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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
死と乙女
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入り込むものたち

 本編です。わーむ。

「素直に落ちてたら彼女が有り余る母性で受け止めてくれたのにぃ。でもすごかったですよアレ!もっかいやってください!」

「ぼせ……?あー経産婦なのかね」

 メスで産卵経験ありと。人間だって身長と体重だけで見れば性差などあってないようなものなのに実際に見てみれば男女と年齢がわかるから同じなのかもしれない。

 イルマは『さっきの』をユングに向けた。つまりナイフを投げつけた。普通にキャッチされた。くそっ腹立つ。

「違うのに……僕はただ、あのばびゅんってなるのが見たかっただけなのに……」

「嫌だよ痛いもん。ナイフ返して」

 ナイフをしまいながらちょっと上を見た。思ったより高くない。ビルの五階相当だ。だがすごく長いこと落ちていたような気がする。

 電波塔から(ユングが)飛び降りた時より長く感じる。走馬燈だろうか。しかしワームクッションもあるわけだし、受け身を取れば無傷で着地できるだろう。その程度のことで走馬燈見た私って一体。考えると頭がくらくらした。

 ユングの言うとおりだ。素直に落ちていればよかった。ばびゅんの必要性は全くなかったのである。だが殴らないなんて言ってない。ごいん。

「あでっ。ばびゅんしても痛くないですよ。彼女の上に落ちるようにすればいいです!」

 ノーダメージか。わかってた。腕力落ちてるのかね?最近ほとんど引きこもりだったからなまっているのだろう。注意注意。

「あまり上で騒ぐとのちのち怒られるよ。もう騒いだけど……ロリはこの辺にはとどまってくれてないみたいだね」

 無理やり話を戻す。時は百万両なりって石川とかゴエモンとかって人も言ってたよね。ときに百万両って何ギデンくらいかな?

 その時白大福が怪しい笑みを浮かべた。

「ぶっ。先生だってロリのくせに」

「食らえ、大自然の力!」

 今度はユングがばびゅんと飛ぶ番だった。紐をセットして打ち上げてやった。途中で壁にぶち当たって角度をつけて落ちてきた。どういうわけか奴の下にはいい感じに尖った金属のモニュメントがあるが、彼も魔導師だ。自力で何とかするだろう。

「落ちた先にお母さんが寝てたらびっくりしますからね。夢中で逃げたのでは?……先生、顔が歪んでますよ」

「そのお母さんの上で馬鹿なこと言ってたのはどこの誰だったかなと思ってさ」

 普通に帰ってこられるとそれはそれで困った気分だ。

「やだなー。僕だってロリの気持ちになって考えるくらいしますよー」

 うらやましいと思う。その身体能力、身長、体重。およそ資質と呼ばれるもの。だからってアホにはなりたくないが、イルマにはユングのような資質はない。宝を持ち腐れることはないが、腐るほどの宝はないのだ。

 例えば、同じくらい体格や腕力があったらあの時ユングを引きずり出せた。同じくらい耳や鼻がよかったら気づいて躱せた。

 ていうか、女で子供だから舐められたんだろう。あの手の奴は反撃されそうな相手には仕掛けない。熱視覚があれば今だってわざわざ痛い思いをすることもなくて、と、そこまで考えたところでイルマは一人頷いた。

「……なるほどなあ」

「先生?」

 いやなんでもないよ、と首を振る。意味もなく視線を宙にやる。これが嫉妬か。いやそんなのはどうでもいい。周囲を見回す。ドーム状の天井がある、広間のような場所だ。多目的ホールだろう、たぶん。

 微妙な位置にやたらと鋭利な例の金属のモニュメントがある。あれは再構成の時に移動してきたのか、本当はもっとたくさんあって並んでいたのか。

 一か所に瓦礫が崩れてできたような穴があって地上へつながっている。部屋全体は膨らみを持たせた八角形で、それぞれの辺から暗く細い通路が伸びていた。

 ワームお母さんは今日再構成が起こるまでに目覚めたら、地上へ出る以外の選択肢がないだろう。あれはさすがに通れない。

 彼らは恣意的に変形させられる柔軟で強靭な骨格を持っている。この上滑らかな鱗、やわらか皮下脂肪のおかげで頭さえ通ればどんな狭い隙間にも入り込める。ちなみに打撃系武器もほとんど効かない。

 脂肪に加えて内臓も動くので一般的な刃物で切り付けてもなかなか致命傷にはならない。仕留めるなら頭部、つまり脳を狙って一撃必殺が理想だという。

 その頭だってパンケーキみたいに縦方向に平べったくできるのだ。回避にも役立っている。脳ミソどうなってるのかあまり考えたくない特技である。

 さらに頭に平均的には8本くらいある角は、基部である程度動かせる。普段は寝かせておいて、天敵に穴から引きずり出されそうになったら逆立ててアンカーとして使うのだ。

 なお、尾のほうは齧られたり溶かされたりしても平気らしい。コルヌタ人はこの習性を利用して、大物のワームを巣穴に追い込みしっぽを切り取る狩猟法を用いてきた。仕留めるのが難しいので仕留めないのである。この技法は『尾齧り』と呼ばれている。

 それでもさすがに通れないはずだ。質量保存の法則まではどうにもならない。

「どっちへ行ったんでしょうね。痕跡とか残ってないですか?」

「痕跡ねえ」

 床に目をやった。まだ新しい、躓いたような跡がある。イルマは派手に突っ込んだし、ユングは槍をかたどったと思しきオブジェにうまく着地したから違うだろう。ここに住む魔物は暗さやでこぼこの足元に慣れているから躓くことはない。

「たぶんアレ。行くよー」

「はーい」

ミセスワーム(あ、やっといなくなった……)

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