桜の季節~セーラー服のスカーフ~
4月。通学路の坂をあるく。道の両側には満開の桜。立派な桜並木だ。まわりには始めてみる顔の学生服に身を包んだ人たち。
静岡の中学を卒業して親の仕事の都合で愛媛に越してきた。学校なんてどこでもよかった。別に仲のいい友達がいたわけでもないし、こだわりなんてなかった。
緩やかな坂はまだ続く。風がながれる。桜の花びらが風にのって舞っていく。回りはみんな友達や恋人と一緒に登校してきている。始めてみる僕の顔をチラっとみるひとも少なくない。人に見られるのが得意ではないので少し落ち着かない。早足になる。
「わあっ」
「きゃっ!」
早足になった僕は前方にきを向けておらず人にぶつかってしまった。「すいません!」ふと前を見ると1人のセーラー服の女子生徒がたっていた。胸のところにおなじ高校の校章がある。
「私の方こそごめんなさい。大丈夫ですか?」
頬を桜の花びらのようなピンク色に染めたその彼女は謝った。「ぼくの不注意なので...謝らなくて大丈夫ですよ。」顔を見れても目を合わせられない。ふと、その女子生徒のセーラー服のスカーフがほどけていることに気づいた。こういうことって伝えてあげた方がいいのだろうか...?
「ここ、ほどけてますよ。」
自分の胸元を指差して彼女に伝えると、今度は頬を桜色から、さくらんぼみたいに赤らめた。やっぱ言わない方がよかったかな?
「あっ、ありがとうございますっっ!!」
彼女はあわてて直そうとしたが、どうもうまくいっていない。助けるべきか、助けまいべきか?
「やりましょうか?」
こんなこといっていいのかわからないが、困っているんだし仕方ないだろう。やっぱり変に思われるかな?
「えっ.....」
困らせてしまった。
「あっいや、おねがいしてもいいですか?」
「はい。」
僕は手先は器用な方だ。妹が朝寝ぼけているとき、代わりに僕が妹のセーラー服のスカーフを結んでいたので慣れている。きゅっと結び終わると、彼女は「ありがとうございますっ!」
彼女はニコッと笑った。
僕は彼女の目を見た。
「えっ...?」
さっきまでいたはずの彼女は僕が目を見たとたんすぅっと消えていった。桜の花びらが風にのって行くように。
彼女の目を見たとき一瞬彼女が妹に見えた。しかも髪の毛にはぼくの妹のお気に入りだったサクラのピン止めがついていた。
「桜...。」
一年前に交通事故で亡くなった妹の名前を僕は口に出した。学校で孤立していた僕を桜はいつもきにかけて励ましてくれていた。
「結樹お兄ちゃん、がんばれっ!」
桜の花びらをのせた風といっしょにあいつの声がした。そんな気がした。僕はまた学校に向かって歩き出す。