異世界転生~まぁ現実はこんなもんさ~
短いですが。どうぞ。
「日が暮れるまでには帰りなさいよ!」
「は~い。」
母親からの注意に気のない返事をしながら、一人の少年は革のブーツを手に取った。
特徴的であろう黒い髪に黒い瞳、今年で6歳になる彼の名前はウィル。
前世の名前は『影月 亮』という高校生の日本人で、その人格、記憶をそのまま持っている。
日本から転生して6年。異世界の言葉などわからず、文化も違う中に生まれたがようやく慣れてきた。
そして、現実の厳しさにも。
「よっし。」
ブーツの革ひもをしっかり結ぶと、村の裏手にある森へと向かう。
家を出ると夕方ながらも春のぽかぽかとした陽気が感じられた。手斧を持ちながら歩いていくと、長老が才能のある2、3人を集めて『魔法』を教えているのを見かけた。
「個々の魔力はその精霊様が―――」
また小難しい話をしている。ウィルはそう思った。
この世界には、日本にはなかった『魔法』や『才能』、『ステータス』といったものがある。
炎、水、風、地の主要4属性に光、闇、無、聖の希少な4属性。ウィルも最初は期待したし、転生者だから何か特別な力があるのか、とも思った。
あいにくその才能に恵まれなかったし、両親もそうだった。
最低3つは持っていないと、こんな農村からは抜けてでれない。
考え事をしながら、ウィルは村を出て森へと向かった。
村の外にある畑を見ながら、早足で進んでいく。
「あぁ、腹減ったなぁ・・・。」
独り言が青空へと溶けていく。税の取り立てで、ぎりぎりの食料しか家には残っていない。しょうがないことだとは思いながらも、
「はあ・・・。」
ため息が出た。
この世界にある国のほとんどは、中世の欧米のような身分制度で民衆を治めている。
とはいっても、そんなに重税でもないし、無茶なことはされない。それは、領主が代々世襲制で領地を治めているというのが大きいだろう。
悪政をしけば、農民に一揆を起こされ、鎮圧の為に私兵を雇わなければいけなくなる。
だからまあ飢饉とか以外で餓死することはない。
それでも、毎日の食事がぎりぎりになってしまうのだが。
「生きぬよう殺さぬよう」と昔の偉い人も言っている。
「ようやく着いた・・・。」
時々、途中に生えている草で空腹を騙し騙ししながら、森へに到着した。
「ん?何かが・・・?」
いつもなら聞こえるはずの小鳥のさえずりや、野犬の吠える声が聞こえない。
それに、嫌な雰囲気の空気が森を覆っている。
ウィルは立ち止まると、辺りをキョロキョロと不安そうに見回した。
「何かがいる・・・?」
剣と魔法のファンタジー世界だけあってここには魔物と呼ばれるものが存在する。
危険度で低い順にF・E・D・C・B・A・Sと分かれている。しかしこんな森の浅いところには出てこないはずだ。
普通はダンジョンや、 森の深くにすんでいる。
ウィルは、自分を納得させようとした。
「うん、そうだよな。こんなところに魔物な「グギャギャギャ!」・・・え?」
ウィルの背後から明らかに人間ではない生き物の声がする。
背筋に悪寒が走る。『ゴブリン』。話にはきいた事はあるが、よりによってこの森に――――
ウィルは後ろを振り向かず、走り出した。
「はぁっ、はぁっ!」
「グーギャ!グギャグギャ!」
息切れがする。
只でさえ身体能力が低い子供の体では、最弱の魔物と呼ばれるゴブリンであっても脅威となる。
後ろからゴブリンの愉悦を含んだ鳴き声が聞こえてくる。
捕まえられて思っているのだろう。
「皆に伝えなきゃ!」
普通、こんな村の近くに魔物が来ているなんてことははあり得ない。
村には家族や、友達もいる。
やるしかない。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」
彼はUターンすると、ゴブリンに向かって走り出した。
「ぐぎゃ?!」
足がゴブリンの腹部へとあたる。その衝撃でゴブリンはバランスを崩し、こけた。
「がああぁぁぁぁ!」
木の幹へと強かに打ち付けられたゴブリンは怒りで声をあげた。
ウィルはその隙にゴブリンが持っていた短剣を拾い上げた。
「はあぁつ!」
起き上がっている途中のゴブリンを短剣で刺す。
防ごうとするゴブリンの腕の隙間に腕を差し込み、ゴブリンの心臓へと突き刺す。
ズブリっと、剣が肉に刺さる感触がつたわってくる。
「がぁ!」
ゴブリンは一声鳴くと、血を吹き出しながら倒れた。
ウィルは束の間の勝利の余韻を味わった。
「はぁっ、やった!やったぞ!早くみんなに」
彼はそこで、言葉が止まった。絶望だった。今彼のおかれている状況を表すのにはピッタリの言葉だ。
目の前には20匹以上のゴブリン、後ろにもいつの間にかまわられている。
ゴブリンは群れで動く。彼はその基本的な知識を忘れていた。
「グガガ!」
ゴブリン達がウィルに襲いかかる。
*************
「クソっ!負けちまったよ~。やっぱ転生者は適当に選んだら敗けだなぁ。」
「ははははっ!異世界転移の方が元手はかかるが、強いからな!」
どこかでの会話。白い服に背中から生えた翼。
『神』。そう彼らを人は呼ぶ。救いを授け、人を導く存在だと呼び、褒め称える。
人は知らなかった。彼らにとって、人は遊びの駒でしかないのだと。
ある少年は村へ魔物の危機を知らせる前に死んだ。
彼の村は魔物に襲われ、壊滅状態に陥った。
「それもまた一興さ!」
心から面白ろそうに神々は笑う。人々の信仰を受けながら。
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