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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
死と乙女
382/398

そして昼

 続きですね。

「そこなんだよ。いいかい、魔法が発動しないことはあっても、別個体を喚び出すことはありえないんだ」

「え、でも……」

 ひとつメモに書き込んだ。『時間』だ。ユングはきっとこれを忘れている。

「四千年前だよ?四千年経過してるんだよ?」

「はあ、まあ」

 ほらやっぱりわかってないっ。うりうりとムチムチの頬を押す。押しまくる。

「耳かっぽじって聞きやがれ。……召喚術だって進歩しているのさ。この惨事のあと、召喚術は安全性を高める方向へ進化していった。そのくらい予想着くだろ?」

 まだ奴は何か言いたそうだったがうりうりを続ける。黙ってろ。

「お偉方が末端は死んでもいいとかほざいても、やっぱり末端は死にたかないのさ。現代じゃ、ランダム召喚ってのが別にある。ターゲットを絞るのさ。で、基本的に別の何かを喚び出しそうになると、術自体が止まるように設計されてんだ」

 言うだけ言ったところで手を離す。頬肉のボリュームが元あったくらいまで戻って、若干膨れた。

「それもそうですね……だけど」少し言い淀んで、新たな疑問を口にする。「だけど、それなら先生にやらせず、自分たちでやるのでは?」

「君は魔界で何をやっていたんだい?キリカが、ドラゴンが認めたのは私だよ?何の関係もないってったらあれだけど、別の魔導師が喚び出してあのひと納得すんの?」

 うー、でもでもー、とまだ言っているが、反論は見つからないようなので話を進める。あれは子供の駄々だ。

「『データが欲しい』っていうのはその通りだけど、だけってことはないね。データと同時に『ドラゴンを喚び出した魔導師』って生きたサンプルが欲しいんだ。学問の世界で重要視されるのは実証性だよ。成功した本人も必要なんだ」

 ぐうと唸る。ぐうの音は出るらしい。いや、腹の音かもしれない。

「最後に、『捨て駒扱い』。もうほとんどここまでで否定されたようなものだけど、とどめを刺しておこうね」

「あ、はい。とどめ……興奮してます」

 とうとう言語野にもM性感が侵食してきたか。こいつ最終的にはどうなるんだろう。風がそよいでるだけで身も世もなくよがり狂う人になるのか?ってか人なのか?それは人と呼べるのか?人ってなんだ?

 哲学をちょっと隅に追いやる。どうせわからない。とりあえず全部ユングが悪いんだ。いるましってる。

「そういう話、創作だとよくあるけど実際には少ないんだよね。いくら人員がいるといっても、命は一人に一つずつ、情報は空気に乗って拡散する。そのうち構成員がいなくなるよね」

 親密度が下がっていってあっという間にバッドエンドだ。選択肢によっては反乱されるというルートもある。

「わざと人を捨て駒のように扱い使い潰す組織なんて長続きしないんだよ。実際に組織の中で使い潰されてる例はうちのししょーと同じ、どこかの何かにロスがあってその埋め合わせのために潰れてる。潰そうと思って潰すのは追い出し部屋とか全体の利益にあまり関わらないところだね。翻って今の案件はどうよ」

 ドラゴンの召喚、もとい新たな魔法の開発。

「大事そうですね」

「大事だよ。使い潰せるようなヤツには回せないし回さない。それがまっとうな組織だ。大魔導協会がまっとうな組織かどうかは置いとくとしても、少なくとも人を使い潰せはしないよ」

 理由は大魔導協会の母体となったフィリフェル魔導結社の生い立ちによる。これは地位を得た魔導師たちをまとめ、結束させるための組織だ。

 先述のようにフィリフェルとは虐げられてきた魔法職と軍が一斉に反乱を起こして今の姿になった国。どちらかというと使い潰される側の集まりなのだ。

 悪いことを考えているやつはいるだろうが実行に移すと協会の理念を妄信している大多数から総スカンの目に遭ったりするに違いない。

「お昼ご飯作ろうか」

 イルマは立ち上がった。確認するまでもない。養分を摂ってゆっくり休もう。そうしたら頭痛もマシになるかもしれない。なってくれねば困る。何たって明日は事務所を開けないとだから。

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