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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
死と乙女
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求められた仕事

 どうもお久しぶりです。筋肉痛です。本編ですね。

 人類というものは多種多様な文化を持ちそれぞれ特殊な進化を歩むものだが、何事にも例外はある。分かれていくものだといいながら、似たような発展をしている部分があるのだ。

 魔法があろうとなかろうと、人類がいる限り、一つだけ変わらないものがある。世の中には二つの性があり男がいれば女がいる。

 逆もまた然り。

 かつてコルヌタには公娼制度があった。めちゃくちゃ昔の話だがあった。今は公的には禁じられているが、売春業は細々と続いている。

 俗に風俗、プチエンジェル、ヘルスなどと呼ぶ。売春とは何をするのかといえば、気持ちいいことをして報酬を得るのである。これで食っている女性・まれに男性たちは共通して一つ憂慮するものがある。

 妊娠。性病を別にすればこれだ。うっかりできちゃったりすると困る。堕胎することもできるがそれは流産しやすくなるというリスクもあることだしいささか面倒だ。避妊という選択肢はごくごく当たり前に現れることだろう。

 世の中には避妊魔法という魔法がある。一定期間、対象者が妊娠したりさせたりしないようになるのだ。産婦人科・泌尿器科でもかけてもらうことができるが、多くは最寄りの魔法使いたちに依頼する。

 先人たちの涙ぐましい努力によって成功率100パーセントの有能すぎる魔法になっているが、それでも魔法は腕が確かな誰かにしてもらいたいのだ。素人より医者、医者より魔術師、魔術師よりは魔導師。

 たとえ本当でも、失敗しないという宣言は第三者からいただきたい。そう、大魔導協会とか。

 避妊魔法はイルマにとっても大事な収入源である。ししょーの顧客を受け継ぎ、ばっちりお仕事している。見た目というか年齢は不安要素があるが、資格は本物だ。この顧客をなくさないためにイルマがすべきは周期把握である。

 避妊魔法で避妊できるのはある一定の期間のみだ。毎回会うわけにもいかないので対象者に魔法陣を仕込み、対象者自身の魔力で回すのが現在メジャーな避妊魔法だ。

 とはいえ、現代の魔法でも具現を除けば永遠に存在し続けるものはまだない。この例外については魔法なのは過程であって結果として残るのは実体だからという説もあるが、ともかく、永遠には続かないのだ。

 それも年単位はまだなくて、実用化されているのは三か月と半年の二種類だ。年単位のブツについてはそれこそリリアのお友達が必死こいて研究していることだろう。

 つまり、そろそろ事務所を開けないと避妊魔法を必要とする皆さんが困るのだった。庶民の味方ということで売っている自営業の魔導師としては答えないわけにはいかない。

 案の定、事務所を開けてみたら大量のお姉さん方がやってきた。はい押さない押さない。ユングにチラシで整理券を作らせて待ってもらう。

 一定期間効果が続く魔法・呪術でも、他の魔法と原理は同じだ。詠唱はガンガン略して流れ作業である。なお、避妊魔法は任意の場所の皮膚に魔法陣と同じ形の痣を浮かび上がらせるので発動しているかどうかは外からわかる。

 どうやら、下腹部に痣が浮き上がるほうがお客さんが喜ぶらしい。

「ひとまず一週間開けとくから、何かあったら来てねー。後はその、頭と相談ってことで」

 何かなんてあるわけもないがそう言っておく。うまくやれば、この先一週間で新たな顧客が手に入るかもしれない。

 人間は「いつでもあるよ、いつでもおいで」と言われるより「ここからここまでしかないから」と言われたほうが行きやすい困った生き物だ。ほんとやめてほしい。

 なのでこのタイミングに「塔の魔女?試しに行ってみるか」と思ってくれる人がいたら万々歳なのである。


「で……わかってて聞きますけど、結果はいかがでした?」

「いつもと同じでしたよーだ」

 何も起きなかった。一週間たって清算したところ、いつもの避妊魔法更新期と何ら変わらない結果が出た。新たな顧客なんていなかった。あまり繁盛しても微妙な気分になる分野だが、いつもと同じというのもまた微妙なものである。

「これからどうします」

「拗ねます」イルマは机に突っ伏した。「冗談。いつも通り、頑張ってお仕事するよ」

 減っていたわけではないのだ。明日から頑張る。明日から。

「本当?」

「本当だよう。それが証拠に、見たまえ!」

 がばっと顔を上げ、イルマはカレンダーを指さした。明日の日付に赤丸がついている。

「生理日予測ですか」

「違うよ。大体ね、私はもっとこう――ってそんなことはいいんだよ。君も生理とか言ってたら引かれるぞ。特に好きな人の前とかで言うとフラれちゃうよーエッチできないよー」

 ひとまずユングは首をすくめた。いらない気遣いだと思った。そもそもイルマみたいなフェミニンのfの字もないメスの生命体にしかこんなことは言わない。それに彼はもう恋なんて散々だった。闘争に生きるのだ!引かれるのは願ったり叶ったりだ。

「明日はね、カミュさんが来るんだよ」

「はあ」

「お仕事もってくるのさ。赤丸はその印だよっ」

 いつになく元気だ。休み癖の付いた自分を奮い立たせるためだろう。カミュが持ってくる仕事となると、割とヘビィなものになりそうだ。しかし。ユングはじろりとイルマの顔を見た。

「でも前までそんな印ありませんでしたよね」

「うっ」

「わかった、収入が少ないから他に書くことないんだ!うはははは!先生も落ちたものですね!」

 イルマは何も言わなかった。ただ机に突っ伏した。頭を抱えた。せんせー?声をかけるが動く気配がない。まさか。嫌な予感を胸にいそいそと近寄る。

「返す言葉もありませんです……」

「なんだあ」何だかほっとした。それから相手の言葉を反芻する。「駄目じゃないですか!全然駄目じゃないですか!どうするんですか!?本当どうするんですか!」

 うえー。肩を揺さぶるとイルマは弱弱しく呻いた。病院送りになったときより落ち込んでいる。これは観測史上最大の落ち込みだ。何だと、イルマとは落ち込む生き物だったというのか。驚きの発見である。

「ゆんぐー、お金ちょうだいー」

「先生がヒモになった!しかもお金ちょうだいってどういうことですかお金って!ストレートすぎますよ!せめてご飯とか!ブランドものとか!」

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