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第二話 リアルとオンライン

 ジークリッド君とミコトさんの二人とパーティを組むようになって、私はエターナル・マギアの攻略をとんとん拍子で進めていった。


 『村人』だけど、ジークリッド君は『恵体』と武器マスタリーの値がものすごく高くて、私のキャラの魔法で出せないようなダメージを、武器技で次々に叩き出す。魔術のスキルも一部取っていて、武器の効かない敵に対しても一人で対処できるほどだった。


 そんな彼よりも戦闘においては引けを取らず、サービスが始まったばかりなのにトップレベルの強さを持っているのが、『シノビ』のミコトさんだった。彼女は敵の攻撃をすべて回避して、クリティカルで防御を無視してダメージを与えられる。


 けれど二人は自分のステータスを強化バフしたり、敵のステータスを弱体化デバフする専門ではないので、私の覚えたてのスキルでも役に立った。


 今日は法術士の上級クエストを、二人に同行してもらっている。『カルネージウルフ』という強力な獣型モンスターを倒すのがクエストの目的で、適正レベルの法術士一人ではほぼ不可能に近い難易度と言われていたが――ジークリッド君は、私の想像もつかない方法で攻略してしまった。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:あ、カルネージウルフですけど

・ジークリッド:条件を満たすと仲間にできるんで、ペットにしました

・ミコト:本当ですの!?

・ミコト:ああ、モフモフしていてとっても愛らしいですわ(#^^#)

・麻呂眉:ペットっていうことは、その狼も仲間になったのかな?

・ジークリッド:連れて歩けますよ

・ジークリッド:ペット屋に行って

・ジークリッド:麻呂眉さんに主人を変えましょうか


(えっ……い、いいの? 法術士のクエストじゃないと出ないから、レアなボスモンスターのはずなのに……)


 ジークリッド君がどうやって仲間にしたのかも気になったけれど、それ以上に、そんなことまでしてもらっていいのかと遠慮してしまう。


 前のゲームでは、女の子のキャラクターが可愛かったからだと思うけれど、数えきれないくらい声をかけられた。ジークリッド君のことをそういう目で見てはいけないと思うけど、いきなりプレゼントをされるとなると、急に慎重になってしまう。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:それとも経験値になるんで、倒しちゃいますか

・ミコト:ああっ、そんな、かわいそうですわ

・ミコト:テイムしたモンスターを攻撃するなんて、おにちくですわ

・ジークリッド:おにちくですかね

・ジークリッド:まあ、俺もやったことはないですけど


 二人の会話を見ているうちに、私の中の迷いが薄れていく。


 この二人は、純粋にゲームを楽しんでいる。ジークリッド君を疑うようなことは、今は絶対考えないでおこうと思った。


 ◆ログ◆

・麻呂眉:小生になついてくれるかわからないけれど

・麻呂眉:ジークリッド君がよかったら、その子をペットにしたいな

・ジークリッド:了解です

・ミコト:では、皇都へのポタを開きますわ

・ミコト:麻呂眉さん、クエストは進行してますわよね?

・麻呂眉:うん、『カルネージウルフを捕獲した』になっているよ

・麻呂眉:あとは法術士ギルドに報告してクリアだね

・ジークリッド:うい

・ジークリッド:それじゃ戻りますか


 ミコトさんが『ポータル』を開く。これは設定した場所に一瞬して移動できる門で、巻物を使えばいつでも作ることができる。


 かなりの貴重品だけど、二人は必要なものだからと言って100本単位で倉庫にスタックしている。気軽に使っているから最初は安いアイテムなのかと思っていたけど、実際に自分で買おうとしてみてびっくりした。


 この二人は、ベータテストからプレイしていた人たちの中でもトップのグループにいる。そんな人たちが、口をそろえて言うのだ。


「ずっと野良でやってたんで、固定パーティ組めて嬉しいです」


「ソロでやり込んだあとでも、パーティプレイのすべてが新鮮で楽しいですわ」


 普通なら、MMORPGのほとんどはパーティで攻略することが前提なのに、ジークリッド君とミコトさんは、パーティを組まなければならないクエスト以外をすべてソロで攻略していた。


 ジーク君は今のように魔物を仲間にできるので、それを考えると純然たる単身プレイではなくて、魔物使いのようなプレイをしてきたのだと思う。たまに連れているレベルの高いモンスターたちはどれも、驚くほど高いステータスを持っていて、へたなPCよりずっと強かった。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:麻呂眉さんもこれでスキル50になりますね

・ジークリッド:エンチャントウェポンっていうスキルがあるんですけど

・麻呂眉:うん、素材は用意したよ

・麻呂眉:火炎、凍結、雷撃と一通り属性付与エンチャントできるよ

・ミコト:私もぜひお願いしたいですわ

・ミコト:忍術よりもエンチャで鎧抜きしたほうが強いんですの

・ジークリッド:あ、じゃあ素材俺余ってるんで

・ジークリッド:麻呂眉さん50ずつ持っててもらっていいですか


 こんなふうに、普通なら信じられないと思ってしまうようなことを、ジーク君は普通に言う。


 彼は「廃人エリート」と呼ばれるようなプレイヤーだけれど、それだけゲームを楽しんでいるということだし、私もそれだけのめり込む理由を理解し始めていた。


 最先端のグラフィックとは言えないけれど、専用のエンジンで描画される画面は見ているだけで飽きないほどきれいで、ひとつひとつの町やフィールドもよく作り込まれている。クエストを依頼してくるNPCキャラも人工知能に基づいて行動していて、一部はゲームらしく戦いを挑むことはできないけれど、毎回話しかけたときの対応が違ったり、NPC同士の関係性が変化していたりもするのである。


 このゲームはMMORPGの姿をした、箱庭ゲームだともいえる。スキルの取り方次第ではモンスターと戦わず、農業や漁業を営んだりすることもできる。


 どうやってそれだけ多くの人工知能を処理しているのか――量子コンピューターがゲームサーバーの演算処理用に導入されているのではと言われるほどで、エターナル・マギアは普通のゲームだと切り捨てられる部分に力を入れているが、だがそれがいいと言われていた。


 私は冒険者としてこのゲームを楽しもうと思っていて、ジーク君とミコトさんも戦闘の面白さではまったと言っている。プレイヤースキルはそれほど高くないけれど、二人と冒険しているうちに左手でショートカットキーを触り、右手でマウスを操作することには慣れてきた。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:じゃあそろそろ、麻呂眉さんもレベル30なので

・ジークリッド:キャップ解放クエをやりましょう

・ミコト:了解ですわ

・麻呂眉:あ、ごめん

・麻呂眉:ちょっと友達から電話がかかってきたから、少し待っててくれるかな

・ジークリッド:うい

・ミコト:ではアイテムの整理をしてきますわ


 私はこうして、リアルの用件で離席することがたびたびあるけれど、二人はそういうことがほとんどない。


 プレイ時間を聞いても、学校や会社に通いながらできるプレイ時間では全然なかった。二人の口調や話題を聞いていると、私より年下のように感じるけれど、リアルでどんな人たちなのかははっきりしたことは分からない。


『まゆ、彼氏の友達がメアド教えてって言ってるんだけどどうする? 大学始まっちゃうと忙しくなるし、って言っとこうか』


「あ、うん。そうしてもらえると助かるかな」


『まゆって全然彼氏とか作んないよね。あ、もしかして意外に家が厳しいとか?』


「そんなでもないよ」


 父は会社の役員で、母も自分の会社を持っていて、家にはほとんどいない。私には『これ以上の偏差値の大学でないと進学は許さない』と言いつけたくらいで、特に厳しい締め付けはない。


 そういう話を中学のとき友達にしたら、「お嬢様も大変なんだね」と言われたことがある。だから私は、知人に家の事情を話すことはなくなった。


 姉は両親の言うことを忠実に聞いていたけれど、結婚相手まで親に決められて、それに従った。姉が幸せそうで私は安心したけど、それでも時々考えることはある。


 父も母も、自分が考えている枠の中に私がおさまってくれたらそれでいいと思っている。自分の仕事が楽しくて仕方がないから、私たちという子供は、夫婦ならば必要だからというだけで作っただけなのだ。


『春休み終わる前に一回買い物行こうよ。彼氏と約束してたのにすっぽかされちゃってさー、ほんとあいつなんなの』


「あ、えっと……ごめん、私春休みが終わるまでにやらなきゃいけないことがあって」


『え、そうなの? それじゃ妹でも連れて行こうかな。最近一緒に出るとおごってってうるさくなっちゃってさー、中学でなになにが流行ってるとかゆって……』


 友達の話を聞きながら、私は思った。現実には、いろいろ大変なことがいっぱいだ。


 私も春休みが終われば、大学に行かないといけない。


 それでもジーク君たちが、二人そろって毎日ログインし続けたら――ずっと仲間でいさせてもらえるのか、そのことをすごく気にしていた。


 ◆◇◆


 法術士のスキル上限開放をしたあと、レベルキャップ解放のためにオークキングを倒しに向かう途中で、私は二人にそのことを聞いてみた。


 一時的にパーティを組んだだけなので、春休みが終わったら解散――そう言われることも覚悟していたけれど、違っていた。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:あ、俺ならいつでもいるので

・ジークリッド:パーティ組んだままでお願いしたいです

・ミコト:麻呂眉さんが入るまでは

・ミコト:もともと単独行動が多かったですから

・ミコト:麻呂眉さんが来たときだけ、パーティで行動するのもいいと思いますわ


 この二人も付き合いは長いらしいのに、ソロプレイヤーとしてのこだわりがあるみたいで、ログインしていても常に一緒に行動しているわけではなかった。


 けれど、こんな言い方をされると、私が3人の間をつないでいるみたいで照れてしまう。私は二人に手伝ってもらってばかりなのに。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:レベル高くなって抜けたくなっちゃったとか

・ジークリッド:麻呂眉さんはそんなこと言わないですよね?

・ミコト:そんなはずがありませんわ

・ミコト:まさかあの麻呂眉さんが、そんなことをおっしゃるわけが

・ミコト:ありませんわよね?


 私は二人にレベルが追いつけなくなるとか、ログイン時間が少なくなることを引け目に感じていた。


 考えてみれば私のレベルは二人よりずっと低いままで、今も二人の後ろを追い続けている。攻略に徹するなら、二人は別のパーティを組んでいたはずなのに。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:麻呂眉さんがインしてないときに

・ジークリッド:さくさく進めるように準備しておくので

・ジークリッド:勉強は勉強で頑張ってください

・ジークリット:おまえが言うなって感じですみません

・ミコト:私も人のことは言えませんけれど

・ミコト:リアルはリアルで大事ですものね


 そのチャットログを見ているうちに、私は少しだけ、二人がどんな生活を送っているのかを垣間見た気がした。


 昔ゲームをしているときは、ニートになってまでゲームにのめりこんではいけないと思っていた。

 

 以前プレイしていたMMOでも、時間を忘れるほど打ち込んでしまって、成績に支障が出そうになったことがあって、そのときに親にすごく怒られたことがあった。成績の報告をメールでするのが決まりになっていて、総合点が30点ほど下がってしまったから。


 それからゲームにはまりすぎないように注意してきた。けれどこのゲームは、今までとは何かが違っていて――理屈を超えて、心をつかまれてしまった。


 ジーク君と、ミコトさんのように一日中ログインしていたい。大学が始まっても、私はその誘惑に勝てないような気がした。


 でも、私は親の期待に応えなければいけない。成績の報告メールも続けなければいけないし、評価すべてAでなくてはいけない。苦手な科目であっても関係なく。


(そのままだと、お姉ちゃんと同じことになるかもしれないのに?)


 考えながら、私は思う。二人には二人の事情があって、私は自分のそれをゲームに持ち込んではいけない。


 ◆ログ◆

・麻呂眉:ありがとう

・麻呂眉:これからも続けていきたいから、よろしく頼むよ

・麻呂眉:ミコトさんに、色んなコスプレ装備を着てもらいたいからね

・ジークリッド:お いいですね

・ミコト:そんなことを考えていましたの?

・ミコト:では、現在できるコスを一つお見せしますわ


 ミコトさんのキャラが、趣味装備の割烹着に変わる。私はそれを見てほっこりとした気持ちになりながら、どんな感想を書けば笑ってもらえるだろうかと考える。


 ◆ログ◆

・ジークリッド:割烹着ってスーパーユニークですよね

・ジークリッド:俺も三角巾もってますよ セットで装備してくれますか

・ミコト:持っていたんですの? 私も3日粘りましたけど、落ちませんでしたわよ

・ジークリッド:泥率アップの装備を先に揃えた方がいいですよ

・ミコト:オカルトみたいな効果だと思っていましたけど、意味がありましたのね

・ジークリッド:0.01%変わるだけでも全然違いますよ


 この二人のようにプレイすることはできないけれど、私は私なりに、パーティの一員としてこのゲームを続けていきたい。そう思いながら、私たちはオークの砦の一番奥にいるオークキングを見つけ、戦闘を開始した。


 ◆ログ◆

・《麻呂眉》は『スロウミスト』を詠唱した! 《オークキング》は遅くなった。

・《ジークリッド》は『パリィ』を成功させた! スーパーカウンター!

・《ミコト》の攻撃! クリティカルヒット! 《オークキング》に834ダメージ!

・《オークキング》は『汚い悲鳴』をあげた! 《ミコト》はオークに弱くなった。

・ミコト:ああ、やってしまいましたわ

・ミコト:オークを100体狩ると治りますから、お付き合いくださいませ

・ジークリッド:おkです 女性キャラってオークに弱いんですね

・麻呂眉:オークに弱い(意味深)

・ミコト:意味深? どういうことですの?


(ミコトさんは、ネットの話題には疎いのかな。女騎士とか、くっころとかを知らない純粋な人を染めていくのも楽しいものだね)



 私は次第に、男性キャラの「麻呂眉」になりきってゲームをプレイし始めていた。


 そのとき、少しだけ思ったこと――ミコトさんはネットに疎いというより、私よりすごく年下で、そういう話題を目にすることがなかったのではないか、と考えたけれど。


 私がミコトさんの中の人がまだその当時10歳だったということを知るのは、それから二年が経ち、私が大学二年の終わりを迎えるころのことだった。


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