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残念な旅立ち01

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者08


残念な旅立ち01


 俺たちはこの周辺では一番近くにあるというロッデムの町へ向かっていた。

 メリットがゴブリンたちにつかまる前に滞在していた町だという。

 半日ほど荒野を歩きつづけ、ようやく町が遠目に見えてきた。

 近くまで寄ると目の前には見上げるほどの高い城壁がそそり立っている。町全体がぐるりと城壁で囲まれており、形としては球場の大型版といった感じだ。

 しばらく外壁を歩いていくと、やがて分厚い両開きの扉が見えてきた。

 扉はピッチリと閉じられており、その横にある衛兵の詰め所から槍を持った兵士たちが油断することなく、俺たちを見張っている。

「さすがに警戒厳重だな」

「前に来たときもそうでしたわ」とメリット。

「ねえ、早く入れてもらいましょ。もう疲れたしお腹ペコペコ」

「はいはい、言われなくてもわかってるって」

 俺は相手にするのも面倒になって、衛兵に話しかけた。

「ええと、この街に入りたいのですが?」

「なんだ、お前らは?」

 衛兵はうさんくさそうに俺たちを見た。

「あ、あのう、数日前にこの町から出たメリットです」

 メリットがおずおずと進み出た。

「おっ、その顔は見たことあるぞ。確かエルフだったか?」

「はい、覚えていてくれたのですね」

 地獄に仏とばかりメリットの表情がパッと明るくなった。

「エルフの観光客は珍しい。しかも若い女性エルフだったからな」

「あ、ありがとうございますぅ」

 すぐに真っ赤にはにかむメリットの表情がすごくいい。

 ……というか、こいつかなり鼻の下伸ばしてないか。

「師匠、何ブスッとしてるんでガス」

「別にぃ」

「なんだ、お前は?」

 兵士はゴスの方を見た。

「なんだ、お前はゴブリンではないか! よくもぬけぬけとこんなところまで来やがったな!!」

「ちょ、ちょっと待て。こいつは悪い奴じゃない。もう悪さはしないって誓ったんだ!」

「信じられるか! どうせ形だけおとなしく振る舞っているだけだ。すぐに本性を現す!」

「あっしは師匠に仕えると宣言したでガス。その師匠が悪いことはするなと言われた以上、ずっと守るつもりでガス」

「ゴブリンだけならまだしも、後ろにいるのはオークだろうが!」

「我輩もお嬢様を守ると誓った。お嬢様の行かれる所はどこへなりとも付き従う!」

「こいつ、あたしの命令には絶対服従よ。というかさせるわよ。だから大丈夫だったら」と偉そうにプルンと胸を張る。

 その自信はどこから来るんだ。さっきまで騒いでいたくせに。

「冗談じゃない! ゴブリンだけでなくオークまで。モンスター達を絶対入れるなと命令されているのだ!」

「さてはオークとゴブリンの戦闘から逃げてきた敗残兵だろう」

 当たっているだけに何も言えん。

「あいつらの戦争に巻き込まれてたまるか!」

「人間とは言え、モンスターと一緒にいる連中など信用できん!」

 まあ、そう言われるとは思ったけど、予想以上の拒絶ぶりだ。これではつけいるスキも無い。

「さてはお前らモンスター達に魂を売ったな。この裏切り者めが!」

 そう言うなり兵士達は槍を構えた。

「ご、誤解ですぅ。皆さん、落ち着いてくださいぃ」

 アワアワとメリットが取りなすが、誰も聞いちゃいない。

「これ以上近寄ると、敵意ありと見なし攻撃する!」

 兵士長らしき男が鋭い声で警告した。

「あーっ、だめだ、こりゃ。みんな、撤退だ、撤退!」

 俺は両手を上げて、後ろを向いて逃げ出した。

「ちょ、ちょっと、待ってよ!」

「し、師匠、置いてかないでくださいガス」

 あわてて富美子とゴスも逃げ出し、メリットやスクラブも後に続いた。

 兵士達は追いかけてくることなく、そのまま油断せずこっちを見ているだけだった。


「ハアッ、ハアッ、ここまで来ればもういいだろ」

 俺は肩で息をしながら立ち止まった。

 最近全然運動してないからな、息が上がるのが早すぎだ。オタ生活じゃあんまり体動かさないからな。

「情けないわねえ。この程度で息切れ?」

 対する富美子は余裕の笑顔で俺をのぞき込んできてる。

「そ、そう言う富美子はよく平気だな?」

「あたし? だって、歌うとき動き回っていたし、収録の時は結構走り回ったりするわよ。そのくらいで音を上げていたらアイドルなんてできないわよ」

 そう言うと、ケケケと笑う。

 そのどや顔が、ものすごーーく、うざい。

「大丈夫ですか?」

 その点メリットは心底心配そうに俺を遠目で見ている。

 俺は心配をかけないために、メリットに笑顔を浮かべた。

 たぶん、すごいひきつった顔だと思うけど。

「だいじょうぶい」とⅤサインを出す。

「しょーもな」と富美子の鋭いツッコミは無視して、俺は周りを見回した。

 スクラブもゴスも何事もなかったかのように、そばに立っていた。

 さすがモンスターズ、あの程度では運動のうちにも入らないか。

「師匠、無事でガスか?」

「ああ、なんとかな」

「情けない。これだから人間は。ところでお嬢様は大丈夫ですか? もし、よろしければ我輩が抱っこしてあげましょうか?」

 口をタコのようにして迫ってくるスクラブに容赦なくアチャーとか言いながら鉄拳制裁を加えている。

 このやり取りを見る限り、みんな無事のようだ。

「さて、これからどうする?」

 俺は地面にあぐらをかいて座った。

「行く所はあるの?」

「引き返せば戦場に逆戻りでガス」

「それは、いやあああああああっ!」

 髪を振り乱して全力拒否の富美子だった。

「あのう、もし、行く当てがないのなら、わたくしの故郷はどうでしょうか?」

 メリットがおずおずと口をはさんだ。

「メリットの故郷って、エルフの里?」

「はい、それはきれいな場所ですよ」

 ファンタジー小説で読んだけど、美しいイルミネーションがまばゆく辺りを照らし、美男美女のエルフ達が微笑んでくれる桃源郷みたいな場所かな?

 俺がその事を伝えると、メリットは首を振った。

「田舎村みたいな所ですわ。古びた家に老人ばかりのエルフ達、落ちてきた枯れ葉とかで埋もれてます」

 廃村危機の田舎村状態だな。

 この世界の少子化問題を目の当たりにして、世間の厳しさを噛み締める俺であった。

「でも森も景色も美しいです。わたくしは大好きですよ」

 メリットがそう言うからにはきれいな場所なんだろう。

 大丈夫かなあと不安はあるが、行く場所の当てがない以上そこしかないだろう。

「あっしらは入れるでガスか?」

 そうだった。モンスター達が入られなければ意味がない。

「えーと、たぶん」

 何かあいまいな返事だな。

「しばらく離れていたから、最近の状況はわかりません。でも、害を及ぼさないと約束してくれるなら、わたくしが説得するから」

 メリットが力強く言う。

 そこまで言うなら、行くしかないだろう。

「どうする? 富美子?」

「もう休めるならどこでもいいわよ。あー、早くお風呂に入って暖かい食事してベットで寝たい」

 げんなりとした顔でつぶやいている。

「お嬢様が言われるなら、この我輩はどこでもお供します」

 まあ、スクラブはそう言うと思ったよ。

「じゃ、決まりだな。道案内は頼むよ、メリット」

「はい!」

 メリットは頼りにされたのが嬉しいのか、ニコッと笑った。


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