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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
過ぎ去ったあれやこれ
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夢幻の剣

やったね本編ちゃん、死人が増えるよ!な話です。回想には死人が、いっぱいもいないのか。本編は万年死人不足ですのでここで増えます。

 五つ目の依頼はここまでと比べれば圧倒的にましだった。ここまで、のせいでそもそもの期待値が低すぎたせいもあるだろうがましだった。乙種だから、というより死霊術師という方で選ばれたらしい。贅沢なことだ。

「今度は剣道場のおじいさんがぎっくり腰で入院してるけど大会が近いから剣がうまい死者を呼んで講師役をしてほしいんだって」

「平和ですねえ。僕もできますけど、剣」

 できますけど!自分できますけど!何も言わないがその目がそう訴えかけている。はいはいまぶしいまぶしい。

 さっき自販機で買った2カウロ(日本円にして100円前後)の天然水を一口飲みこむ。うーん悪くない。

「じゃあ働いてくれたまえ。護身用程度の私はのんびり見学してるから」

 わーいなのだろう、くねくねと謎の踊りを始める助手。他人のふりはまあ容赦して、こーんと杖を地面に突き立てる。血染めじゃないほうである。

「セキショウさん、来て」

 目の前に背の低い男が現れた。150センチくらいだろうか。

 袖や裾がゆったりしたオリエンタルなデザインの衣服を着ている。袴もひらひらと膨らんでいる。頭はぼさぼさと広がった短く刈られた髪型だが、後頭部のひと房だけ長い三つ編みになっている。

 これは辮髪と言って昔神聖大陸の東方の国の民族がしていた髪型だ。

 文化のごった煮であるところのコルヌタでは身近な理髪店のメニューに見ることができる。ただし……実際に注文した人間をこの目で見たことはまだない、とも言っておこう。

 胸元や肩のあたりを皮革製の小さな札をカラフルな細い布で綴り合せてできた鎧が覆っているが、可動部が一切存在せず肩より少し下に巻き付くようなこの形では腕の動きを制限してしまうだろう。

 その上面積が小さい。ちょっと胸元・肩の一部を覆うだけという感じだ。しかも若干浮いている。密着していない。彼が他につけている防具といえばこれと、簡単なつくりの革の手甲くらいだ。

 足元はただのショートブーツである。イルマのブーツの方がつま先に金属板が入っている分防御力がありそうだ。

 一番奇妙なのは、彼が刀剣の類を一切身に着けていないことだった。

「よう、いーちゃん。今日は何を斬るんだ?俺の剣が唸るぜ」

 もう一度言う。

 彼は刀剣の類を一切身に着けていない。

「前はドラゴンとかだったからなあ。やっぱり斬るのは人間に限るぜ」

 剣を手に何かを斬り下ろすような動きをしているが、その手には何もない。刀剣なんかどこにもない。ないもんはない。ないのだ。

「で?誰を斬ってほしいんだ?うるさい男か?しつこい女か?両方ってこともあらァな?俺に斬れないものはねーぞ、ええ?」

 何度でも言おう。だから、彼は刀剣、いや刃物、金属バットですら持っていない。持ってないったら持ってないのだ。今まで踊っていたユングが眉をひそめてひそひそと耳打ちする。

「……何ですか、この変則タイプのドリーマーは」

「古流武術『御神楽』のセキショウ流のひとだよ。襲名制度っていうのがあって、セキショウって名乗ってる」

「……セキショウ流って危ないお薬をお飲みになるご習慣がおありで?」

「ないはずだよ、私はこの人しか呼べないからわからないけど」

「ほんとに革命の英雄・幻剣士なんでしょうね……」

「そのはずなんだけどな……大丈夫だよ、実力は本物だからさ」

――あれ?ユングに彼が革命の英雄なんて言ったっけ?まあいいか。

 何も持たずに素振りをする剣士を目の前にユングが渋い顔をする。近くのテラスにいるカップルは剣を持っていない自称剣士のことなど目に入っていない模様でのんびりお茶をしている。

「聞こえてるぞ、そこのクソちび!」

「ちびとは何だちび!貴様の方が背が低いじゃないか!」

「おまえのじーちゃんどーえーむー!」

 何気ないこの煽り文句が温厚なユングを激昂させてしまった。

「貴様っ、おじいちゃんはその上ロリコンで下着フェチで臭いフェチでとにかく変態だったんだからな!中途半端に一つだけ挙げやがって!おじいちゃんに謝れ!」

 ん?一瞬セキショウが眉を寄せて言葉を止めた。何あるか今のコトバ、私ちょとワカラナイ。ぼそっと呟いたコルヌタ語がちょっと片言になっていた。

「……謝るべきは君じゃないかい、ユング」

「うん、俺もそこまで言ってないから」

「何だと!?貴様はおじいちゃんがどMでこそあれロリコンでも下着フェチでも臭いフェチでも仮にも実の孫であるはずのショタにも欲情してしまうペド野郎でもロープか手錠を見るだけでドキドキする拘束マニアでもないと言ったんだぞ!?これが中途半端でないわけがあるか!」

 近くのテラスでお茶をしていたカップルが紅茶を噴いた。

 たまたまその近くにいた店員が吹き出しそうになりながらカップルのテーブルを掃除した。

「お、落ち着こう。落ち着くんだ、ユング。ね?もうわかったから。わかったから、ね?」

「うん、悪かった。俺が悪かったよ。だから、その、な?落ち着け」

 どうどう。どうどうどう。二人でユングをなだめる。この後も落ち着くまでしばらく彼はとても人には聞かせられないような発言を繰り返した。普段怒らない人が怒ると何とやらってやつだ。

 剣道場に来たころにはイルマはもちろん死者だから疲れることがないはずのセキショウまでが疲れ切っていた。精神的な疲労が深刻だ。

「だ、大丈夫ですか?」

 依頼主である剣道場の首席がそう聞いてきたのも決して無理のあることではない。仏頂面のままでユングが「大丈夫です」とぶっきらぼうに返答する。

 おろおろする生徒たちが哀れといえば哀れだが、イルマにはどうすることもできない。

「仕方ないよね、ししょー」

主人公の死者は精鋭ぞろいですか?この回から考えてみたらそんなこともないですか?

あちこち誤変換がありますが、気づいたら直しています。

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