残念なお風呂16
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者32
残念なお風呂16
「なんでこんなにオークがいるでガスか? これってあの時の戦争の再現でガス」
確かにゴスの言うように、俺たちが初めて来た時に遭遇したオークVSゴブリン戦争の続きをここでやるのかと思えるぐらいの数だ。
「一体どうなってるのよ?」と富美子がきょろきょろしながら言う。
俺のほうが聞きたい。一体全体どうなっている。
「そうだわ。スクラブはどこ? 何か知ってたりするの?」
俺たちは群れの中にスクラブの姿を探したが、一見したところどこにも見当たらなかった。
「いないでガス。もっともいても、あっしらには見分けがつかないでガスが」
人間にはどのオークも同じにしか見えず、見分けがつかん。
この中からスクラブ一匹を探し出すのは、まさに●ォーリーを探せ、だな。
その代わりに見つかったのは、派手な衣装を着たブリキ王冠を被ったオークの姿だった。
「マズい奴の姿を見つけた……」
「あっしもでガス。見たくなかったでガス」
俺たちの登場に気づいたのか、当の派手オークのゼノがこっちを見た。
「ようやく出てきたか。待っていたぞ!」
ゼノは俺たちのほうを向き大声で言った。
「ふぉーーーーっ!」
「ようやくお出ましだぜえっ!」
「こいつらを血祭りにしてやる!」
「男は殺せ! 女は俺たちの奴隷だ!」
他のオークどもが一斉にどよめき、盛り上がっている。
全然うれしくないテンションの高さだ。
「ねえ、ねえ。なんて言ってるケン?」
チョコにはわからないのか。無知っていいよなと心底思えるぞ。
オーク語がわかるのがうらめしい。
異世界に来て言葉が全部わかるらしいのだが、この点は謎だな。俺だけじゃない、富美子もそうみたいだから、転生者には言葉がわかる能力が付属しているのかもしれない。
オークたちがドラムやらを打ち鳴らし、ゲスな歓声を上げている。とんだ歓迎の宴だ。
「やーれ、やーれ、やーれ、やーれ」との大声が響き渡る。
こっちがやれやれだよ。
「メリット、幻影の術は使えないのか?」
「ダメです。もう魔法は使い切りました。魔力がないんです」
「そんなあ。じゃ、じゃあ、あたしたち、どうすることもできないんじゃ」
富美子が頭を抱えてうずくまる。
正直、メリットの今の言葉は俺にとってもショックだった。
オークの大群といっても今まで切り抜けてきたんだし、メリットの術があるから何とか切り抜けることができるなと少し軽く考えていた。
しかし、今回はわけが違う。
今までのように相手に姿を見られてない状態で隠れて移動したり、一撃離脱で突破したりという戦略が使えない。
完全に俺たちは取り囲まれた状態、しかも人並みの知性があるゼノが相手なのだ。
この状況からゼノは俺たちを逃がさないために、大群で完全に包囲してここで待ち構えていたということだ。
それならここから逃げ出せる方法はまずないだろう。そのためにこの方法をとっているだろうから。
ましてやメリットの魔法が使えない状態では、こっちの打てる手なんかほとんどない。
いや、一つだけあった。
「チョコ」
俺は小声で呼んだ。
「何?」
「まだ、オークどもが気付いていないうちに『封印の壺』と『氷の精霊』箱を結んでいるひもを切ってくれ。誰にも知られないように」
「わかったケン」
チョコがコッソリと俺たちの前から姿を消した。
その時だった。
「静かにしろ!」
ゼノのドスの効いた大声が轟いた。
それとともにオークの声が消えた。
正直驚いた。
あの無秩序なオークどもがゼノの一括で静かになるのだ。人間でも騒いでいる状態で「静粛に!」と言われて急に静かになるだろうか? 少しはざわめいたり私語があったりして、なかなか静かにならないのが普通だ。それをこいつの一声だけで一瞬で静かにできるのは、何らかのオーラやカリスマがあるからだ。
こいつは俺が思っていた以上にやっかいな奴なのかもしれん。
ゼノが俺たちに向かって歩き出す。周りのオークどもが引きながら道を開けていく。
大群を割って歩いてくる姿は、まさにオーク王と呼ばれるにふさわしいものだった。
「また会ったな」
ゼノは俺たちのすぐそばまで来ると立ち止まった。
「待っていたぞ。オークたちでは『封印の壺』を取りに行くことができなかったからな」
「だから俺たちに取りに行かせたってわけか?」
「その通りだ」
「仲間はどうした?」
「仲間だと? どういうことだ?」
「俺たちもあのほこらを降りた。だが、最初は精霊の罠にかかって火を噴きかけられたからな。お前はどうしたかって聞いているんだ」
「ふっ、くだらぬ質問だ」
ゼノは小馬鹿にしたかのように俺を見た。
「俺様の命令一つでオークどもは動く。たとえそれが命がかかっている行為であったとしてもな。なぜ俺がそんな危険なところへわざわざ入らねばならん。手下を中に派遣しただけだ」
「お前はそいつらを捨て駒にしたわけか」
「捨て駒か。結果的にそうなったがな」
「平気で仲間や同族を捨て駒にする奴がよくも王を名乗ってられるな」
俺はわざと大声で言った。少しは群れが動揺してくれという期待も込めて。
「くだらん、人間のような感傷に何の意味がある」
ゼノは心底くだらないといった顔で俺を見た。
「人間はくだらない倫理観に囚われている。『愛』だの『信頼』だの『名誉』だの。それらが一体何の意味があるというのだ。俺に言わせるとそんなのはただのまやかし、くだらない幻想にすぎん」
「な、何を言ってやがる」
俺はさすがにムカッときた。俺だけじゃない。富美子もメリットもゴスも渋い顔になっていた。
「何勝手なこと言ってるのよ。この豚男!」
「わたくしにはとてもそうは思えません! あなたには人を信頼したり愛し合ったりする気持ちはないんですか?」
みんなの憤る姿を見ていたゼノは、うつむいた。
ひょっとして反省してるのかと思ったが、違う。
ゼノは下を向いて笑いをこらえていた。やがて耐えられなくなったのか、大声で笑いだした。
「な、何がおかしいのです?」
メリットが顔を真っ赤にして怒った。
「お前らのような連中を偽善者というのだ。人間、いやエルフでさえ、一皮むけば本質は同じだ。体裁をつけてるにすぎん。まだ、金で動く連中のほうが俺から言わせれば本音で動いているだけよっぽどまともだ」
いや、スクラブやゴスみたいに、本音丸出しで動いてるのもどうかと思うが。
まあ、こいつに比べればこの二匹がかわいく見えてきたぞ。
「それが人間の限界だ。俺様は違う。いや、オークは違うというべきか」
「お前も元人間じゃないか」
その言葉を聞いたゼノの目がつりあがった。
「俺がオークの王になる道を選んだのは、そんな人間に嫌気がさしたからだ。俺の姿かたちだけで人は他人を評価し差別する。本質や内面など知ろうともせず外見と印象だけで見るからな」
なんか言いたいことはわかる。
俺もそういう経験あったからな。
「オークの世界は完全に実力主義だ。力と強さこそが正義、まさにシンプルそのものだ。実にわかりやすい」
そう言うとゼノはニヤリと笑った。
「だが、それがいい」




