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残念なお風呂11

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者27


残念なお風呂11


 俺は倒れているゴスのそばに駆け寄った。

 幸い息をしている。ただ、気を失っているだけか。

 俺はメリットに言って体力回復の術をかけさせる。

 意識を取り戻したゴスは周りをきょろきょろ見回して、すぐに何が起こったのか気づいた。

「なんてことでガス。あっしらがせっかく苦労して持ってきたってのに」

「こんなことじゃあ、長老様に申し訳が立ちません。わたくしはどう報告したらいいのか」

 落ち込むガスとおろおろするメリット。

「何言ってんのよ。早く取り戻すわよっ!」

 富美子が大声で叫んだ。

「こんなことしてる場合じゃないでしょ。早く言って取り返さないと」

 その通りだよ、さすが富美子だ。

「富美子の言うとおりだ。俺たちはできるだけ早く箱を取り返さないと」

 俺と富美子の言葉にみんなが驚いてこっちを見た。

「でもどこに行けばいいでガスか?」

「メリットは連中はどこに行ったと思う?」

 俺はメリットに質問を返した。

「奴らの住処でしょうか?」

「あれを持って帰っても邪魔になるんじゃないか? 連中の頭じゃあ、周りの群れが凍らされるだけだろ」

「そうだろうな」

 スクラブがうなずく。説得力ありすぎ。

「奴らが持っていくってことは何か利用価値があるってことだろ。あのゼノとかいうオーク、思った以上に頭がいい。何か良からぬことを考えているんじゃないか?」

「ゼノの奴は純粋なオークじゃないって聞いたでガス。なんでもハーフオークとか」

「ハーフオーク? 何それ?」と富美子が不思議そうな顔をした。

「人間とオークの間に生まれた種族です」とメリットが解説する。

「ファンタジー世界の設定でよくある話だ。オークが人間の女をさらい、子を産ませるんだ。生まれた子供はハーフオークになって両方の性質を受け継ぐ。通りで頭がいいと思ったよ」

 それなら納得できる。だが、相手は人並みの知性を持っているということだ。これは油断ならないな。

「えっ、ゼノの奴、吾輩とは違うのか?」

 スクラブが首をひねる。

 こいつでは理解できないのか。みんなこの程度なら苦労しないんだけどなあ。

「とにかく話を戻すよ。ゼノはどこへ箱を持っていくかだ。あんなのは置いておくにしても危険がありすぎる。利用しようにも火トカゲの皮みたいなアイテムがないと使えない。普通に考えたら狙う必要がないんだ」

「じゃあ、何で持っていくでガス」

「裏を返せば、なんで俺たちは箱を持って行ってるんだ?」

「そりゃあ、温泉に入るためでしょ?」

 まあ、富美子、風呂に入りたいのはわかるが、オークどもが体を清潔にって考えるとは思えないぞ。

「まさか、ゼノもわたくしたちと同じ目的で?」

「おそらくな。ゼノも『氷の精霊』箱を『封印の壺』に対して使うつもりなんだ」

「そんなことになったら大変でガス。『氷の精霊』と『封印の壺』の炎の力の両方を扱うことができるでガス」

 ゴスが真っ青になっている。

「だから、奴が力を手にするまでに俺たちが手を打たないとならないってことだ」

「わかりました。すぐにベルベル山に向かいましょう」

「そんなこと言われても真っ暗だよぉ。全然見えない」

「暗闇は俺たちには目が見えないからとにかく周りが見えるまで待とう。日が昇る前に行動開始だ」

 俺たちは朝までとりあえず休むことにした。チョコに番を頼み、俺たちは少しの時間寝袋に入る。

 俺は緊張して眠れなかったが、しっかり寝ている富美子は大したものだ。ひょっとして俺以上の大物かも。

 何はともあれ体は休める時には休んでおかないと、と思い俺は寝袋の中でまどろんでいた。


 翌朝早く、朝食を軽く食べると俺たちは出発の準備を整えた。

「ベルベル山のほこらはあと少しです。おそらくオークたちが待ち構えていると思います」

「オークの群れを相手にするには箱がないと苦しい。何かアイデアはないかな」

「吾輩が奴らを挑発してやる。連中がいなくなったところでお前ら片をつけろ」

 まあ、それくらいしかないか。奴らなら裏切り者のスクラブに一斉に襲い掛かるからスキができるだろうし。

「問題はゼノの行動だな。奴がどんな手を使うか、ちょっと相手の手が見えない」

「オークの王がいくら頭がよいとしても、精霊をまともに扱えるとは思えません。長老ほどの魔力もないでしょうから、二つの精霊を同時に開放するのは無理です」

「じゃあ、どうなるの?」

「おそらくは力を手にしようとして逆に精霊の怒りを買うハメになるかもしれません。十分注意してください」

 俺たちはメリットの警告を心に留め、ベルベル山に向かって歩き始めた。


 しだいに火山岩のごつごつした岩ばかりが大地を覆い、軽石だらけの地面になった。

 地面もじんわり温かい。ここでキャンプをしたら気持ちよさそうだが、いつ噴火するかわからない山のそばでとなるとぞっとする。

「そろそろほこらが見えてくるはずです。十分気をつけて」

 俺たちは慎重に歩を進める。メリットとチョコが周りを確認しながら最大限に警戒しつつ先をうかがった。

 だが、オークどもの姿がない。

「あれ? 何でだ? 箱を手にしたらここに行くんじゃなかったのか?」

「読みが外れたわね」と富美子がニヤニヤしている。

「誰かいます」メリットが鋭く警告する。

 俺たちはあわてて岩の影に隠れる。

「いえ、誰か来たのではありません。奥でオークが倒れているのです」

 メリットの差したところにオークがうつ伏せになっている。

「行ってみましょう」

「大丈夫か? 罠ってことも?」

「体温が下がっています。おそらく死にかけです」

 見ただけで体温までわかるとは、メリット赤外線レーダー完備か。

 倒れているオークに近づく。オークは焼け焦げており、炎をまともに食らった感じだ。

「おい、どうしたんだ?」

「人間どもか。くそっ」

「何があったでガスか?」

「死にたくなけりゃ、今のうちに吐け」

 モンスターたちがオークに話しかけると、うわ言のようにつぶやき始めた。

「ゼノ様がここに近寄るといきなりほこらの洞窟から火の塊が出やがった。周りに火をまき散らし、ゼノ様は体を焼かれて撤退した。俺の体もこのざまだ……」

「ゼノはどこに行ったんだ?」

「さあな」

「肝心なところがわからないでガスね」

「けっ、せいぜいおびえながら死ぬがいい」と言うとこと切れた。


 とりあえず死んだオークをかたずけ、俺たちは岩山の影から様子をうかがいつつ作戦会議だ。

「どうやらゼノは俺たちから箱を奪った後、すぐにここに来たんだな。そして箱の力を使った」

「でも『炎の塊』って言ってたでガスよ。『氷の精霊』箱は効かなかったでガスか?」

「いえ、むしろ効いたからこそ、こうなったのではないでしょうか?」

「どういうことなんだ、メリット?」

 メリットは少し考えて答えた。

「おそらく『炎の壺』の力はほぼ復活しつつあるのでしょう。火山活動の活発化もあって、力をだいぶ取り戻しているはずです。それに対して『万年氷』は持ち運びできるだけの大きさ、この程度では炎の精霊の力を防ぎきることができないのでは?」

「つまりゼノが近寄ったことで炎の精霊が自らの身の危機を感じて先に先制攻撃をくらわせた、と」

「そうでしょうね」

「気をつけて。誰か来たケン」

 チョコが威嚇する。ガチャガチャと音を鳴らしながらオークの群れが現れた。6匹だ。

「おりゃああああっ!」

 スクラブが電光石火の勢いでオークたちを走って攻撃する。最初の攻撃で2匹までが殴り倒される。メリットが魔法で2匹の頭を打ちぬくが、残った2匹があわてて逃げ出す。

「くそっ、このまま逃がしてしまったら吾輩がここにいることが知らされてしまうぞ」

「まずい。俺たちの位置をゼノに知られるわけにはいかない」

「なら、吾輩が後を追ってやる。お前らはそっちで精霊を何とかしろ」

「わかった。気をつけろよ」

 スクラブは親指を立てると、一目散に逃げたオークを追いかけた。

「時間がない。ほこらの洞窟に入るぞ」

 オークたちの群れがここに再び来たら俺たちは挟み撃ちだ。今のうちに何とかしないと。


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