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18交流

 生徒の質問に答える、それ以外なら好きにしろと、半ばやっつけのような指示を受ける。

 モネの周りにはすでに二、三人の生徒がいる。


「おい、ブラッド!もう一回勝負だ」

 威勢が良いのは悪いことではないのだろうが、今はそれよりも見たい相手がいる。

 魔法の練習をする生徒(主にシュナイダー)の隙間を縫って、気になった生徒に近づく。

 髪を三つ編みにしているその子は、ずいぶん縮こまって見える。背筋が曲がっているせいだろうか。


 挨拶の言葉をいくつか頭に浮かべながら、その肩を軽く叩いた。

「ひゃあ!」

「おお、びっくりした」

 肩を小突かれただけで、そんなに跳ね退くとは思わなかった。


「な、なんですか?」

 完全に警戒されているのか、後ずさりされた。

「えっと、まず君の名前を聞いてもいいかな?」

「…コールド。シー・コールドです」


 ぼそぼそとした声だったが、答えてくれた。

「あの、私に何か?」

「いや、さっきずいぶん余裕を持って魔法を避けてたなと思って。君だけ攻撃してこなかったし、どんな魔法なのかと思って」


 触れられたくないところに触れてしまったのか、泣きそうな顔で俯いてしまった。

 周りの生徒から白い目で見られている気がする。

「いや、言いたくないなら言わなくてもいいんだけど…」

「すいませーん。この子人見知りなんです。気にしないでください」


 ウェーブのかかった髪の生徒が間に入ってくる。その子のお陰だろうか、シーの表情が少し柔らかくなった。

「ねえ、先生って名前なんていうの?あっ、私はシグマ・ガレットっていいます。変な名前でしょう?ああ、そんなことより同い年だしタメ口でいいよね?」


 矢継ぎ早に言葉を投げかけられた。やけに距離感が近い。とりあえず順番に答えよう。嫌われるよりはいいか。

「俺はロヴロ。それと、別に敬語じゃなくてもいいよ」


 一応は教師なのだから、威厳やら何やらを考えれば大丈夫じゃないだろうけど、まあいいか。

「それより、前くらいちゃんと留めてくれ。目のやり場に困る」

 胸元のボタンを外し、大きく開けている。スカートも短いし、そういうのはなんというか、気が散ってしまう。


「あはは、照れてる。先生可愛い」

 先生、という言い方は完全におちょくっているな。ノリが軽いとはこういうことを言うのだろう。


「話を戻してもいいかな?彼女の魔法についてなんだけど」

 嫌がると思ったが、シグマが説明してくれた。


「ああ、この子の得意な魔法でね。ちょっとだけ先の未来が見えるらしいの。まあその魔法使ったら、しばらく魔法は使えないらしいんだけどね」


「ちょっと」

「いいじゃん、どうせ自分じゃちゃんと言えないんでしょう?」

「そうだけど…」


 こちらの様子を執拗に伺っている。

 デリケートな話なのか、それとも性格の問題なのか判断しかねるが、別に急いで聞く内容でもないし、ここまでだな。


「ありがとう。ごめんね、ずけずけと」

「別にいいよー」

 何故ガレットが答えるのかは分からないが、彼女は気にせず話し続けている。


「それよりロヴロ君、うーん、しっくりこないなー。ロヴ君って呼んでもいい?」

「それはやめてくれ」

 他人がそう呼ぶのを露骨に嫌がるのがいるからな。


「えー。まあいいや、それより一つお願いがあるんだけど」

 人差し指を口にあて、そう切り出される。

「切り替え早いな。なんだ?」

「ロヴロ君の中で一番すごい魔法ってなに?折角だから見せて欲しいんだけど」


「いや、それはさすがにまずい」

「えー、駄目なの?黒魔術でも良いからさあ」

 不満そうな顔をする。他人の魔法に興味を持つのは悪いことじゃない。だが問題は、一番という文言だ。強力なものは破壊に特化しすぎていて、ここで使う気にはなれない。

「悪いけどまたの機会に」

「ケチだなー、ギャラリーも増えたのに」


 言葉の意味が分からない俺の後ろをシグマが指差す。その先を目で追い、三人の生徒が立っていることに気が付いた。

 シャルロットと、その後ろにはシュナイダーともう一人、短髪の優男がいる。


「ったく、なんで俺まで」

「まあ、そう言わずに」

 不服そうなシュナイダーを優男がなだめている。

 立ち尽くしている俺に、シャルロットが一歩前に出て深々と頭を下げた。


「私、エミリー・シャルロットと申します。試験の際は助けていただき、ありがとうございました」

「これはこれは、ご丁寧に」

「本当はその場でお礼を言いたかったのですが、ずいぶんと無礼な人が突っかかったせいで、ワープで帰ってしまわれましたから」


「俺のせいだってのかよ?」

「そう言ってるんです」

 険悪という訳でもないのに、シュナイダーを軽く流している。よくこの煩いのを沈められるものだ。


「斬りかかっていたにしては、ずいぶん仲が良いんだな」

「そんなんじゃねえよ」

 口調はいつも通りだが、言葉に覇気がない。

「俺達三人は、幼馴染なんです」

 そこで初めて、優男が俺に話しかけてきた。


「二人とは、すでに面識があるようですね。俺はラインハルト・オリクエルと申します」

 この子も丁寧だな。そして、好意的な目をしている。


「親が王城で働いていまして。ああ、すいません。一方的に余計なことばかり喋ってしまって」

「そんなにかしこまらなくてもいいぞ。同い年だし」


 どうも敬語はしっくりこない。

「いや、同い年とはいえ、あそこまで魔法が使える人にはつい癖で敬語に。こいつなんて、文字通り手も足も出なかったし」


 親指でシュナイダーのことを指さしたが、すでに蹴りを繰り出していた。

「余計なこと言わなくていいんだよ!」

「痛いなあ。まあ、俺もエミリーも綺麗に跳ね返されたんだけどね」


 それに関しては、シャルロットも同じ感想のようで、苦笑いしている。さっきの馬鹿でかい魔法は、この二人だったか。


「確かに実力差は歴然ですが、それでもブラッドさんが余力を残しているということは分かります。たった二種類の魔法しか使っていなかったですしね」


 シャルロットに対し、適当に言うこともできるが、試験を見られている以上はな。

「とにかく、現時点での実力差をはっきり知っておきたいのです。それとも、ご迷惑ですか?」


 俺が乗り気でないことが気になるのだろう、シャルロットが遠慮がちに聞いてくる。

「いや、迷惑じゃないけど」

「え、私には適当に断ったのに」

 墓穴を掘ったと気づいても時すでに遅し。ちゃっちゃと終わらせる方が良さそうだ。


 強い魔法はどうしても規模が大きくなる。まさか練習場を壊す訳にもいかない。

「あまり派手なものじゃないぞ?」

「はい、お願いします」

 シュナイダー意外の四人が、一斉に返事をした。


 一連のやり取りが聞こえていたのか、離れた位置にいるにも関わらず、モネの目がギラリと光った。

「おい、くれぐれもやり過ぎるなよ」

「分かってますよ」

 そんな具合に目で会話した、と思いたい。


 できるだけ小さくするか。

 手元に魔法陣を浮かばせる。

「すごーい。これ、どうなってるの?」

「たしかに、魔法よりそのやり方を教えて欲しいです」

「ん?じゃあこれ止めようか?」

「駄目です!」

 軽い気持ちで言ったんだが、ずいぶん本気にするな。


「ごめん、冗談だよ」

 俺、そんなに冗談分かりづらいか。表情のせいかな?それは改善しなくては。

 馬鹿なことを考えている間にも、空気中の水分が圧縮され、小さな膜を腕につくる。

「それが、一番の魔法ですか?」

 全員、ポカンとしている。反応がおかしくて、つい笑ってしまった。


「しょぼいって思っただろう?」

「い、いえ!そんなことは…」

 手をバタバタと振り、否定する。シャルロットは嘘がつけないタイプらしい。

「まあ、いいや。シャルロットは炎魔法を使ってたな。試しに撃ってみろ」

「え、よろしいんですか?でも水は炎に弱いと」


「心配いらない。どうせ当たらないから」

「…分かりました」

 よく分からないという顔をしながらも、杖を動かし、魔法を発動する。


 さっきより小さな火球が飛ぶが、膜に触れた瞬間にそれは消えた。

「おー!あっさりと消した」

「すごい、相性差なんてものともしないんですね。普通なら焦げ跡がついてもおかしくないのに」


 そんな声が上がる。シュナイダーでも目を見張るものがあったらしい。シャルロットが実力者であればこそ、こちらにも箔がつくというもの、披露する人選としては間違っていない。

「『水霊の加護』という魔法だ。大抵の魔法なら、熱も毒も通さないはず…あれ?」


 説明していてようやく、皆が固まっていることに気づいた。やがて、ポツリと感想らしき声がこぼれた。

「それって、水の精霊…ですよね?何十年も修行して、やっと対話することができるかどうかと云われる精霊の魔法をあっさりと」


 そうなのか。精霊って誰でも話せる様な生き物だと思ってた。どこにでもいるし。

「この魔法はいつ覚えたんですか?」

 興奮したオリクエルが、目を輝かせている。

 いつ、か。これは確か…。

 俺は遠い記憶の糸をたどった。


「そうだな。十三くらいの時かな」

 魔界の湖に行った時、毒池の解毒を試した時に使ったような…。その時は精霊自体を呼び出したっけか。

「ねえねえ、これって全力?」

「いや、本気でやったら溺れてしまう」


「そうなんですか?やはりそれ相応のリスクが」

 シャルロットは目を丸くする。俺の冗談は下手くそだということは分かった。

「どうせならもうちょっと扱えそうなもん教えろよ」

 シュナイダーが吐き捨てるように言った。


「なんだ、教わる気があるのか?意外だな」

「ああ!?喧嘩売ってんのか!」

「やめなさい、ジン」

 シャルロットに一喝されたところで、授業を終えるチャイムが鳴った。


「今日の授業はここまで。速やかに教室に戻るように」

 モネの掛け声で、生徒が速やかに魔法陣を消していく。

「ええ、もうちょっと見てたかったのに」

 まだ遊び足りない子供のように、シグマが駄々をこねる。かける言葉も思いつかないので黙っていると、俺の元へ駆け寄ってくる。


「何だ、もう魔法は出さないぞ?」

「それは良いけどさ。もし後継者さんが決まったら教えてね。どんな人知りたいし」

 何か聞き逃しただろうか、訳の分からない言葉を残し、離れていく。

 後継者とは、一体何のことなのだろうか。


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