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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
夏の硝子
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煉獄のオフィスレディ

 ここまでがここまでだけにどんな題名なんだと思われるかもしれませんが、読んで字のごとく。

 地獄ソロです。

「……あ、いたんだ。えーとほらあれよ。シングルマザー、だっけ?」

 職場のお局さんへの怒りが思索をふっ飛ばした。なりたくてなったんじゃないやい。厭味ったらしくて困る。こいつにこそニーチェを押し付ければよかったのに。

 このあと少し遅れて出勤してきた上官は、給湯室でジールの愚痴を聞かされることになる。

「だからあの可愛らしいちびっこのどこにイライラしているんだ」

「その話はしてません!可愛らしくもありません!今日も朝から年増呼ばわりで!豚呼ばわりで!」

 前までジールは亡者への拷問を行っていたが、今は事務系統の仕事をしている。定時に帰れるからだ。

 そのせいでこの上官との間に噂が立っているなんて思ってもいない。よく二人っきりで話をしているからだが、その内容は基本的に育児相談か愚痴である。

 数日後に「あの二人できちゃった婚になるらしいわよ」とお局様中心に噂がグレードアップする。

「そうカリカリするなよ。反抗期なんだ。いいことを教えてやるから」

「あいつの弱みですか?ぜひ」

「……けっこうえげつないこと考えるな。違うよ。ニーチェは普通の子より成長が早い。そろそろ普通の食事ができるはずだ。そうなれば一気に身体機能も揃うらしい。本人が希望するなら開いている部署に入れたいんだが……ジール?」

 つまり働けるということか。ここらで奴を社会の荒波に放り込むのもいいかもしれない。ふふふ。ジールの体から黒い瘴気が立ち昇る。

「あ、はい、聞いてます。親としては全然オッケーです」

「本人が希望するならって言ったろ。『働かせたい』って言外に言うんじゃない」

「そんなことより、どうしてそんなことがわかるんですか?血液検査とかしたんですか?」

 親が子供の意志をそんなこと呼ばわり。世も末だ。遠い目になりつつも上官は資料を探した。

「これに書いてあるんだ」コピーできないように銀色の光沢のつけてある紙を広げて見せる。

「あいつは言わばデザインベイビーだからな。この設計図を見れば大体どのくらいで成長するかわかる。天使ならともかく鬼だから成長後は寿命とか老化とか気にせずやっていくわけだしな」

 もちろん環境によって左右される部分はあるが、と付け加えて、設計図をそっとしまう。じっくり読ませてはくれないらしい。弱点が分かったかもしれないのに……ジールはぶうたれて仕事に戻った。

 見送った上官は見るでもなく天井を仰ぐ。

「さて、自然のままに、ナチュラルに生まれて来たのでない彼は、我々と宇宙との調停者、コーディネーターとなりうるのかね?」

 ちょっと低いイケメン風ボイスで呟いて、誰にともなくどや顔を決めた。もちろん誰かがその様子を盗撮していたり、ライフルのスコープで覗いて居たりはしない。ちょうどそっちを向いているとかない。目の前には壁があるだけだ。

 しばらく彼はそのままどや顔だったが、静まり返った室内に侵食する雨音にふと表情を戻した。

「そうか、今日は雨だったな」

 雨の日は駄目だ。よくないものが出てくる。プラモの塗装も、痛風も、そしてアレも。

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