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残念な仲間02

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者03


残念な仲間02

 

 俺はごしごしと目をこすった。

 こんな牢屋の中に金髪の美少女が座っている。これは夢か幻か、はたまた俺のファンタジー世界への妄想が生んだ存在なのか?

 よく目を凝らしても、やっぱり暗がりに女性が座っている。

 ずっと外の方を向いていたから、中に先客が居たことに気づかなかった。

 雪のように白い肌、整った顔立ち、緑色の目をした美しい女性だった。そして、その耳が……。

「耳が尖ってる……。ひょっとして、エルフなのか?」

 俺のつぶやきを質問と勘違いしたのだろう。エルフ娘は軽くうなずいた。

「はい。わたくしは『メリハシューリット=フェン=リモーリア』と申します。かつてはエルフの杜に住んでいた者です」

 すげえ、エルフだ。

 ファンタジー世界ではよく出てくる種族だが、こうして生で見ることができるなんて。ファンタジー世界サイコーだ。

「ほ、本物だ……。今まで夢見ていたリアルエルフにこんな形で会えるなんて……」

 感動のあまり俺の声は震えていた。

「あ、あのう。エルフを見るのは初めてですか?」

 声までがきれいだ。

 俺にとってはエルフは雲の上の存在、さっきまでいたあんなアイドルもどきとは全然違う。

 そんなエルフが俺をじっと見つめている。

「は、はい」うわずった声で何とか返事した。

「そ、そうなんですか。実はわたくしも人間の方とお話しするのは初めてなんです」

「そ、そうなんですか。初めて同士ですね。ハハハ……」

 思わずオウム返ししてしまった。

 何を言っているのかわからないが、お互いどう話をしたらいいのか、俺は困っています。

 エルフ娘はうつむいたままでじっと座り込んでいる。

「耳……」

「えっ?」

「耳がそのピクピクしてます。かわいいれす」

 いかん、噛んだ。

「耳ですか? そ、そうなんですか? 人間の方にはそう見えるんですか? わたくしにはわかりません」

 みっ、耳が犬みたいにうなだれている。顔は真っ赤になって照れてるし、何、このかわいさ。これを萌えといわずに何と言う。

「そ、そんなにわたくしの耳に興味があるんですか?」

「え、え、えっ、は、はい」

「よ、よろしければさわってみますか?」

「ええーーっ。それは」

「あ、いえ。なんでもありません。失礼なことを言ってしまいました。忘れてください」

「いえ、いいいいえええ。トンでもありません。さ、さわってよろしいんでございますか?」

 もう、何が何やらわからん。混乱してる。

「はい。あなたさえよろしければ」

 なんて役得、いい、これだけでもファンタジー世界に来てよかった。

 俺はおずおずとエルフ娘に近づいた。触れ合えるほどの近さに来ると相手のほんのりとした体温と香りが伝わってくる。

 俺のドキドキがわかるのか、相手もうつむきながら緊張している。

 そっと手を伸ばす。顔に触れないように、耳だけを軽くさわった。

「あふん」

 エルフ娘がビクッと感電したかのように震えた。

 初めて触ったエルフの耳はしっとりしていてやわらかく、女性の胸にさわったことはないが、きっとあんな感じなんだろうとぼんやり思った。

「やわらかいです」

「そ、そ、そうですかあ。くすぐったいです」

 うわずった声をあげる。

 さわっている耳がピクピク動いている。まるで小型のハムスターを握っているみたいだ。

「手があったかいです……」

「す、すいません」

 俺は手をあわてて離す。エルフ娘は驚いたように俺を見た。

「あ、あのう。これでよかったのですか?」

「は、はい。ま、満足しました」

「人間の方に初めて触られました。しかも耳を……」

 エルフ娘はもじもじしながら俺を見た。


 恥じらいながらじっと待っているその姿、もう素晴らしすぎる。

 俺は、俺は……、この感動を何と言って表現すればいいのか、わからん。

 さわった手を洗わないという奴を俺は今まであきれていたが、今になってその気持ち痛いほどよくわかるぞ。

 あの感触を何か残しておけたらいいのに。誰かそんな機械を発明してくれ。

 

「ど、どうでした? わたくしの耳は?」

「あ、は、はい。最高でした」

 うわずった俺の声を聞いて、エルフ娘はクスクスと笑った。その笑い方といったら、鳥のささやきのようだ。

 いい、二次元のキャラ、いや、こうして目の前にいて触っているのだから、三次元、いや2.5次元なのか。とにかく素晴らしい。

 感動にうち震える俺にエルフ娘がたずねてきた。

「あなたの名前は?」

「ひゃ、ひゃい、お、お、おれは……」

 興奮のあまり俺の声が上ずる。

「目黒、高明で、です」

「めぐろ、たかあきで、さんですね」

「い、いい、いいえ。高明です」

「すみません。たかあき、ですね。人間の言葉に慣れてないので」

「い、いえ、いえ。俺が変なしゃべり方したせいです。しゅ、しゅみませんっ!」

「そんなことぐらいで謝らないでください。なにも悪いことしてないじゃないですか」

 恐縮してエルフ娘もペコペコする。

 お互いに頭を下げまくってから、思わず俺は吹き出した。

 エルフ娘も俺の笑顔を見て微笑んだ。

「『メグロ』ってお呼びしたらいいでしょうか?」

「は、はい。あ、いや、できたら名前の方で」

 この際だ。ファンタジーらしく名前呼びしてもらおう。

「では、『タカ、ア、キ、デ』ですね?」

 言いにくそうに一言づつ区切って発音した。

「あの、俺の名前は、『たかあきで』じゃなくて……」

「間違えていましたか?」

 悲しそうに俺を見る。おあーーっ、俺の馬鹿、ダメだろうが。この子にこんな顔させちゃ。名前の呼び間違えぐらいなんだよ。

「あの、難しそうなら『タカ』でいいです」

「は、はい。『タカ』」

「そうそう」

「よかった。ちゃんと発音できてますね」

 親指を上げる。エルフ娘の顔がパッと輝いた。

 いいよお。その笑顔、名前の違いが何だ。これから俺は『タカ』に改名するぞ。

「あの、メリハ? リット? さんでしたっけ?」

 エルフ娘もクスクス笑っている。

「人間の皆さんもわたくしの名前は難しいみたいですね。好きなように読んでくれても構いませんよ。わたくしもあなたの名前を略してますし」

「そ、それじゃあ、ええと……」

 省略すればいいんだから、前と後ろを取って…。

「『メリット』?」

 俺の何気ないつぶやきを聞いて、メリットは、

「人間からあだ名を頂きました。大切にしますね」と言った。

 もし、メリットファンクラブがあるなら、間違いなく会員になって通いつめるなと、俺は確信した。


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