残念な仲間01
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者02
残念な仲間01
空からの輝く光に守られたおかげか、俺たちはゆっくりと地面に着陸した。
富美子も地面に着くやいなや、俺から体を突き飛ばして離れた。
「痛てて、何しやがる!」
「あんななんかと一緒に入れるわけないでしょ!」
俺は砂を服から払い落としつつ立ち上がった。幸いどこにもけがはない。
「そっちが勝手についてきたくせに」
富美子も同じように立ち上がって、俺に文句をつけてきた。
「あの時はああでもしないと、地獄に行くハメになったからよ!」
どこまでも厚かましい女だ。
「で、ここはどこ?」
富美子は周りを見回した。
至る所茶色い岩ばかりの荒野だ。枯れ草がところどころに生えているほかは何もない。
町はおろか、人の影すら見えなかった。
「俺が知るわけないだろ! 確かあの女悪魔は『異世界アードアル』とか言ってたような…」
「そ、そんなことより、あれ!」
何だよ、そっちが振ったんだろ、っというつっこみを俺は言うことができなかった。
なぜなら、怪物の群れが岩場の影からさっそく現れたからだ。
姿形は人間に似てるが、筋肉質の体で醜い豚顔のモンスターだ。
RPGやファンタジーアニメを見ている俺にはすぐ見当がついた。
あいつらはオークだ。
それも一匹や二匹でない。
「何よ、あいつら。豚じゃない。しかも、9、10、たくさんいる!」
「幼稚園の数え方かよ。とにかく隠れよう!」
「いちいち命令しないでよね!」
俺たちは近くの茂みにもぐり込んだ。そこから油断なく辺りを見渡す。
「しかし、何でこんなとこに落ちるんだよ。これがラノベかゲームなら初心者用の冒険者の町とかにワープさせられて、冒険が始まるってのが定番だろうに。クソゲーかよ」
「あんたが何の事言ってんのか、全然わからないんだけど?」
「あ、ああ、気にしないでくれ。お約束展開って事だけじゃないのは間違いないから」
だいたいこんな子が付いてくるって事からも、クソゲー展開は明らかだろう。
「これっていったいどうなってンのよ!?」
「シィー」
俺は場違いに大声で話をしている富美子をジェスチャーで黙らせる。これ以上しゃべっていると、間違いなく見つかるだろうに。
しばらく観察していると、状況が呑み込めてきた。
どうやら、オークどもはどうやらゴブリンたちとこの荒野で戦っているらしい。
「ゴブリンとか言っているけど、どんな連中なのよ?」
「ああ、ファンタジーでよく出てくる醜い鬼たちだよ。子供みたいに小さいけど、狡猾であなどれないやつらだ。強くはないらしいけど、俺たちにとっては強敵だな。油断できないよ」
「ふーん、そういう本ばかり読んでるせいか、無駄に知識はあるのね」
腹立つほめ方だなあ。
互いにオークどもが罵り合う耳障りな声が聞こえてくる。
「今、気づいたけど、言葉がちゃんとわかるんだな」
「あんなヘンテコな連中の会話なんか聞きたくもないのに」
俺たちは耳をすましたが、その内容はただの悪口ばかりで、聞くに耐えないものだった。
「何よこれ? 『お前の母ちゃん出べそ』って、今時子供でも言わないわよ」
「それだけ低レベルな戦いってことだろ」
しだいに下ネタになってきたので、富美子の顔が真っ赤になっていく。
「お、おしりにそ、そんなことなんて……、な、な、な……」
ぶるぶる震えながらつぶやいた。
「おい、今なんか声がしなかったか?!」
近くにいたオークが怒鳴った。
(おい、こっち見てるわよ。変な声出すから)
(しかたないじゃない。あんなこと言うんだからぁ)
富美子が小声で責め立て、ギロリと俺をにらんだ。
オークどもは周りを見回し始めた。
「気のせいじゃないのか、このうすらとんかち」
「うるせい! このでくのボー、俺は物音には敏感なんだよ。しかも、今聞こえたのは間違いなく女の声だ」
「女? こんなところに女がいるのか?」
オークどもは周りを見回している。
(ああー、もうダメ)
となりを見ると、富美子がお腹を押さえている。
(な、なんだよ?)
(緊張してたらトイレ行きたくなってきた)
(あ、アホかあーーーーっ! こんなときに我慢しろっ!)
(も、もう無理ぃーーーーっ!)
ガタンと立ち上がったかと思うと、富美子はダダダッと走り去ってしまった。
後に残されたのは、呆気にとられた俺ただ一人。
「こんなところに人間がいたぞぉ!」
「捕まえろぉ!」
「あ、あのバカ、じょ、冗談じゃねえぞ!」
俺はあわてて逃げ出した。
「待ちやがれえええええーーー」
オークどもの怒鳴り声が後ろから響きわたり、俺は死に物狂いで富美子の走り去った反対の方向へ逃げ出した。
とにかく息が切れるまで走り、ようやく後ろに誰もいなくなったことを確認する。
俺は近くにある茂みにまたもぐり込んだ。
どうやら、連中は俺よりも富美子の方を優先したらしい。俺の方についてきた奴らは一匹だったので、振りきることができた。
「気の毒だが、ある意味自業自得だよな」
隠れているときにトイレ行きたいなんて、無茶にもほどがある。あれじゃ、足手まといは目に見えているし。
「探してやりたいけど、この状況じゃなあ。無事を祈るしかないか。成仏してくれよ、なむー」
両手を合わせて拝んでいる俺の横から声がした。
「おい」
「へっ?」
俺の真後にゴブリンが立っていた。
「怪しい奴だ。さてはお前、オークか」
「俺はオークなんかじゃねえ。人間だよ!」
「そのわりには、不細工な顔をしている。やはりお前オークだろう?」
「あの連中と一緒にするなああ!!」
悪かったのお、顔が不細工で。
「とにかく、お前怪しい。俺たちのアジトへ来てもらうぞ」
すでに後ろにはゴブリンたちが、俺を今にも攻撃しようとやりを突きつけている。
行くしかないか……。
俺は抵抗せず、素直にゴブリンどもの誘導に従った。
しばらく歩かされた先に、洞窟が見えてきた。中は薄暗くて何も見えない。
後ろから軽くやりでつつかれて、否応なしに俺は洞窟内部に足を踏み入れた。
目が慣れてくると、中が次第に見えてきた。自然の洞窟に手を加えたもので、つたない手彫りで中を広げているようだ。
「入れ!」
さんざん歩かされたあげく、俺は鉄格子のついた部屋に押し込められた。
ゴブリンどもはカギを掛けて出ていった。あたりには誰もいないようだ。
「おーい、誰かいないかあーーーー?」
俺は鉄格子をつかんで大声で外に向けて怒鳴ったが、何の物音もしない。
どうやら他の連中は戦いでそれどころじゃないらしい。
「これじゃお手上げか……」
俺は仕方なく床に寝そべった。この世界に転移してから、全くいいことなんかない。最悪と言っていい展開だ。
「何だよぉ、これは! 異世界に来たってのに、何で無双とかご都合小説展開じゃないんだよぉ」
俺の声だけが牢屋に空しく響く。
「そう言えば、富美子はどうなったんだろうなあ?」
俺はいなくなったわがまま女に少しだけ、ほんの少しだけ気遣った。
やることもないので、何気なく俺は寝返りを打つ。
「それにしてもこんな牢屋の中で一人っきりかって、えええっ!」
金髪の女性が隅の角にぽつんと座っていた。