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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
過ぎ去ったあれやこれ
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ひとまずの解決

書き溜めていた分が消化されたので大分筆が遅くなっております。どうやって書くのが一番効率がいいのでしょう?

今度は、回想しません。話が進みます。

「ねーね、ユングこの集落の昔話は知ってる?」

 勿論ですよ。ぐったりしている騎士を一体背負って歩きながら彼は笑った。鎧の重装備なのによく平気で背負えるものだ。

「その昔、勇者イオナズンが山に迷い込んでしまった時のこと。延々と続く吹雪と心まで凍り付くかと思われるような白い景色に凍えて女神に助けを求めると、雪の中に見たこともない人々と集落が現れて彼を助けました。集落の民はやがてそこに住み着いた、とか」

「ううん、そっちじゃないよ。えーと……盗賊が、どうとか。知らない?」

「知りませんね……すみません。まあ僕の地元だと、彼と戦った魔王ヒャダルゴの方が人気がありましたからね」

 さすがは魔界だ――イルマの脳内に往来した昔話は霞のようにどこかに消えてしまった。

「え、魔界でも人気とかあるの?」

 文字通り魔物の世界で人なんか住んでないと思うけどなあ。

「ありますよ、失礼だなあ」ぶー、と魔族Aが頬を膨らませた。

「人間はいなくとも魔族はいますからね。彼の出身地である毒沼密集地帯ではあやかってヒャダルゴ最中がお土産として販売されています」

 最中とは、あの最中のことで、ということは餡子の入ってるお菓子のことだ。

「最中!?売られてるの!?しかもそんな名前なのに毒沼出身なの!?」

 てっきり氷山だと思っていた。

「はい。そこから少し行ったアニムス大雪原には彼の城の跡があって、そっちには『ひゃだるごくん』というゆるキャラがいますよ」

「いるの!?」

 しかも平仮名。

「はい。第3708回全魔界ゆるキャラコンテストで史上初の2Vを遂げ、今は殿堂入りして審査員をやっていますよ。後で僕のスマホから画像見せましょうか?祖父と一緒に記念撮影をしてもらった時のがありますよ」

 ス、スマホだと!?ブルジョワめ!うわああああ!イルマの中の何かが猛ダッシュで何かに特攻していった。なにこれ怖い。

「じゃあ誰に撮ってもらったの?オフィーリアさんは……身体が水だからスマホ壊れちゃうね」

「え?スマホは生活防水ですよ。おばあちゃんがうっかり触って壊したら困るので」

「あ、そ、そっか。そういう機能、あったっけね。うん。あるよね」

 こんなばかばかしい会話をしながら二人は日が暮れる前に集落へ戻ってきた。掃討は終えた。

 オフィーリアの能力で死なない程度に喋れる程度に血流を停滞させているから動けはすまい。凍死?するならしやがれ。

「と、いうわけで森の盗賊は片付いたよ。こっちのぐったりしてるのが今回捕らえたサンプル。金は指定の口座に振り込んでくれたまえ」

「は、はぁ……」ちょっと困惑を臭わせて酋長は答えた。「ずいぶん、早かったですね……」

 違和感を覚えるユングと感じ方が違うのか、イルマは淡々と受け答えを続ける。

「これでも乙種だからね。騎士崩れの相手くらい全然平気だよ。それとも何か」

 底冷えのする笑みを少女は浮かべた。凍った地面をとらえる手元の杖は血に染まり、血に塗れている。

「……私が早く帰ってくると、困るわけでもあるのかな?」

 あはははははは。あはは。あはははは。少女は少女らしい無邪気な笑い声を立てた。しかし目はちっとも笑っていない。

 血染めの杖を中心にくるりくるりと楽しげに回って見せる。変な踊り以外何物でもないが無駄にかわいい。

 顔の造作や髪の感じ、キラキラした大きな瞳、のびやかな肢体といったものももちろん関わっているのだろうが、それ以上に本人が自分自身のかわいらしさを十分理解していることが挙げられるだろう。

 といっても思い上がっているわけではない。それどころか身の程を弁えているのだ。私のかわいさはここから、ここまで。だからかわいく見えるのはここからここまでで、ちょっと大人っぽく色っぽく見えるのはあそこからあそこまで。

 もちろん自分のことだから誰よりも知っている。どの角度から見た顔が一番美しいか?どの色の光の中にたたずめば一番愛くるしいか?どう立つのが雄々しいか?よく知っている。理解の上での行動だ。

「あははっ」


「…………」

 天国は今日も平和だった。ちょうど女神の巡回だ。天使たちが輿を担いでいて、その上に虚ろな目をした女が座っている。

 女の髪は真珠のように白い。白くて、とても長い。見開いた大きな瞳は漆黒。強い意志を感じさせる顔をしているが、その目は何も見ていない。

 耳は何も聞いていない。感情はない。知性すらない。露出度の高い服装だがこれでは媚態とは言えない。すらりと伸びた脚は動かない。

 彼女が、創世三神の一柱。名をヒアという女神である。

 天帝であるアクトと恋人同士だったが、ある時魔神コールがアクトを殺し、それがもとで気が狂った。かつて絢爛な布を織ったといわれる手は今白い布きれを無意味に弄んでいるだけだ。

 恋人を殺されて気が狂った。

「………っ」

 そういうことに、なっている。

「―――」

 薄紅に色づく唇が何か言葉を発するときのように開閉した。天使の一人がその顔を覗き込む。わずかに知性が戻っているようだ。いつもの発作か、それとも回復か。期待を込めて、女神さま、と呼びかける。

 細い指に異常な力がこもり、女の手元で白い布切れが引き裂けた。

「きゃああああああああああああああああああっ!」

 耳をつんざく絶叫が細い喉から発せられた。天使は思わず耳をふさぐ。もしかして、の希望が虚空に消えていく。発作の方だった。いつものことだ。こうなったらしばらく悲鳴を上げ続ける。

「うあああああああっ!あ、あああああああ!ぎゅああああああぁあああああああっ!」

 彼女自身は自分がどうして悲鳴を上げているのか、その意味すら分かっていないだろう。意味も分からず声が枯れるまで悲鳴を上げる。そのわけは天使たちにも実はよくわからない。

 大昔、今と同じ彼女の悲鳴を聞いて天使たちは駆け付けた。そこには創世三神が皆そろっていた。血まみれで立ちすくむ女神、ヒア。胸を刺されて倒れている天帝、アクト。返り血を浴びてその前で剣を持っている魔神、コール。

 アクトは死ぬ前にヒアではなくコールを見て、なぜか「ありがとう、すまない」と言った。被害者が加害者に向ける言葉としては一種異様である。

 天使たちは困惑した。ただその中で大天使は何か知っているのか一人、渋い顔をしていた。

 コールは剣を汚いものでも触っているかのように投げ捨て、ヒアに向き直り左右に首を振った。

 それから、他の神々と協議して魔神を封印することが決まるまで彼女はずっと心ここにあらずといった状態で、ろくな証言ができなかった。封印に、魔神は抵抗しなかった。

 女神に異変が起きたのは魔神が封印された直後である。

――あなたは何もかも無駄だと言うのですか

 突然そう呟いて、何かが壊れたように品性も何もなくゲタゲタと笑い出したのだ。何が壊れたって心が壊れていた。そのうち笑うのが止まって今に至る。

 だから時折、天使は思うのだ。

 もしかすると、天帝を殺したのは魔神ではなく女神なのではないかと。動機は……魔神が彼を殺した理由よりは想像がつく。だが、この想像は無意味だ。魔神が自分にかかった疑いを晴らそうとしなかった時点で、詰んでいる。

 彼は天帝が生きていることはまるで知らないから、ここから進むことができない。

この話の魔法使いたちが使っている杖はけっこう重いようですね。そこそこは鍛えられている、のか?マントも羊毛混の化学繊維だから重いはず。

……その辺の設定を今度、いつかの登場人物紹介のような形式で紹介していきましょうか。

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