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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
夏の硝子
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異世界トリップしてきたんだが割と本気で帰りたい

 話が進みます。

 次の日、予定通りイルマとユングに護送されて、剛志は帝都にやってきた。この日も雨だった。梅雨だから仕方ないのだが、否応なしに気分は落ち込む。

 梅雨という季節は剛志が一番嫌いな季節かもしれない。結露する春と夏の間。どちらにもなれないどっちつかずの日々。

――それにしても。

「何でファンタジー世界のはずなのに駅外観から券売機からキップから改札機からホームからホームの売店から電光掲示板から電車まで見慣れたデザインしてんだよ……」

 違う点と言えば行先くらいである。カタカナで聞いたこともない駅名が記されている。これを見る限り帝都はどうやら『首都、ワシントン』のようにそう呼ばれているのではなく『京都、京都』みたいにそれで一つの地名であるらしい。

「乗るよー。快速はこれ逃すともう1時間ないからね」

 乗る人間もファンタジー世界の住人らしく魔法使いルックだが……それはこの二人だけだ。

 あとはジーパンにサングラスでシャカシャカ音楽聞いてる悪そうなお兄さんと、新聞を読んでいる黒スーツのサラリーマンと、電話の向こうに必死で頭を下げている禿げかけたおじさんと、携帯をいじっているセーラー服の女生徒と……といった具合である。

 ごく普通の車内だ。剛志など日本で通っていた学校の制服だが馴染み切っている。むしろイルマとユングが浮きそうだ。

 ほどなく電車は走り出した。がたんごとん、がたんごとん。この走行音も毎日聞いていたものと全く同じ。

 つまらないから窓の外でも見ていよう。窓の外もまた、ビルに、マンションに、民家に、しかも日本の街並みとよく似ていた。

 後ろの方にうっすら山が見えるところとか、ほんとに。雨に霞んでほとんど灰色だ。ファンタジーさん、息してますか?

 今度は電車内の広告を見ることにした。えーとなになに。

 ワカメ村国立博物館にて5月26日から6月14日まで『産業革命展』。実際に使われていた蒸気機関に触れてみよう!とデコイチに酷似した機関車から吹き出し。ポップでキュートな色使いからして子供向けなのだろうか。ハードな趣味の子だな。

 隣にはホラー映画の広告。題名は『エイリアン急襲!2』。どこにでも似たようなホラーあるんだな。しかも2って。

「なんだありゃ、魔法あるのにエイリアン怖いのかよ」

「違うよ」イルマがにやりと笑った。

「それ、エイリアンに科学技術の粋を凝らした爆弾を積めるだけ積んで行きの燃料しか入ってない戦闘機でバンザイアタックする奴だから。一番の見どころは戦士たちが次々爆裂していくバトルシーン」

 製作者側の狂気を感じた。何が面白いんだそれ。年齢制限付けなくていいのかそれ。

「あ!1をおじいちゃんと昔見ましたよ。確か爆裂時、CGのクオリティが低くって、高校の文化祭かよってネットで叩かれてましたっけね」

「うんそれ。でも今はもうCGの技術も進歩してるからましだと思うなあ。地上波で流れたら見るかも」

 見に行かないらしい。3Dらしいがどうでもいいらしい。博物館の広告にも映画の広告にも、下の方に公式ホームページのURLが記載されていた。

 剛志は自分の頬が引き攣るのを感じた。似たような進歩をしたものだ。笑えばいいのかな?

 ふと見ると、網棚の上に見たこともない雑誌が置き忘れられていることに気付いた。ちょっと背伸びをして手に取る。魔法的なことが書いているかもしれない。

 表紙には見たことのない文字が踊っている。おそらく雑誌の名前。やっとファンタジーらしくなってまいりました!

 すぐ下に日本語で『編集』とか『4月号』とか書いてあるのは見えなかったことにする。

 いきなりおっさんのインタビューだった。またしてもダンディだ。黒い肌に白い歯が映える。何々、国家直属魔導師?

『昔から好きなんですよ、これ。そう彼は語った。何が好きかって?そりゃ使い勝手の良さですね。仕事柄、あちこち散らかるので、一度使うと捨てられないものです』

 ほうほう。駆け足に読み飛ばす。結論は何なんだ。

『やっぱり掃除機はトゥルパ・フランクリン社のものが吸引力も軽さもピカイチですよね!しかも細いヘッドもついてくるからこれ一台で――』

 ばさあっ。剛志は無表情で雑誌を閉じた。

――掃除機かーい!

 なんで国家直属魔導師に掃除機の使い心地聞いてるんだこの雑誌は。魔導師もノリノリで答えてるんじゃねえ。もっと他に聞くべきことがあったろうに。

 気を取り直してもう一度開く。特徴的な一文が目に飛び込んできた。

『満足いく死とは何だ?』

 哲学的な話題も扱うのか、この雑誌。そう思ってその上の見出しへ視線を向けた。

『今週の巻末クイズ~抽選で25名様に金一封~』

 なんか力が抜けた。問題が異常に重たいのはいつものことなのか、それとも今回だけなのか。しかも答えが『1から3で答えてね』ときた。解答が決まってるのか、この問題。そうとう難しいと思うけど。選択肢を見てみる。

『1、しそ。2、みそしる。3、豚足。』

 ……わけがわからない。何からツッコんだらいい。まずどういう基準で正解が決まるのかわからない。しそって何だよ……。満足いく死とこの三択に関係性を見いだせない。そもそもこの中に答えはあるのか?

 答えは沈黙って落ちじゃあなかろうな。

「ああ、その雑誌はいつもちょっとずれた話題を載せてるから」

 イルマは何でもないことのように言った。ちょっと?ちょっとなのか?いや、そもそも。

「……ずれてる範囲内なのか?これ」

「えっ?基本的にニッチな生活雑貨を紹介してるんだけど。……カミュさんが載った回だ。インタビューなんか初めて受けたから緊張したって嬉しそうに言ってたなあ。けっこう前のだから、今から応募しても何も当たらないよ」

「何かわかるのか……?」

「みそしるだよ」イルマは意外にも言い切った。死因が味噌汁。ちょっと意味が分からない。

「満足いく死、でしょ?これ問題文には意味ないやつだから。まんそくいくし、って濁点をのぞいて平仮名で全部書くとわかるよ。真ん中の『く』で切り離して、横移動させて重ねるんだ」

 み、ん、しって出て来たでしょ?と首をかしげる。

「そしたら、このみっつができるだけ当てはまるやつを探すんだって。屁理屈だよね」

 前言撤回。案外ファンタジーかもしれない。

 長文タイトル考えてる人ってすごいな、最近そう思いました。

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