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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
梅雨前線
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奈落の底からIn the sky!

最近やる気が出ません。小説の話ではありません。ご飯を食べるのが面倒です。寝るのもめんどくさいです。毎日が鬱屈としております。

 この仕事は三日間の契約である。その間イルマとユングはラブホテルまがいのビジネスホテルだ。こんな中途半端な都会は宿泊施設がアダルティで困る。一日だらだらしづらい。

 ユングは剣を教えられるからいいがイルマの方はセキショウの降臨を保つ以外の仕事がない。そしてこの仕事はあまりにも退屈だ。

 昔とは違う。今の彼女は召喚自体に大したコストがかからない天国の死者であれば同時に三人は仮人体の状態で喚び出せた。あと一人は形にならなかったが。その気になればセキショウ一人くらい三日間ぶっ続けで降臨させられる。

 もちろん、降臨している状態を保つほうが出したり消したりよりも燃費がいいのもあるが、世間では仮人体は一人ずつ、降臨は一番コストの低い契約済みの天国の死者で一日三時間以内が相場だ。

 同じく契約済みの天国の死者なら喚べる回数は他の魔法を一切使わないとして休憩も必要だから一日三回、地獄の死者はもっと少ない。つまり三時間以内に勝負が決まる。

 三時間をじりじり延ばすのも手といえば手だが、魔力は少しずつ増えたり減ったりはすれども劇的に増えたりはしないのだ。

 なお契約すれば召喚時の魔力消費は軽減されるもよう。だから死霊術師はできるだけ強力な死者と契約しようとするのだ。

 死者との契約は様々なものがある。ここまでに出てきた死者たちを例にとって説明しよう。

 まず、お互いの名前を告げあい、協議の末に決まるのが基礎にして最良の契約。見返りはそこで決める。

 イルマの初めての死者・オニビはまさにそれである。彼との契約の条件は「野菜もしっかり食べること」。もちろん守っている。

 欲がなく難しい見返りを求められにくいのが天国の死者のいいところ。何を求められるかわからないが、地獄の死者相手にも使える。

 次に、何人かの死者と契約してからでなければ使えない方法。

 契約済みの死者と何らかの関係を持つ別の死者が、契約済みの死者を通して自分を売り込んでくるパターン。こちらは本人も暇つぶしに契約することが多く、見返りを求められることはまずない。

 セキショウとフロイトがこのパターンだ。セキショウは革命の時の戦友であるオニビとイルマが契約したのが直接の原因らしいが、それまでに何人を召喚して契約が破談になったり成立したりしただろう。

 術師の方にもそれなりの力量が求められる契約でもあるのだ。

 フロイトはフロストと契約したらおまけでついてきた。ん?完全にパターンに入っているわけでもないかも?特殊例ってことで一つ。

 三つめは交換契約と一般に言われる。少し複雑な話である。

 天国より地獄の方で多い。というのも人間は転生する。転生してしまうと当然その死者は喚べなくなる。これは契約した死者が転生する前に、別の死者に同じ内容の契約を引き継がせてくれるものだ。

 ただし、これは死者の純然たる善意によって行われる。死者に愛されるある種の素質が必要になる。

 そして四つ目――普通、これが最後の選択肢だが、強制的に結ぶ契約。最初に挙げた基礎にして最良の方法とは真逆、最後に挙げる応用にして最悪の方法。

 死者を呼びだすのではなく、術師が死者の方へ訪ねるのだ。その先は地獄であったり天国であったり、死後の世界だ。しかしそこも物理的に存在する空間なので召喚の時の魔法を反転させれば着の身着のまま杖まで持って行ける。

 杖まで持って、何をするのかというと、ある意味で何をするかはもう決まっているのだが、何をするのかというと、だ。

――相手の死者と戦うのだ。

 この方法でしか契約が結べない死者は、英雄や王族、重犯罪者などプライドが高く使役されることに拒否を示すもの。つまり、そちらのお手並みも相当に。

 命がけの死闘だ。相手はとっくの昔に死んでいるけれど、生きている術師はうっかり負ければあの世行きだ。

 そのうえ死なない・疲れない・痛みを感じないの三拍子がそろった相手に戦い続けて負けを認めさせねばならない。分が悪すぎるのだ。

 しかし、この方法でもイルマは既に契約を完成している。ここまでに出てきた死者としてはフロストがそうだ。

 本人にしてみれば論外の雑魚を払い落とすだけのつもりだったらしく手加減してくれていたが、めちゃくちゃ強かった。イルマは何度か死を覚悟した。片腕も持っていかれた。おそらく彼らは『論外の雑魚』の判定が広すぎるのである。

 さて、ここまで書いて「わざわざ契約なんかしなくてもいいんじゃないの?」と思った方もあるだろう。

 もちろん契約しなくても死霊術自体は発動する。

 ただし、召喚する死者が指定されない。指定されるとしてざっくり『天国』『地獄』『それ以外』程度だ。出てくる死者はランダムなのだ。

 さらに契約を結んでおけばその死者を自分だけの下僕として使える。喚ぼうとしたら別の誰かがちょうど喚び出してて~、なんてこともなくなる。

 だから死霊術師同士が敵対した時は契約している死者の人数と質が一番、勝敗を分かつ。これらは召喚術師にも言えることだ。イルマに言わせれば他の魔法を使えよ、だが。

 さてさてさて閑話休題。

 この思いがけず手に入ってしまった『余暇』をいかにして消費してくれよう。ここは中途半端に都会だから観光すべきものも特にないが、一応人間なんだしどこにでもある女神のお社でも行くか。そう思って窓を見たが、あいにくの雨。

 梅雨入りだ。タイミングが悪い。長々と息を吐いてベッドに倒れ込む。まるで缶詰だ。みんな死ねばいいのに、とか心にもないことを言ってみる。

 いや、なくはないのか。

「……くぁ」

 何だか眠いな。不意にそう思った。おいおい、まだ日は高いぞ。雨雲のせいで真っ暗だけどな。呟いてみたが眠いものは眠い。

 暗いんだから寝てていいだろう。うん。

どうやって死人を呼び出すのかって話です。

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