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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
夏の硝子
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吸血教授の課外授業

――今夜、必要になる。

「服とか下着とか衛生用品もそろったことだし、帰ろっか?」

 荷物という荷物を一番体力のない剛志に押し付けて、魔女はにっこり微笑んだ。殺す気だ。

 もう日は落ちているから、ユングのリクエスト通りバンバンジーを作る。

 この料理は本来ゆでた鶏肉ときゅうりをゴマダレで食べるものだが、コルヌタでは鶏肉の代わりにワイバーン、きゅうりの代わりにボススプラウト♂の下半身についている突起を使う。

 きゅうりも栽培できると言えばできるのだが、消化するために使うエネルギーが消化吸収して得られるエネルギーを上回るようなダイエット食材はサバイバル上等な辺境では好まれない。しかも栽培の手間がかかる。

 その点ボススプラウトなら栄養価も高いし、麻酔をかがせて動けなくした後でもげるだけもいで放置しておけば一日でまた生えてくるのだ。

 ゴマダレはゴマダレである。

 と、ここまでの説明をしたところで剛志が真っ青になったが、彼が想像しているようないかがわしい要素はない。

 下半身についている突起。確かに生殖器ではあるが、彼らは交配の際この部分を切り取って相手に与えるという方法をとるのでもげるものなのだ。

 もちろん相手も魔族の範囲には入らないものの知性のそこそこある魔物、嫌がることもあるので麻酔である。

 それに、何だか人間にも見えなくもない何かの腰の両脇にバナナの房のようなものがついている、というのがこの魔物の見た目だ。腰の両脇にあるバナナの房のようなものがきゅうりの代用品。もいだって何の問題もない。

「はーいできたよー。今度は剛志のご飯もあるから心配しないでねー」

 ないのだが。

「なんかヤダ……ヤダよぅ、これ……」

 剛志はどうして濁った涙を溜めてふるふる小刻みに震えているのだろう?せっかく餌を用意したのに。ユングは気にも留めずパクパクと口に運んでいる。イルマもなくなったら大変と手と口を動かす。

 うまい。ワイバーンの繊維感のある肉は噛むたびに濃く、しかししつこくない肉汁を提供してくる。ボススプラウトからもいだアレは植物らしい青臭さが低減され、爽やかな風味の中にこりこりとした食感が華を加える。

「おいしいー!」

 どうにか食べ終えた剛志が立ち直るより前に、イルマとユングは再び魔導師の制服、長い上着とマントを身に着けた。さらに立ち直っていない剛志を引きずって、電車に乗った。

「え、えと、イルマさん?」

 剛志が立ち直った時には、電車も降りて真っ暗な夜の大学を歩いていたのである。

「実はねえ、お昼の後留守電に気付いてね。知り合いが君に興味があるそうで、依頼をしてたんだ。受けたっていう連絡だけして、今来てる。今回の報酬は……じゃかじゃっ!なんと1ギデン37カウロ!破格だよ!」

 注、25万1850円程度。

 じゃっじゃっと足元の白っぽい砂利が湿っぽい音で鳴った。長いこと降り続いた雨で、砂利が水を吸っているのだ。

 中心の時計台に向けて歩いているらしい。大学の構内の様子も日本の大学に似ている。報酬、たぶん高いんだろうなということしか剛志にはわからない。

「イルマさんってば……何で夜なんでしょうか……」

「そりゃあ、ブラムさんが昼間に出てくるわけないじゃん」

 大学の時計塔の前に、ひらりと人影が舞い降りた。

「久しぶりぃ」

 銀髪の美青年である。イルマから見ても美形だ。血のように赤い瞳が舐めるように三人を見る。眠そうに小さく欠伸をする口の中には、鋭い牙が四つ。

「ニンニクその他臭いの強いものは口にしていないようだね」

「うん、前食べて行ったら消臭剤の雨が降ったからね。懲りたよ」

 逆に言えばそれ以外の歯はない。どうやってはきはき喋っているのか疑問が止まらないが、眠そうなほかはきわめて明朗快活に受け答えをしている。

 あと寝癖が元気に跳ねて……跳ねまわっているが誰も何もツッコまない。ここまで来て、その服装は襟元が歪んだくたくたのスーツに薄汚れた白衣だが、それにも何もツッコんではならない。

 何を隠そう、彼こそが魔族たちに長老とあだ名される最高齢の吸血鬼、ブラム・ストーカーなのだから!

「さあて、君が異世界から来た子なんだって?ぜひ採血と味見をさせていただきたいな……研究のためにも」

 今は国立大学の教授として、生物学を教える傍らある研究に没頭している。歴史は教えていない。なにせ、日中に活動できないのだ。引きこもりのような生活をするしかあるまい。

 魔導師たちの夜はまだまだ続く。

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