部屋から出て行った。

 予想に反して反応はあっさりしていた。

 気にしてもしょうがないので、院長室に向かう。


 扉を開けると、ルーカスが部屋を歩き回っていた。

「おお、終わったか」

「はい、なんとか。どうしたんですか、歩き回って」

「いや、君が生徒とうまくやっていけそうか心配でね。生徒達はどんな感じだった?」


 そう聞きながら、ルーカスが椅子に座り直した。

「どんな感じ、ですか。少なくとも、好意的な生徒は少ないですね。同い年の男に教わるのは、やっぱり抵抗があるみたいです」


 俺は師匠はいたから気にしたことはないけど、やっぱり癪に触ると感じる者もいるだろう。

 そんな俺の気持ちを慮ってか、優しい言葉をかけてくれる。


「心配ないよ。今は受け入れ難くても、精霊の魔法を使える人に、教わりたくないなんて思いはしないだろう。モネ君から聞いたが、今日の一件で実力差は充分証明できただろう」

 そうか、担任なら報告するよな。

「ボロクソに言ってたでしょう?」

「まあ、加減を覚えるようにと言っていたけどね。それと、周囲に気を配れとも」

 ごもっとも。


「でも、生徒に極力危害を加えない方法を選ぶ判断力は良かったと言っていたよ」

「それは、喜んでいいんでしょうか?」

「彼女が一つだけでも褒めたのなら本物だ。自信を持つと良いよ」


 それはそうか。ただ否定したいだけなら、有る事無い事言えたはずだ。辛辣な分、私利私欲で動かなそうだし、信頼できるとは思うが…。


「それ、本当にモネさんが言ったんですか?ちょっと信じられないです」

「その割には、嬉しそうじゃないか」

 ルーカスが微笑みかけてくる。

 どんな形であれ、認めてくれているということが嬉しかった。頬が緩んでしまうのは仕方のないこと。


「あの子はいい教師だよ。不器用だけどね。これからも困ったことがあれば、遠慮せず頼るといい。君も、彼女を支えてあげてくれ。それと、できれば女の子として見てあげてくれよ」

 これは、真剣に言われているのか?

「ちゃんと見てますよ」

「そうなのか?今朝興味ないって言った時、彼女はむくれていたよ」


「あっ」

 あれはむくれていたのか、分かりにくい。

 モネの無表情を思い出し、つい苦笑いをしてしまう

「そうですね、次から気をつけます」

「そうしてあげてくれ。それより」

 ルーカスが深く座り直した。


「誰かいたかい?後継者になりそうな生徒は」

「うーん、まだなんとも。実力者なら何人かいましたけど。俺は黒魔術を教えた方が良いんでしょうか?」


「いや、無理に教えなくても良い。そこは、学生の自主性というやつを重んじるよ。学びたい分野は人それぞれだ」

 そこで一つ息を吐いた。


「ただ、黒魔術はどうも白魔術と扱いが違ってね。良い印象を持たれていないんだよ。悪魔は勝手だし、用途が限られていて融通が利かないからね。地方によっては、黒魔術自体が神に反している、なんて考えるところもあるんだよ」


 反論はできない。俺も経験がある。ルシファーは話が分かる悪魔だったけど、腹の立つ悪魔もいたしな。

「でも、それはあくまで極端な例だ。大抵の生徒は、実用性があれば学ぶし、向上心のある生徒なら、すぐにでも君に教えを請うと思うよ。だから、そうなったら助けてあげてくれ。きっと、それが君の為にもなる」


 ルーカスは敢えて明るく言ったのだと、そんな気がした。

「じゃあ、下がってよし。今日は初日だし、報告書さえ書けば、帰って良いよ」

 そんな緩くて良いのか?学院長が言うなら良いか。

「分かりました。ありがとうございます」

 軽く礼をして、俺は院長室を出た。すぐに帰ってもいいが、校舎を見て回ることに決めた。


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