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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
前フリ
389/398

チキチキ救出劇

 本編です。苦手なのにスピード感ある文章に挑戦する愚かなありんこをゆるして。

「うがああああ!」

 壁の崩れる音は向こうでも聞こえていたらしい。待ち構えていたミノタウロスが叫んだ。生き物の住処の排泄物や餌の混じった生温かい臭いが唾と一緒に浴びせかけられる。

 後で顔を洗おう。

 こいつらは魔法も特に使わない。大して知能も高くない。さほど高位の魔物でもないが、力が強いから真面目に相手をしないほうがいい。

 さっと前へ出る。

 予想通り自分に向けて振りかぶられたこん棒。だがすでにイルマは回避を始めていた。

 下へ身体をそらしてくぐってそのまま股の下を仰向けに滑り込む。女の子だ。空ぶったこん棒は頭の上の床へ叩き付けられて轟音と埃が立ち込めた。頭に響く音だ。顔をしかめる。

 頭上では牛そっくりな頭部のこれまた牛そっくりな眼球からレイピアが突きこまれる。今までと異なるタイプの生臭さが押し寄せた。脳を切り刻まれた一体目が「あがが」とか何とか言って倒れこむ。

 その音を背後に聞きながら天井へひも付きナイフを飛ばす。紐を強く引いて地面を蹴り、飛びあがる。二体目の角をギリギリ飛び越えて振り子のように三体目の脇をすり抜ける。

 微かな刃鳴り。飛んでくる少女に驚いた二体目はその一瞬が命取りになった。さっと懐に手を突っ込む。

 三体目は一回り小さいな。そうするとコイツが誘拐の実行犯か。しかしまだ……結構いっぱいいるな。集会場か何かか?だとすると長居は禁物。取り出した拳銃で威嚇射撃を行いつつ走って間合いから脱出し、どでんと置かれた石板へたどり着いた。

 番をしていた奴はもう逃げたようだが、おそらくここが『厨房』だ。

 うむ、しかし見事なまな板だ。やはり石板だけでなく上に木の板を置いたほうが刃当たりがいいんだな。

 世の男性は誤解してらっしゃる方が多いが、真のまな板とは何もない絶壁で硬いものを指すのではなく少しぷにっとして柔らかいものを指すのだ。

 その点ここのまな板はちゃんと柔らかそうで頭の横には切れ味の良さそうな黒曜石のナイフが置いてある。うん、このナイフ持って帰ろう。

「かくほー」

 着ていた服で手足を縛られた全裸の幼女にビニールシートをかけつつ言ったが、ユングは聞いてなさそうだった。まったく不必要なのだが、あれはミノタウロスを狩りに行っている。

「絶滅させんなよー」

「はい!根絶します!」

 あれは駄目だな。会話が成立しない感じだ。生き残ったミノタウロスがどこかへ逃げていく。ガルルルと助手が唸るのを聞いた。

「おおい、追うなよー」

 なお幼女は解かない。むしろ邪魔だ。前に師と来たときはたまたま捕まっていた子をイルマが救出してきて、その子が叫んだので魔物に囲まれたっけ。懐かしい。

 確かその時の子は何者かに手足の関節をすべて抜かれた状態で帰還したはずだ。誰にとは言わないが。あの子は今どうしてるのかな。男の子が号泣してるのなんてあの時初めて見た。

 今回はそんなことをする必要はなさそうだ。ミノタウロスはいい仕事をした。しっかり猿轡もかましてある。ビニールシートで簀巻きにしてハイエースするとしよう。

「あとは金品の回収を済ませれば、極悪人だな」

 何となく師の口調をまねてそんなことを言ってニヤッとする。相手が人間だったら強盗殺人及び誘拐の罪が成立するだろう。

 厨房を漁りつつ、他の部屋を探す。問屋に売るほどの手工芸品があるかどうかはアレだが、時空のゆがみのある迷宮内で一定期間道具として利用された物はそれだけで価値がある。

 主に魔力の増幅・変換といった目的に使うほか、小物入れやオシャンティな食器として活用する。また、まれに彼らは日用品の材料に魔力の結晶を使うというブルジョワプレイをしてくれるのでそれはそれで何かと使える。

 罪悪感などはない。

 簀巻き片手に物色を済ませると終了のお知らせがあった。ユングが仕留めたミノタウロスを捌く。全体を持っていくのは無理があるから、おいしい内臓だけポリ袋に入れて持ち帰るのだ。状態がよければ売れる。悪かったら鍋にでもしよう。

「あの先生」

「なにー?」

 正気に戻ったユングが剣についた脳ミソの破片を振り落としながら、イルマの抱える包みを指さした。

「僕らのこと、ちゃんと説明してあげたほうがよいのでは?」

「だれに?」

 いやほら、ともう一度包みを指さす。荷物がどうしたのかな?少し包みを解いて覗き込むと、そこには涙目でイルマを見上げる幼女の姿があった。静かに包みを戻す。

「あーそういうことね。完璧に理解した」

「絶対わかってないですよね。こら、そこ梱包戻さない。説明責任を果たす!」

 面倒だったが、しぶしぶ幼女の顔だけ露出させる。猿轡はそのままでよかろう。

「えーとね、私たちは怪しいものじゃないよ。魔導師でね。君が落ちたから助けに行くよう頼まれて来たんだ。猿轡とその拘束については、そうだね、ここはまだ危ないから、声を出されると困るんだよね。安全地帯まで運んだら解いてあげようねー」

 救出より強奪のほうが多いかもしれないですね。時にサルの脳ミソっておいしいんでしょうか?

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