捜索中
本編です。ケツ派と乳派……うーん。
内部はまさしく迷宮だった。湿った石に上下左右を囲まれた細い通路が曲がりくねって延々と続く。しかし階段は降りるほうしかない。
この狭さならワームでも入ってこられるのは幼体だけだ。しかもこの辺りはネズミの住処でもない。懐中電灯を点けても良さそうだったが、ユングはそうはしなかった。暗いのに目が慣れてきたとか、そもそも視力はあまりよくないからという理由もある。
でも一番は違う。
この暗い細い道は、電灯を点けると一気に明るくなる。白っぽい石に四方を囲まれているからだが、それが嫌だ。
何もないただ木の根のところどころ突き出た同じような壁と天井と床がひたすら続くのだ。壁には絵があるが、それが逆に精神衛生によろしくなかった。
「ねえ見て見て。伸びてるんだけど!」
「ソウデスネ」
度重なる分解と再構成によるものか、絵はグニャグニャと歪んでいた。ただでさえ独特なタッチがさらに歪んでいるのだ。気持ち悪い。
イルマは懐中電灯でそれらを照らして喜んでいるが、ユングはそんな気になれない。また、歪んでいるといっても、何が描いてあるのかわからないわけではない。
「うわ!これホモだよ!きっとホモだ!生えてるもん!ていうかお稚児さん食べてない?料理的な意味で!唐揚げなのか煮込みなのかわからないけど」
「ハア」
そしてその内容がまた精神によろしくなかった。何を目的とした建造物だったのだろう。
あまり知りたくはないが、責任者に弁解させたい気分だ。小一時間「何でこれ作ろうと思ったの?」と問い詰めたい。
「まみどり!溶けてる!グリーン姉さんだよこれ間違いないよ!あれ?何でメガネ外したのさ」
「……レンズの重みが鼻にかかってて」
「ふうん?」
しばらくして迷路の入り口みたいなところへ出た。右へも左へも曲がり角がある。上りも下りも階段がある。地味に上りはここが初めてだ。
壁に手形なんかは捺されていない。イルマはその場に膝をついて床を見た。つんのめったり引っ掛かったりしてゴム底が強くこすった跡を探すのだ。しかし、意外なことにそんなようなものはなかった。幼女は冷静に足元に気を付けて歩いたのか?
「冷静かましてんじゃねえぞおい……」
膝の付き損だった。最初から幼女救出作戦なら下足痕採取キットを持ってきたのだが、鞄にあるのはあくまで魔物の間引きと『まあまあなんにでも対処できるキット』である。
ダメもとでアイシャドーかファンデーションの粉を撒いてみるか?これだけ湿度が高いとほとんど見えないと思うけど。もったいないから使いたくないけど。
「ねー、先生先生」
頭上から暢気な声がした。
「うるさいなあ。私は今考えてるんだよ……」
「ですから、先生」土下座みたいな姿勢のまま考えているイルマの尻と思しき部分を見ながら、ユングはためらいがちに言った。「なぜ幼女が自分で歩いた前提なんでしょうか」
黒っぽいマントの下の尻が若干動いた。やはり尻だった。動きでわかる。
「どんなに気を付けても灯りのない状態で転ばずに歩くことはできないと思います。歩かなかったのではないでしょうか?」
「つまり、この道じゃなかったってことかい?」
いいえ。首を振る。広間でイルマが見つけた痕跡は正しいだろう。ユングは目が悪いからよくわからないが、そう思う。
「彼女が、何者かによって運ばれていったとしたら?」
「……あっ!」
なぜその可能性を最初に考えなかったんだろう。イルマは頭を抱えた。だがそんなことしてる場合じゃないのでさっさと立ち上がる。
天井は二メートル弱の高さ。幅はどうだ。ユングにはなぜかイルマの後を三歩空けてついてくる習性があるが、二人並んで歩くことは必ずしも不可能ではない。とすると、ここに入れるのはワームの幼体と、若いミノタウロス。
その場で食わず攫うのはミノタウロスだ。