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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
梅雨前線
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闇の奥に光る眼

ファンタジーさんが生きてる!スバラシイ!そういう回です。

 ユングが目覚めるのを待たずにしれっと見て来た中層の高エネルギー反応は、どちらも魔力を帯びた水晶だった。こういうのはたまにある。せっかくなのでごっそり採集して、重いのでこっそりユングのカバンに入れておく。

 どこかで巨大なクリスタルを盗掘しようとして、自分がその真下にいたために結晶の下敷きになって死んだ愚か者がいたっけな。

 白目剥いて寝ているうえにおじいちゃんに謝らせるような奴だ、重い荷物は持たせるに限る。

(はあ……戻るか)

 でもなあ、重いんだよこの助手。大きくため息をついたころにユングが目を開けた。だが寝ぼけているのかオニビの膝枕の上から頭を下ろさない。それどころか、抱き着いている。

 わあい何このおいしい展開。これはこれでありなのかも!イルマは腐女子ながらカップリングには寛容なほうである。

「ユ……ユング?」

「おじいちゃあん……大好きだよう」

 思わず来た嬉しい一言にオニビがくすんっと鼻を鳴らす。イルマはどっちが受けでどっちが攻めか必死で妄想しているのだが、安心してほしい。普通の死霊術師からすれば感動の場面のはずだ。

「ユング……俺は」

「一緒にお風呂に入ったりするといつもさっさと上がっちゃってトイレにこもってたりもしたけど、僕を縛って放置してたこともあったけど」

 ユングよ、それはもう一人の方のおじいちゃんだ。早く覚醒しろ。だってオニビさんの顔から笑みが消えたんだよ!あの柔和なオニビさんからだぞ!これが怖くないわけがあるか!

 オニビの顔にもう一度笑みが浮かんだ。貴族を思わせる上品な微笑である。しかし目が笑っていない。イルマは震え上がった。

「ふうん……他には?」

「他には……ええと、赤ちゃんがどこから来るのか聞いたら、はぐらかさずに真面目に答えてくれたし……」

 よし!ユングその路線だ!そのままだ!このままオニビさんをなだめてくれ!

「こうやって膝枕をしてくれたこともあったよね。何だか硬いのがあったけど。あと首筋を一晩中ぺろぺろしてたことがあったっけ……」

 笑みが深くなった。オニビが消えようとする。

「ま、待って!待ってよオニビさん!そのモードはしばらく戻ってこないやつでしょ!?頼むよ!」

「止めないでくれ、俺はあいつを一発殴らないと気が済まない。一発や二発殴ったところで気は済まないが殴らねばならない。殴らにゃなんないだ」

 方言まで出て結局気が済まないんじゃん!一発殴って気が済んでないじゃん!

「後でいいじゃん!お願い!お仕事まだ終わってないんだよ!だって正直ユングが足手まといなんだよ!」

「確かにユングは足手まといだね……でも俺はあいつを電気椅子に座らせないと」

 足手まといは共通認識だった。わーい。なかーま!だが今はそれどころじゃない!

「オニビさんのチョイスが!火あぶりじゃなくて!電気椅子なところに!尋常じゃない違和感を覚えるけど!お願い!せめてお仕事終わるまで!」

 ぺこぺこと頭を下げてもまだオニビは納得のいかない顔をしている。

 これはあれか、最終兵器土下座リアンを開放するときか。しかしあれは……イルマの躊躇をあざ笑うようにむにゅむにゅとユングが何か呟いて、むっくり起き上がる。

「あれ?僕、どうなってたんですか?えーと、蜂の子が……」

「中層の探索はとっくに終わったよ寝坊助」

 笑っていなかったオニビの目が笑う。

「……仕方ないね。それまでに俺はあいつをどこから焼くかよく考えないと」

 それを聞いてユングは首を傾げた。

「え?あいつっておじいちゃん?おじいちゃんっておじいちゃんに勝てるの?」

「ばーか、生前は負けてやってたのさ」

 色んな意味で初めて見た不敵な笑みを浮かべる祖父に、ユングはきょとんとしているほかなかった。僕が寝ている間に何があったんだろう。

 イルマは別の意味できょとんとしている。主語がおじいちゃんだけで会話が成立した。したらしいが、イルマにはわからない。どれが誰だ?

「さあさ起きた起きた。次は上だよ!」わたわたしながらもユングが立ち上がる。

「地上部の二つだけだね。小さいほうのから当たるよ。これでも一応世界最大級のダンジョンだ、気は抜かないように!以上、質問はあるか!」

「はい先生!バナナはおやつに入りますか!?」

「携帯食料以外認めません!」

 僕もう一回寝たい。今日のユングは涙目が多かった。そんなこともある。

「バナナは先生に入りますか!?」

「お腹が減ってるときは五本入るときもあります!」

 答えるとユングはコレジャナイ感が~とか言っていた。わからん。ここからはまた別の縦穴を利用して反応の近く、遮蔽物を挟んで反対側に出る必要があるので中層の中でも少し下る。

「水位、上がってきましたね……」

「対水の防御を衣服の上に展開しているから濡れはしないとはいえ、冷たいねえ」

 下ったおかげで、膝まで水が上がってきていた。底の方で何か光る川を、ざぶざぶとかき分けて進むような状態である。

 湿度が極めて高い。蒸れる。気温は高くないから飽和水蒸気量は大したことないのだが、保湿されまくりそうだ。

 今光ったのは魚の目かクリスタルか。わからない。ユングがキャッと女の子みたいな悲鳴を上げた。

「先生、なんか今通りました!足元!大きいの!」

「魚だね。」

 死んだような目でイルマは歌うように言った。

「魚って爪とかありましたっけ!?目もやたら多かったし!」

「ヤツメウナギなんじゃない。」

「嘘だああああヤツメウナギの目は最初の二つ以外鰓でしょおおおおあれ全部光ってたあああ」

「気のせいだよ。」

 足元を何かが通ろうとも、危害を及ぼされることがなければ無視することが大切。いや、危害を及ぼすことがほぼないのだが、外見が果てしなく気持ち悪いのでうっかり気にしてしまうと精神的に来るのだ。

 あれらは魔物の一種。サキメウオという。普段は最下層に点在する泉にしか生息しないが、梅雨に繁殖期を迎え、こうして水位が上がると田んぼの浮草のように爆発的に増殖する。

 低級の魔物だが、洞窟に住んでいた魚との交配が進んでいるため寿命があり、孤独相なら梅雨の終わりに生まれ、最下層の泉に数匹ずつが取り残されて成長し、親になって梅雨に死ぬ。

 群体相は一週間ほどの命で、梅雨の間に生殖行動をとり、大量の卵をばらまいて死ぬ。

 死肉食性なので動いているものは襲わない。足さえ止めなければ襲われることはないのだ。止めても彼らが生体電気を感知するのでまずない。

 そしてどちらも体長が一メートル以上あって見た目が気持ち悪い。おいしいらしいけど、食べたいとは思わない。

「気にしちゃダメなんだよ。」

「はひいいいい……」

 やがて目当ての縦穴に来た。滝のように上から水が流れ落ちてくる。ユングを待たせて先に上がる。

 遮蔽物はちゃんとある。反応も動きはない。ロープを片方クリスタルに結び付けて下に下ろす。あとはオニビさんが連れて上がってきてくれるはずだ。

 遅かったが、確かにオニビはユングを抱いて登ってきた。遮蔽物の陰から反応のある地点をそっと確認する。

「……え?」

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