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 試験が終わり、二週間が過ぎた。

 結果を待っている間、俺は魔界にいる時とほとんど変わらない日常を過ごしていた。


 こっちに来てからというもの、午前中は魔法の練習、午後になると、コーヒーを淹れるか、街をぶらつくのが日課だった。


 今日もコーヒーを飲みながら、ソファで魔導書を読んでいる。


「合格通知来ないねー」

 俺の膝を枕代わりにしているリムが何気なく言ってくる。この体勢がマイブームらしい。


「なんで合格する前提なんだよ」

「だって余裕だったんでしょう?」

「まあ、そうだけど」

 でも、確かに遅い気がしないでもない。もっとも、受験の経験がないから分からないが。


「ねえ、ロヴ。今日は街にでも行こうよ、暇だよー」

「結果が来るまでは家は空けない方がいい、どちらかは残ろうって言ったのは姉さんだろう」


「そうだけどさー」

 黙り込んだ、だいぶストレスが溜まってるな。

「まあ、俺も新しい魔導書でも見たいし、行こうか」


 部屋の書物は読み漁ってしまったし、真新しいものはなかった。

 それに、結果を待つ為だけに不便をかけることもないしな。


 リムの目が一気に輝いた。

 嬉しそうだ、本当に顔に出やすくて助かる。

「ほんと!?じゃあ私、着替えてくるから…」


 後の言葉は、かき消されて聞こえなかった。

 家のインターホンが鳴ったからだ。


「誰よ!タイミング悪いわね!事と次第によっては…」

 あからさまにむくれたリムが玄関に出ようとする。


 とっさに腕を掴んで止めた。

「俺が出るよ。その顔で出られたら、変な噂が立ちそうだ」

「どういう意味よ!?」


 俺は逃げるように玄関に向かった。

 これ以上、地雷は踏めない。頼むから、このタイミングで変な勧誘はよしてくれよ。

 祈るように、ドアの覗き穴から外を見る。


 しかし、立っていたのは知った顔だった。といっても、内一人は毛むくじゃらの胴体しか見えないけど。

 ドアを開けて外に出た。


「どうも、受験以来ですね」

 ファナが笑顔で話しかけてくる。

「お久しぶりです」


「実は、今日は受験のことでお話があってお伺いしたんですが、中に入ってもよろしいですか?」

「わざわざ結果を伝える為にここまで?」

 ずっと黙っているルーカスに聞いてみた。


「そうだな、半分はそうだと言える」

 いまいち要領を得ない答えだな。

「まあ、中へどうぞ。俺も聞きたいことがないわけでもないので」

 俺は二人を中へ招き入れた。


「適当に座ってください」

 リムをどかし、二人をソファに促した。

「ロヴ、誰よその人達?」

 リムが二人を睨みつけている。


「試験官さんだよ、姉さん。二人にコーヒーを淹れてきてくれると嬉しいんだけど」

 横に居られると面倒なことになる気がする。


「はいはい」

 それを察してか、リムは渋々キッチンに消えていった。

 なんだかんだ言って、俺の希望は聞いてくれるからありがたい。


「あれが人造人間か」

「え?」

 驚いて振り向いた。ルーカスの体がでかいので、少し窮屈そうに座っている。


「レイノルズに聞いているよ。彼女が禁術の賜物というやつだろう」

「何が言いたいんです?」

 姉さんが狙いか?

 俺はとっさに魔力を練る。


「そう身構えないでくれ。ただ、人間界では、人の魂を呼び戻すことはタブーなんだ。こっちで暮らすなら、知っておいた方がいいよ」


 ファナも頷く。どうやら嘘ではなさそうだ。

 俺も二人の向かいに座る。

「なんだか、試験の時としゃべり方違いますね」

「あれは役作りだよ。その方が、威厳が出るだろう?」


 ルーカスが自慢げに鼻を鳴らした。

「まあ、ブラッド君のグループで愚痴を漏らしたので、威厳があったかは疑問ですけどね」

 ファナの言い方に棘がある。何か根に持ってるのだろうか。


「オホン。まあ、それは置いておいて、まずは試験の結果を伝えよう」

「その前に一つ、いいですか?」

 俺はファナに向き直って言った。

 どうしても聞いておきたい。


「え?私にですか?」

 意外そうに自分の顔を指さしているが、構わず言葉を続ける。


「試験の時、高威力の魔法を俺に使わせましたよね?どんな魔法を使ったんですか?」

「ああ、そうですね…あれは魔法というか、体質というか…」


「言っていなかったね、ファナは人間ではない。他人の魔力を操ることができる種族、と言われれば察しはつくかな?」


 他人の魔力に干渉?何かで読んだ気がする。たしか、上級の種族にしか出来ない芸当のはず。


「どんな種族なんですか?」

「えっと…ヴァンパイア…です」

 おお、最上級の種族だ。個体が少ないし、本物を初めて見た。


 変なところで好奇心が湧いてしまった。

「私の特異体質でして、他者の魔力をそのまま吸えるんです。あの時はそれを応用して魔力を引き出したんです。魔法陣が変わったのは、意識に催眠魔法をかけたからですけどね」

 か細い声で答えてくれた。なぜか頬を赤くしている。


「なんでそんなに照れてるんです?他人の魔力を操れるなんてすごいことじゃないですか」

「いえ、なんと言うか、自分のことをペラペラ喋るのは…恥ずかしくて」


 よほど恥ずかしいのか、口を両手で覆っている。悪魔の羞恥心はよく分からない。


「ちなみに、魔力を操るのはどんな感覚なんですか?」

「そうですね…水道の蛇口をひねる感じに似てます」

 発想が庶民派だな、最上級の悪魔…。

 思わぬ例えに、ほくそ笑んでしまう。


「念のために言っておくが、体質だから、真似をしようとしても無理だよ」

「そのぐらいは分かりますよ」

 ルーカスが歯を見せて笑う。

「そうか。いや、レイノルズが、君は魔法に対しては節操がないと言っていたから、一応ね」


 そんな紹介してたのかよ、父さん…。

「じゃあ、どうして俺だけ魔力をいじったんですか?」


「君があまりに聞いていた話と違いすぎたから、勝手ながら魔法を出す瞬間に意識を変えさせてもらったんだ。立場上、我々もちゃんと実力を見定めなければならなかったのでね、その件に関しては謝るよ」


 ファナとルーカスに頭を下げられた。

「こちらこそ、すいません。本気を出すと、他の受験生を見れないかと思いまして」


 冗談で言ったわけじゃないのに、二人が吹き出した。

「え、なんですか?」

「そのおごり、レイノルズとよく似ている」

「懐かしいですね。彼もずれた気遣いをしてました」


 二人共、なかなか笑いが止まらなかった。

 父さんとどういう関係なんだ?いろいろ聞きたいが、試験に話を戻そう。

 というか、そろそろ笑うのをやめてくれ。こっちまで気恥ずかしくなってくる。


「もういいでしょう?で、結果はどうなんですか?」

「ああ、そうだった。ごめんごめん」

 そう言って、すっと真面目な顔に戻った。


「教師陣と協議をした結果、君は不合格にすることにした」

「…え?」

 思いがけず固まってしまった。

 不合格…俺が?いや、そもそも今の口ぶりでなんで不合格に?

 聞く前に、背筋がゾッとした。殺気混じりの声がする。

「どういう意味よ?」

 直後、リムはテーブルにコーヒーカップを叩きつけた。


「うちのロヴがどうして不合格なのよ?」

「リム、落ち着いて!選考基準なんか俺達には分からないだろう」

 俺は必死で腕を掴んだ。すでに殴りかかる勢いだ。


「いや、正直、予想以上の実力だったよ」

「そうです。今すぐにでも上級の職に就ける程の実力だと思います」


「じゃあなんで駄目なのよ!」

「どういう事なんですか?」

 これ以上は抑えていられない。腕が限界だ。


「生徒としては合格にはできない、ということだ」

 ルーカスが言い放った言葉の意味が理解できないのか、リムの動きが止まった。


「とりあえず座ろう、姉さん」

「…うん」

 聞く耳を持っている。多少は怒りが収まったようだ。

「そろそろ話をしてもいいかな?」

 ルーカスが聞いてくる。心なしか、少し震えている。

 深く座り直し、話を始めた。


「うちの学院は昔からの名門校というやつでね、王城で働く者を多く輩出している。しかし近年、若者の実力は下降の一途をたどっている。国としては、近衛兵クラスの質が下がっているのは致命的でね。私も教育者の端くれとして、頭を抱えているんだよ」

 俺のようなよそ者にそんな話をするという事は、言いたいことは明らかだった。


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