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異能力軍、戦前演説

異能力軍、戦前演説~2番隊の場合~

作者: ミサキ

「ヒャッハー!」




 暖かく、包み込むように柔らかな日射しが心地良い、春。

 絶好のお昼寝日和な、ある日。


 日本特殊異能力部異能課、異能力軍は船に乗り込んでいた。


 異能力保持者が表れた現代、その異能力を使った犯罪が増加し続けている。


 単独犯も多いが、彼ら彼女らとて阿呆ではない。

 異能力保持者は人口で見れば1%にも満たないのだ。よって彼らは徒党を組む。それが社会貢献を目的とした組織なら良いのだが、異能力保持者も人間であり、欲もある。一般人にはない特別な力、異能力を存分に使いたくなって当然だ。


 その欲求を思う存分発散すれば、異能力にもよるだろうがそれはただのテロ行為である。

 今回も異能力軍が相手にするのはそんな者達だ。


 異能力を存分に使いたいと考えているのは、軍属の彼らだって同じである。

 と言うか、軍属の彼らはその欲求を人一倍抑圧している。確かに異能力は仕事で必要だ。しかし、自由にそれを使うことはない。


 異能力とは個の象徴であり、軍とは組織である。


 欲求を押さえ続けるのは、とんでもないストレスを溜めるもの。特に、異能力軍2番隊の面々はその欲求が強く、ストレスもそれ相応に溜め込んでいた。

 

 

「野郎共! 揃ってるな。

 

 万に一つも無いだろうが、知らない奴が居るかもしれないから名乗っておこう。


 『世紀末』でお馴染みの2番隊隊長、夫馬(ふま) 翔大(しょうた)たぁ俺の事だ。

 

 さぁ、敵の情報は覚えてっか?

 【海竜のアギト】とか言う海賊が相手だ、外国(他所)でやらかしてきたらしい。


 ったく、何処の海軍も腑抜けてやがる。たかが異能力保持者に負け越したぁなぁ……

 保持者つっても人間だぜぇ? 鉛弾1発かませば終いだってのに情ねぇ限りだ。


 たが! そのおかげで俺らが動ける!


 口煩い1番も3番も、今回は居ねえ!

 保険で4番が居るがぁ、こいつらぁ同類だ!


 てめぇら! 俺が許可する。


 暴れろ! 壊せ! 思う存分喰らい尽くせ!


 俺ら2番隊は、軍の中でも異端だ!

 正義なんて信じねぇ!

 国の連中だって信じねぇ!

 道徳なんて糞喰らえ!


 神が居んなら出てこいよ、2番隊(俺ら)が喰らい尽くしてやる。


 俺らは化け物だ。

 全身に返り血を浴びて、臓物で口を汚した化け物だ。


 何を思う?

 何を感じる?

 何を考え何をした?


 俺らは化け物だ!

 良いじゃねぇか、化け物で!


 俺らの通る道は修羅の道だ!


 好きだ選んだ訳じゃねぇ!

 戦いたい訳じゃねぇ!


 こんな異能力、無い方が良かったか?


 思い出せ!


 何故俺らは、ここに居るのかを!

 

 俺らがどれだけ嫌われようと関係ねぇ!


 社会に嫌われ、他人に疎まれ、友が消え、親にだって捨てられた俺ら2番隊!


 何一つ残ってねぇ俺らは何をしたい?


 好きに暴れりやテロリスト。

 なにもしなけりゃ社会のゴミだ。


 俺らは無能か?


 違うだろ。

 俺らは今、何処にいる?

 俺らの隣に、誰がいる?

 

 俺らは今、誰を護ってるんだ?


 例え嫌われようと!

 例え疎まれようと!

 例え誰からも必要とされなかったとしても!


 その忌み嫌われた力と共に!

 俺らを切り捨てた奴等を護ってるやろうぜ!


 そして今と、何処かに居る俺らの同類に道を標してやろうじゃねぇか!


 俺らなら、俺らだから言ってやれる!


 嫌んなって諦めて、全部を捨てんのは簡単だと。

 全部を憎んで恨んで、仕返しすんのは簡単だと。


 けどよぉ


 誰かのために戦って

 誰かのために傷付いて

 誰かのために力を使って


 俺らは何を思った?

 たった1つの言葉に救われなかったか?


 『ありがとう』ってさ、言われなかったか?


 だから、ここに立ってんじゃねぇの?

 だから、誰かのために命張れるんじゃねぇのか?


 それで俺らは満足だろ。


 殆どの人間に嫌われててもよ、ほんの一部の誰かが俺らに感謝してくれる。


 それで良い!

 それだけで良いんだ!


 だってよぉ、それってすげぇ格好いいじゃねぇか!


 こんな俺らにだって、やれることはある!


 俺らはこの力で、誰か護ってる!

 

 負けらんねぇよな!

 倒れてなんて居られねぇよな!

 

 俯いてる暇なんてねぇぞ!

 

 傷付け壊すだけだった俺らの異能力が今は、誰かを護る力になってんだ。


 手は抜けねぇ!

 妥協も出来ねぇ!

 諦めるなんて論外だ!


 格好良く、やりきってやろうぜ!」




 大型漁船に偽装した特殊仕様船の、先頭に立って盛り上がっているこの男が、2番隊長の夫馬 翔大である。

 彼の言うとおり、2番隊は過去に化け物と呼ばれた人物が集まっているのだ。

 そのせいか、多くの人達からは蛇蝎(だかつ)の如く嫌われているのも事実である。


 しかし、彼らはそんな事を気にしない。

 幾ら嫌われようとも、関係無い。


 時々、彼らが助けた人から感謝をされる。

 それが2番隊のモチベーションであり、軍に所属し続ける理由である。


 ……と、話だけを聞くととても美しいのだが…


 残念な事に、2番隊が未だに嫌われているのには理由があるのだ。


 異能力軍2番隊。『世紀末』な彼らは、基本的態度が悪い。最早最悪と言っても過言ではない程に、態度が悪い。

 4番隊と9番隊も態度が悪いのだが、彼らはそれなりに節度を守るし、作戦に関してはほぼ完璧にこなしている為許容範囲内に収まっている。


 だが、2番隊は違う。

 彼ら、頭の出来は悪くない。寧ろ賢いと言えよう。


 何が問題なのかと言えば、それは2番隊全体の考え方に問題がある。

 それは、嫌われたって気にしない、と言うか考え方だ。


 異能力軍に入る前から嫌われ者の彼らは、これ以上に嫌われたとしても、大した事ではない。


 それ故、行動が大胆になっている。


 

「さて野郎共。祭りの時間が迫ってきてるぞ、準備は良いな。


 改めて言うが今回の敵は海賊だ!

 奴等は海上戦のプロフェッショナルだ、気ぃ抜くと死ぬぞ!


 たがまぁ、俺らは天性の化け物。

 陸も空も海も関係無ぇ、俺らが居る場所が戦場だ!


 相手は国際指名手配、しかも生死不問の討伐依頼。

 つまり、分かるよな?


 殺せ! 奪え! ブッ壊せ!

 奴等の船を沈めて帰るぞ!


 死体は残れば上々、手加減すんなよ。


 俺らに課せられたルールはただ1つ。


 1人も逃がすな! ってな。


 てこたぁ、やることは決まってる。


 皆殺しだぁ!


 細かいことは気にすんな!

 知らねぇ顔は全部壊せ!


 最高じゃねぇか、此処は海。

 誰も俺らを見ていない。


 ……クヒッ、イヒヒヒヒ…


 さぁ野郎共、理性の鎖を引き千切れ!


 海賊と俺ら、どっちが狂ってるかを試してやろうぜ!」



 ざっとこんなモノである。

 何があったのかは知らないが、2番隊は社会に適合してしまった狂人やらサイコパスやらのヤバい奴の集団なのだ。


 因みに、彼らが公の場に出る時は、サイコパスと呼ばれる人種が立つためか、表だった問題は起こしていなかったりする。

 実に厄介かつ有能な集団である。




 尚、全ての作戦が終了した後、こっそり着いてきていた監視役の8番隊員に密告され、2番隊全体で減給及び更正訓練の処罰が下ったのは些細な問題であった。






 今回は2番隊でした。


 シリーズとして投稿しているはずですので、良ければそちらも……



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も素晴らしい性格の演説でした! [一言] でも、ごめんなさい。隊長の名字が難しくて…… ルビをお願いします!
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